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『ダダコ、そんなに急いで走っては転びますよ!』
左耳の後ろで一つに結んだ琥珀色の長い髪が、弾むように揺れる。右肩の上にしがみついている小さな生き物は彼女の右耳に向かって声を張り上げていた。
『コラダ! フッカ! 何をしているんです! ダダコを止めなさい!』
その生き物は必死の思いで後ろを向き、後を追ってきている少年二人に声をかけた。
「無理無理。僕らにダダコは捕まえらんないよ。ねぇ、フッカ?」
緩くウェーブのかかった白髪の少年が苦笑する。
「そうそう、フルだってわかってるだろ? ダダコはナンバー01。俺らは所詮下っ端なんだよなぁ」
ストレートの黒髪をさらさらとなびかせて、フッカと呼ばれた眼鏡の少年は諦めたような顔をした。
だめだ、これでは。
規則的なリズムで上下する少女の華奢な肩の上で、その小さなネズミ――フルはため息をついた。
「心配しなくても、直に止まるよ。もうすぐ着くもん」
ちらりとフルに視線を送り、爆走中の少女ダダコはにこりと笑った。そしてその言葉通り、徐々に減速し、止まる。
「遅いよ、二人共! 早くしないと置いてくからね!」
仁王立ちで勢いよく振り返り、うんざりした顔で走ってくる少年達に声を上げる。
「あのねぇ、いくらダダコが置いていきたくても、そうはいかないんだよ」
やっと追い付いた白髪の少年コラダが言う。
「そうそう、俺らは三人で一組なんだからな。残念でしたー」
フッカが皮肉な笑みを浮かべて言うと、彼の右肩に乗った白い蛙が小さく咳払いをする。
『あら、アタシの聞き間違いかしらね。三人って言ったかしら? アタシ達は含まれてないってわけぇ?』
「ご、ごめんってグニウ! 三人と三匹で一組の間違いだよ!」
フッカは慌てて肩の上の蛙に頭を下げる。
「フッカは早速グニウの尻に敷かれてるんだなぁ……」
コラダはそれをのんびりと見つめ、自分の肩の上にいる小鳥にそっと触れた。
「その点、僕のハナは大人しくていいなぁ」
『バディはね、ちゃんとバランスを考えて選ばれているの。私は差し詰め、癒し要員ってところかしらね』
そう言って、美しい真っ白な小鳥は得意気に胸を張った。
「ちょっとちょっと、早く行こうよ! あたしずぅーっと楽しみにしてたんだから!」
政府から支給された小型スペースシップ『GREEN MOLE号』の出入り口へと続くタラップの上で、ダダコがカンカンと音を立てながら地団駄を踏んでいる。その音に急かされ、二人と二匹はお互いに顔を見合わせ、一様にやれやれといった表情を作った。
船内は小型というものの、十六歳の少年少女が乗るにしてはかなり広く、メインルームの他に各自のプライベートルームがある。男同士だからといって二人部屋だなんてケチなことはない。一人一人に広々とした個室が与えられ、その中にはトイレや浴室まで備えられている。キッチンには大型の冷蔵庫や貯蔵庫があり、豊富な食料が詰まっているが、それは長旅の中ですぐに尽きてしまうだろう。緊急時には長期保存が可能なレトルトの食料が備蓄されているので、もしもの時はそれで凌いで適当な惑星に立ち寄り、補給しなければならない。
「ねぇ、フル。目的の惑星まではどれくらいかかるの?」
ダダコが右肩にそっと触れると、それを渡って真っ白いネズミが駆け下りてくる。フルは一度彼女の肘で立ち止まった。ダダコはそれを見届けてからゆっくりと肘を伸ばし、中央にある大きなテーブルに指先をつける。フルはダダコの腕の橋を器用に渡ってテーブルに降り、その真ん中に設置されているドーム状のモニターの前まで一直線に走ると、小さな前足でカツカツと画面を引っ掻くようにして操作した。
画面には無数の小さな光が点在している。そのひとつを指差し、振り向いた。
『いいですか、ダダコ。この点が我々のいる【緑星】です。そして、目的地は……』
そう言うともう一度画面に向き直り、片方の前足を目一杯伸ばしてもうひとつの点を指差した。その状態では振り向くことが出来ないらしく、何とか顔を画面にくっつけてしまわないように踏ん張りながらしゃべる。
『この……【赤星】です。距離は……まぁ、言ってもわからないでしょうから省きますが……』
そこまで言うと最初に指した【緑星】の方の前足をどけ、その中間辺りにあるモヤがかかったような部分をぐるぐるとなぞった。
『まともに行けばこの新型スペースシップの力をもってしても五年はかかりますが、最近はどこの星へもワームホールが出来ましたからね。まぁ、一週間あれば、と』
「いっしゅうかん~? 一週間もこんなところに閉じ込められるわけぇ~?」
ダダコはテーブルに両手をついて画面に向かって声を上げた。
「諦めなよ、ダダコ。僕、本とかゲームとか頼んであるしさ」
コラダはダダコの右肩に手を乗せた。
「そうそう。話し相手ならここに二人と三匹もいるんだしよぉ」
フッカは左肩に手を乗せた。
「だいたい、一番楽しみにしてたのはダダコだろ?」
「そうだけど……」
『ダダコ、この船には通信衛星が搭載されているから、緑星の放送だって見られるし、知り合いと通話することだって出来るわ』
コラダの右肩からハナがテーブルへ飛び降り、ダダコを見上げる。それに続いてフッカの方からもグニウが勢いよくジャンプしてテーブルへ乗った。
『それに、アタシ達といて退屈するわけがないわ。大丈夫よ』
「ハナ、グニウ、ありがと」
「ちょっとちょっとー。先に励ましたの僕らじゃん~」
「美味しいところ持ってかれたな……」
情けない声を上げるコラダの脇を肘でつつきながら、フッカはやれやれと首を振った。




