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15 悪役令嬢といざ森へ

 半日かけて山のふもとに到着した。馬車は三台、馬は二十頭近い。

 殿下の従者の内、護衛以外はふもとで待機することになる。

 山の中に入るのはお爺様が頼んでくれた案内人のガウスさん。高齢の男性だがお爺様の推薦だけあって、身体が大きく力もありそうだ。

 あとは殿下と護衛八人、私達五人。十五人で隊列を組む。

 セラが先頭を歩きたがったが、さすがに却下された。

「我々にも役割がございます。安全が確認できた場所ではお止めしませんので、隊列はこちらの指示に従ってください。セラフィナ様のお友達のペースもございます」

 その通り。セラの体力に私達がついていけるわけがない。

 殿下の護衛は、当たり前だけど殿下を最優先で守る。ゆえにカーマイン様がローズを、お兄様が私を優先させることで落ち着いた。セラには護衛などいらないが、殿下がキラキラした瞳で。

「セラフィナ嬢は私がお守りいたします!」

 と、言っていた。

 実際、できるかどうかはともかく、心意気は大切だよ、うん。個人的には応援している。

 列の先頭は斥候と体の大きなタンク。斥候の方は探知魔法が使えるとのこと。風魔法の一種らしい。タンクの方はこんな山の中にまで盾を持ってきている。そして土魔法の使い手とのこと。咄嗟の足留めに土壁は有効だものね。

 二列目が案内係のガウスさん。

 三列目に剣士が二人、一人は隊長さん。四列目にカーマイン様とローズ、五列目に殿下とセラ、そしてお兄様と私。

 後ろは魔法士達と最後尾にも剣士が二人で、一人は副隊長さん。

 剣士…と呼んではいるけど、全員、魔法も使える万能タイプ。さすがハイスペック集団。

 魔法士さんは治癒士と水魔法士。治癒担当は治癒魔法と並行して薬師でもある。ローズと同じ聖属性持ちだ。

 護衛は全員男性で魔法士のお二人もそれなりに立派な体格で剣を提げている。

 そして世界観のせいかもれなくイケメンである。ガウスさんまでイケオジで、森の中に入るのは嫌だけど、イケメン天国なのはな~。ぶっちゃけかなり嬉しい。自分とどうこう…ではなく、イケメンが並んでいるだけで疲れも飛ぶよね、乙女ゲーム好きとしてはさっ。


「魔法士さん達も剣を使われますの?」

「殿下の護衛に選ばれるような方達だもの。魔力が切れた弱い魔法士なんて、戦闘の場ではただの弱点で足手まといだろう?」

 確かに。仲間をかばう余裕なんて、よほどの実力差がなければ無理だ。

「お兄様も剣術の訓練をしていますものね」

「そんな場面に出くわしたくはないが…、セラフィナ嬢が言う通り、いざという時に本当に役に立つのは己の身につけた力だけだ」

 セラが振り返って『だろう!』と言う。

「大抵のことは体力で解決できる!病気も怪我も、たとえば私が公爵家を追い出されても、身体が丈夫ならばどこでだって働ける。健康なら生きていける」

「うん、セラが公爵家から追い出されることはないからね」

 私だって男爵家から追い出され…ないよね?そんなルートはないはずだ。

 休みながら山の中を進み、案内人の言葉で野営場所を決めた。お爺様とも相談をして、山の中では三泊までと決めている。高低差の少ないうっそうとした森のような山だが、初心者が何日も過ごすのは無謀だ。

「ガウスさんはここに何度も来たことがございますの?」

 聞くと愛想良く応えてくれた。

「サードニクス男爵様…御隠居様と一緒に何度か来ておりますよ」

「では地竜様と会ったことはございまして?」

「残念ながら一度もございませんね。しかし…、本当にいるようですな」

 でなければここまで山の中が安全であるはずがない。

「他の領地では魔物被害もございますが、この辺りはほとんどございません。野生動物が来ることはあっても魔物はおりませんから、誰かが統率しているのでしょう」

 野生動物とは猪とか鹿、熊の類だ。見た目や毛並みの色に差はあるが、日本での記憶とあまり変わりがない。

 すべて食べられるため、現れたら狩りで仕留めることが多い。

 一方、魔物は普通の獣よりも凶暴だとか。見た目も大きく、肉は臭くてとても食べられるものではない。殺した後は使えそうな素材だけはぎ取って、その場に埋めるか燃やすか。

 冒険者達は各属性一人以上入れてパーティを組むことが多いとか。

 斥候や弓で風、攻撃で火、守りで土、それから素材のはぎ取り等で水があると助かる。魔物を解体すれば血や脂で汚れるものね。飲み水の確保も、場所によっては生死に関わる。

 この森にいるのは下級の魔物と、中級はトカゲ種が多いらしい。が、中級以上はガウスさんもほとんど見たことがない。

 そして下級の魔物はおとなしくて臆病なので、人間の気配で逃げてしまう。

「私達は地竜様に感謝しなくてはいけませんね」

「そうですね。ですから収穫が多い時は、できる限り届けに来ておりますよ。他に食べるものがあれば魔物が人里を襲うこともないでしょう」

 人間を食べる魔物もいるが、この辺りの魔物は長く人肉を食べていない。とってもヘルシーな魔物ってこと。

「この森の中にも美味しい果物や木の実がありますからね」

 それには薬師さんが頷いた。

「薬となる植物や実も豊富ですよね。珍しいものはすこし持ち帰りたいのですが許可していただけますか?」

 その判断は私にはできないためお兄様を呼んだ。

 何をどれくらい持ちだすのか記録をつけることを条件に許可する。記録と持ち帰った物は屋敷に戻ってからお爺様に確認してもらう。

 薬師か…。そういった道もあるよね。でも調合を覚えるのが大変そう。日本だと薬剤師さんとか、もう医者のレベルだものね。

 学校を卒業した後、働く貴族令嬢は少ない。大半が結婚してしまい、結婚したら働かない。いや、貴族として領地経営や人付き合いが仕事となる。

 セラは迷わず騎士団に入りそう。ローズは聖属性の魔法があるから、魔法士団か教会関係かな。

 私は…結婚できるのだろうか。

 誰かを好きになって、その人と添い遂げるとか、今は想像できない。

 貴族の場合、政略結婚も多いけど、うちは男爵家。利用されるだけの権力がない。

 できれば恋愛結婚したいなぁ。大恋愛は疲れそうだから、穏やかな感じの育み愛がいい。

「ルティア嬢は土属性ですよね?」

 薬師さんに聞かれて頷く。

「サードニクス男爵家は土属性が多いようです」

「私の家は風属性が多いのですが…、私が聖属性だとわかった時は大騒ぎでしたよ」

「珍しい上に皆様のお役に立てる素晴らしい属性ですもの。ローズも聖属性だということがわかっておりますのよ」

「みたいですね。高等学園でもひとつの学年に一人か二人しかいない属性で…、在学中はあちこちから声がかかって大変でした」

 最終的に親の意向も汲んで騎士団に入った。教会に身を捧げるほど信心深くないし、騎士団のほうが給料も良い。

「騎士団の訓練は大変でしたが、頑張ったおかげで殿下の護衛隊に入れました。とても名誉なことです」

「殿下はとてもお優しい方ですよね。私のような下位貴族の娘が気軽に話せる方ではございませんが、セラフィナ様とのご縁でとても良くしていただいております」

 殿下と懇意にしているということで、高位貴族からの接触もある。主に『男爵領に別荘を建てたい』『避暑地として利用したい』というもの。

 男爵領に貴族の別荘が建つのは悪くない。管理人や掃除夫の雇用が生まれるし、滞在中も食糧や必要な物の買い出しで経済がちょっぴり潤う。

 気さくな方は朝から村の銭湯に入りに来ているとか。

 何事にもプラスとマイナスがある。殿下はとってもいい人だけど、それはそれ、これはこれ。殿下を領地に受け入れる気苦労分は稼がせてもらわないと。

 領地経営はとてもシビアなのだ。

 しばらく二人で話していたが、夕食の支度が始まるようなので手伝いに行くことにした。ローズと私は簡単な料理くらいできる。

 野営料理なのでスープとパンくらいだが、殿下がいるおかげか食材がとても豪華だ。煮込むための野菜とソーセージ、それに今日のパンは柔らかい。

 明日以降は日持ち優先で硬いパンとなるが、木の実や乾燥果実入りで、チーズも用意されているとのことで、むしろ楽しみ。

 眠るためのテントも用意されていて、ひとつは殿下とお兄様達、もうひとつは私達が使わせてもらった。水魔法士さんが体を拭くための水も用意してくれたので、それもありがたく使わせてもらう。

 テントの中は蒸し暑くなるかと思ったが、環境のせいか夜中には冷えて寒かった。

 三人でくっついて眠り、翌朝は鳥の声で目覚めた。

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