一般人には分からない
「西原さん?大丈夫?」
黙りこくってしまった私の顔を鈴木さんが見てる。
「…ごめん、色々考えちゃって…」
聖地巡礼とは言え自分もこの場所で同じ時間を共有したから、今でもハッキリと思い出せる事ができる。
早川俊があの日どこで休憩していたのか、どこで共演者と談笑していたのか、どんな私服を着ていたのか、何を食べていたのか、何を飲んでいたのか…。
早川俊だけで無くどの役者さんだってエキストラなんていちいち見ないよね。
彼らの目に入るなんて事ほぼ不可能だよね。
ごく稀に入りの時に、「お願いします」って言ってきてくれる役者さんもいるけど、そんな役者さんだって一人一人の顔を見ている訳ではない。
それでも、早川俊とは何度も目が合った気がした。ただの錯覚だとは思うけど。
一度や二度では無く、何度も何度も目が合った。
目が合った瞬間どうして目を反らしてしまったんだろ…、いつもそう。友達とか親しい人と目が合っても意識的に反らしてしまう。
そんな時ずっと目を見つめられる人っていいなって、思う。
私は超ウルトラスーパー一般ピープルで、あの人達の事何も分かってない。
だけど、こんな何も無い当たり前の毎日、この地球上のほとんどの人の何の刺激も無い代わり映えのしない毎日の中で、画面の向こうの彼等からどれだけ勇気が貰えるのか。どれだけ助けられるのか。
選ばれた人間。
そこに立っているだけで彼等は選ばれた人間なんだ。
だから…。
やっぱり昨日の早川俊の事は許せなかった。
早川俊にはずっと輝いていて欲しかった。
「ねぇねぇ、あの人も早川俊のファンかな?」
鈴木さんに肩を叩かれ、指指された方向に目をやると、目頭まで真っ黒の帽子を深く被り、丸メガネを掛けた長身の男性が、ドラマの中で早川俊が触れていた看板を背景に自撮りしようとしていた。
何度かスマホのスイッチを押しているのだが、うまくいかないようで、何度も何度も撮り直ししていた。
「写真撮ってあげた方がいいかな?」
鈴木さんとほぼ同時に同じ事を思い、彼に近付き声を掛けた。
「あの…、写真撮りましょうか?」
声を掛けられて心底驚いたように、ビクッと肩を震わせ、帽子のつばを更に下へと下げた。
「だ、だ、大丈夫だからあっち行ってろ」
その随分な物言いに鈴木さんは明らかにイラッときたみたいで、私を見た。
私も普段だったら鈴木さんと同じ気持ちになっただろうけど、聞いた事のあるその声に帽子の下の顔を覗き込んだ。
「み、見るなよ…」
つばを持ったまま背中を向けたけど、確信した。
オーラを放つ人を寄せ付けないイケメン、鼻につくけど好き嫌いが分かれないフレグランスの香り。
間違いない、彼が一般人である訳がない。
「白石海斗、何であなたがこんなところに?」




