表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/35

17 悪役令嬢、竜と戦う

「許さない!」

 拳を打ち込んだ後、すぐに態勢を整えてブレスを放とうとした火竜の下顎を蹴りあげる。

 火竜と戦っていたはずの地竜も茫然と見ている感じだった。

 護衛の皆さんも手が出せない。殿下はなんとかセラの元に行こうとしていたが護衛に止められていた。当然だ。セラの身体能力と魔力は『主人公のライバルにふさわしい』もので、生まれ持った資質に努力が積み重なっている。

 凡人が割って入れるものではない。

 火竜とセラの戦いは互角に見えた。いや、でも竜と互角って…、おかしいから、イロイロと。

「セラッ!」

 私が大きな声で呼ぶのと、セラの拳が火竜の眉間に打ち込まれたのはほぼ同時だった。

「ルティア!無事だったの!?」

「カーマイン様が助けてくれたの。だから、落ち着いて!」

 ゴゴゴゴゴ…と地面が鳴った。

 そして。

『火竜の、これ以上、わしの縄張を荒らすのならわしも本気を出すぞ』

 低い声が響いた。

『……人間共と共闘するとでも?誇り高き竜族が』

『わしはこの地の守り神でもある。この地の人間達もわしを敬い、欠かさず貢物を届けておる。ならば報いねばなるまい。ここに火山はない。おまえがとどまる理由もないであろう』

 火竜はケッと横を向いた。

『我が居た火山は荒れ果てた。魔物も消え、雑草さえも生えてこぬ』

『土地を追われたことは気の毒に思うが、わしにはどうすることもできん』

『ここにおれば食糧に困らぬ』

『ならばわしに従え』

『お主を倒して、我がこの地の神となる!』

 そ、それは…どうなの?長年、この地を守ってきた地竜を追い出すとか、めっちゃ嫌なんだけど。

 お兄様に言う。

「地竜様をお助けすることはできませんか?あの火竜は横暴です。サードニクスの者として、地竜様をお守りするべきです!」

「………ルティア、何を言っているの?」

「何って…」

 火竜の主張は無茶苦茶だ。住処を追われたからといって、他人…他竜の住処を荒らして良い理由にはならない。

 竜達が本気で戦えば山に被害が出る。片方は火竜だ。森林火災にでもなればどれほどの被害となるかわからない。

「まさか…、ルティアは竜の言葉がわかるのか?」

「え?お兄様には聞こえませんの?」

 それには火竜が答える。

『やはりお主、地竜の加護を受けておるな』

『だからこの娘を狙ったのか。試すような真似をしおって……』

『ふん。見たところ普通の娘ではないか。何故、この娘に加護を?』

『この地の領主一家の娘だ。どうせ会話するのならば娘のほうが楽しいではないか』

 地竜がじっと私を見つめた後。

『ふむ、なかなかの美人…。実に人間の娘らしい、素朴な可愛らしさじゃ。期待通りじゃな』

 火竜もじっと私を見て。

『うむ……、一理あるな。確かにこの娘、眺めておると段々と可愛らしく見えてくる』

 えぇ~、そんな理由~?もっと、こう、私にチート的な特別な力があるとかじゃないのぉ?

 しかもしばらく眺めているとって、なんだよ、褒められている気がしない。

 がっかりだ。

 加護のことだってさぇ、実感、ないんだけど。いつの間に加護を授けたわけ?

 地竜に聞いたら、会ったことがなくても『サードニクス家に娘が生まれた』という情報だけでも授けられるそうだ。個人を確実に特定できる情報ってヤツで。

 いろいろ文句を言いたいけど、今は火竜を追い出すほうが先。

「あの、地竜様、火竜様、言葉がわかるのならば何か良い案をご提示できるかもしれません。まずは希望と問題点を伺いますわ」

 地竜は今の生活を維持したい。面倒な火竜は出ていけ。

 火竜は居場所が欲しい。何もない火山に戻るのはつまらない。ちょっと人間と交流してやってもいいぞ、ただし供え物を忘れずに。

 そのままお兄様達に伝えると。

「火竜が暮らせる土地か…、山が良いのかな?」

『そこはこだわらんが、狭い場所は嫌じゃ』

「火山でなくとも良いそうですが、窮屈な思いはしたくないそうです」

『地竜と半分…も、ナシじゃな。クソ真面目なこやつと四六時中は気が詰まる』

『勝手に押しかけてきて、随分な言い様じゃな…』

 本当にねぇ。火竜ってばそんな性格だから土地も荒れたんじゃないの?とは、恐ろしくて言えないが。

 どこか良い場所はないかと考えていると。

「そういったことなら公爵領に来ればいい」

 カーマイン様が答えた。

「とりあえず公爵領に来てもらい、火竜様が気に入らなかった場合は殿下のお力で安全な場所を探してください」

「そうだね。竜は神の使いとも、戦いの象徴とも言われている。国としても放置はできないし、敵にもなってほしくない」

 セラが目を輝かせた。

「火竜が領地に来るの?」

「あぁ。うちの領地にも山や森がある。中には険しすぎて人が立ち入らない場所もあるからな。人の言葉を理解するのならば、理由もなく民家を襲うこともないだろう」

「じゃ、領地に帰ったらいつでも竜と戦えるね!」

 セラの言葉に火竜が…、竜だから表情はわからないが、たぶんすごく嫌そうな顔をした。


『その娘は戦闘狂なのか?』

 火竜に聞かれて『セラは格闘技が趣味』と答える。

『変わった子じゃのぉ。背に乗りたいなどと女の子に言われたのは初めてじゃ。わし、竜の中でもかなり地味なほうなんじゃが…』

「すみません……」

 セラはご機嫌で地竜の背に乗っていた。火竜とは『ちょっと戦ったから、今日はもういい』とのこと。何がもういいのやら。

 ちなみにローズは持参した紙と筆記具で、ひたすら竜をスケッチしている。

 二人のマイペースさに護衛の皆さんもあっけにとられていたが、すぐに仕事モードに切り替わった。

 公爵領に引き取ってもらった後のことがあるものね。

 騒ぎやトラブルが起きた時のために対応策を考えておかないと。詳細は後日ってことにしても、ある程度の道筋がないと大規模プロジェクトは進められない。

『それで火竜は納得したのか?』

『その娘が会いにくるというのならば、退屈もせんじゃろ。地竜と違いわしには翼があるからの。ここにも遊びに来るぞ』

 快適な住処があって、遊びに出るのは問題がない。家がないまま、あちこちふらふらしているのは落ち着かない。妙に人間っぽい竜だ。

「それにしても…、元の住処は何故、そんなことに?」

『人間共が後先考えずに資源を回収した結果よ。わしが止めても聞かなんだ。強固に邪魔をして何万人もの騎士を連れて来られたら面倒じゃろ』

 無敵の竜でも何万人も相手にすれば無傷とはいかない。たぶん騎士だけでなく魔法士もいる。反撃して人間大虐殺…ってのは、言うほど簡単にできるものではない。

『あの国はいずれ衰退していくだろう。魔物だけでなく野生動物も狩り尽くし、金になる植物は根から掘り起こして回収しておった』

 よその国にいたけど、見切りをつけてこの国に来た。

「そうなんですね…。この土地は地竜様のおかげで自然災害も魔物災害も少ないと聞きました。本当にありがとうございます」

 改めて地竜にお礼を言い、火竜には『資源狩り尽くしは危険』ってことを殿下達に伝えると約束する。

「環境破壊をしないようにと、殿下達にお願いしておきますね」

『ふむ。娘、わしもお主に加護を授けよう。これでお主、火魔法もすこしだけ使えるようになるぞ』

「え、ほんとですか?」

 火魔法ってやっぱりかっこいいんだよねぇ。山の中で試すのは怖いから、平地に出たら試してみよう。

 ってか、二種属性って異世界あるあるのチート能力じゃないの?

 テンションが高くなった私に火竜が言う。

『いや、お主の魔力量はそんなに多くないからな。ふむ…、器用さも賢さも平均値のようじゃ。野宿でたき火をするには困らぬようになるぞ』

 高くなったテンションが一気に下がった。

「それじゃ意味ないじゃん…。じゃ、同じ火属性のセラに加護を与えたら…」

『この娘とあっちにいる赤髪の男はこの中でも飛び抜けた魔力の持ち主じゃな。そんなヤツに火竜の加護を与えたら、一人で国を滅ぼす兵器になるかもしれんぞ』

「今でさえ、もう人間離れしているのに…?」

 聞こえていたのか、セラが笑顔で『いらない』と言う。

「魔法より、格闘技のほうが性に合ってる」

 んじゃ、やっぱり私がもらっておこう。しょぼくても何かの役に立つかもしれないもんね。

 ちなみにローズも高い魔力持ちだが、聖属性があるのならそこを極めたほうが良い、とのこと。

『聖属性にしか使えない希少魔法があるからな』

『治癒系に毒消しは定番じゃな。あと、多少は人の心にも干渉できるはずじゃぞ』

 トラウマ軽減とか、恐怖心の克服とか。聖属性は大変だ。正直、他人の人生に関わるような力は怖い。

 私は…、モブ令嬢。竜にも太鼓判を押された超平凡。もともと大層な夢などみていないが、今まで以上に真面目、実直に頑張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ