ショルの固有スキル 3
私は本を幼児の体で持って、ショルさんに渡します。
ショルさんは、パッと受け取った後に「読めないっ、読めないっ! 凄いぞ! 異界の言語だ!」と興奮している。
そして私を見て「気に入った!」と言った。
「君のスキルが気に入ったよ! いつでも僕の家に来るといい! 対価は貰うが協力するよ!」
私など視界のカケラにも入っていないようだったのが、自宅に好きに来るといいとは大出世です。
この世界の先天性障害の人を助けられそうですね。
あ、もちろん私基準で良い人だけですよ?
「きっと、その本を翻訳したあかつきには、他の果物の種が欲しくなるに決まっています。
なので、対価を明確にする為に魔法契約をして、ショルさんに私の固有スキルを使って種を渡す代わりに、ショルさんに1人の先天性障害を治してもらえる契約を結びます。
契約を行使してくれれば、私は今の約束を守ります」
一瞬で「めんどくせー」と言った顔になったショルさんですが、良い考えが浮かんだのか契約の追記を求めてきます。
「その契約書に1回、僕の固有スキルを使う時は異界の食べ物を食べ放題にするって書いてくれたらいいよ」
私も「まあ、そのくらいなら……」と了承したけれど、この時はショルさんが大食漢だとは知りませんでした。
そして、ショルさんの気が変わらない内に、おじいちゃんに契約書の用意をお願いすると、おじいちゃんがすっ飛ぶように部屋を出て行った。
「今からでもいいでしょ? もっと異界の食べ物を出してよ! その方が魔力も回復するしね!」
ん? 何か聞き捨てならない大事な言葉を聞いた気がします。
「食べ物を食べると、魔力が回復するのですか?」
素直にショルさんに疑問を聞く。
「何を当たり前な事を。失った魔力を直ぐに回復させるには、魔力回復ポーションを飲んで食材から魔素を補給することだよ! まあ、時間があれば体に無理なく回復できるのは寝ることだけどね!」
良い知識をもらいました。
今度から魔力を回復させるには食べ物を食べましょう。
「それでは次は何を食べたいですか? 他にも美味しいものは、いっぱいありますよ!」
ショルさんは、腹ペコの子供のように「おかわり」の要求をする。
「次は、さっきとは違う甘い物を出してよ! 果物だとなお良いな」
ふっふっふっ。
地球を舐めてますね?
いいでしょう。
当時は買うのを躊躇してしまったが、結局は姪の為に購入して食べた『フルーツ盛り盛りの豪華タルト』をご馳走しようではありませんか!
私は、ジョエル兄様のベッドの横に置いてある少し小さめの机の上にパパパッと通販で検索した『フルーツ盛り盛りのタルト』を購入して出します!
その宝石のような輝きを見せる『フルーツタルト』に、ショルさんの目がキラキラとしている。
「おお〜っ!」
ふふふ。
ショルさんが落ちましたね。
そうなんです! 見た目から美味しいのが分かるくらいに、魅力的に果物が盛り付けがされています。
私はフルーツタルトの包装を剥がして、フォークを手に持ちショルさんにこの『豪華タルト』を捧げます。
「計算され尽くした! この!『豪華フルーツタルト』を食べるがよろし!」
「おお、おお」と小さい声を出しているショルさんに、フルーツタルトが落ちないように渡してから、フォークを手に握らせます。
まるで宝石のように輝いているフルーツ達を前にしたショルさんの胸の高鳴りが今にも聞こえてきそうです。
ぼそっ。
これで時間稼ぎが出来ます。
流石に『フルーツ盛り盛りの豪華タルト』をホールで食べるには、時間がかかりますし、胸やけ必須でしょう。
お腹の気持ち悪さと戦っている間に魔力が全回復すればなおよしです。
くぅ〜。
おや? この『豪華フルーツタルト』にお腹を空かせた人が出たようです。
音に振り向くと、ジョエル兄様が半裸で顔を真っ赤にしていました。
色っぽいやろ。
可愛いかよ。
はっ! ヤバいです。
ジョエル兄様の色香に迷いそうになってしまいました。
私はジョエル兄様のベッドの横に行って、こっそりと聞きました。
「ジョエル兄様もフルーツタルトを食べますか?」
「え? 食べていいの?」
ん? その聞き方だと食べてはいけないようではありませんか。
そして、それを聞きつけた伯父さんが私に聞いてきます。
「チヤ、アレは便通に良いのか?」
そうか! 今まで自力で排泄出来なかったジョエル兄様は食事制限をされていたものと推測します。
確か、介護食で食べても良いスイーツがあったはずです。
「介護食のスイーツがあります。それなら食べてもいいのでは?」
叔父さんは悩んでますが「介護食なら、いいかもな」と、容認するようです。
ふふふ。
ジョエル兄様に、介護食でも美味しいスイーツを選んであげますからね。
……好きなお店のものが買えるようになっていて良かったです。
私は通販で吟味して、豪華では無いですが、味にこだわっている店のスイーツを選び購入します。
すると、ジョエル兄様の隣にある小さな机の上に少しこじんまりとしたショートケーキが出てきました。
私は包装を剥がして、フォークを添えて、ジョエル兄様の方に食べやすいように寄せます。
伯父さんは慣れたように、ジョエル兄様の姿勢を変えさせて机に向き合うようにさせます。
ジョエル兄様がおずおずと言います。
「た、食べても、いいの?」
くっ! この世界の病人事情は知りませんが、きっとお尻の筋肉が無かったのと下半身が動かせなかったので、ジョエル兄様は便が固くなるものは食べさせてもらえなかったのでしょう。
涙が出そうになった目を我慢しながら、ジョエル兄様に許しの言葉を伝える。
「いいですよ。全部食べても良いくらいの量に調節されていますから」
ジョエル兄様は、ゆっくりとフォークを手にして、ケーキにサクッと刺して、ゆっくりと落とさないように口に運びます。
「あまい?」
くっ!
凄い、精神攻撃だっ!
涙を堪えるんだ! チヤ!
甘いのかも分からないのが、ジョエル兄様のこの言葉から読み取れます。
きっと甘いものはNGだったのでしょう。
甘いかを確認してもらう為に伯父さんにケーキを食べてもらっています。
伯父さんはジョエル兄様に言い聞かせるように事実を告げます。
「そうだ、ジョエル。これは『甘い』ぞ」
伯父さんの目元にも光るものが見えます。
それから、ジョエル兄様は苺を口に入れて驚いたようにしてから、ふにゃりと笑いました。




