疲れる魔女
悠魔は2人の前に、スープの入ったカップをだす。此処は悠魔の家で、結局あの後2人を家に招いた。アリスは魔獣を封じた黒い箱型の魔道具を王宮に持って行った。
2人はお礼を言い、スープを飲み落ち着く。
「重ね重ね助けて貰いありがとうございます」
「別にいいですよ、それにしても今日は災難でしたね」
悠魔は彼らの正面に座り、自分様に入れたスープを飲む、そんな彼に2人は革袋を出す。悠魔は中身を確認すると、そこには数枚の銅貨が入っており、どうやら先ほどブロントに使ったポーションの代金のようだった。
「足りるかわからないけど俺たちが持ってる全財産だ」
「別に代金はいいですよ、僕が勝手にやった事ですから」
革袋を閉じ投げ返す。その行動が2人はお気に召さなかったのかムッとするが、悠魔は気にせず飲み干したスープのカップの洗い始めた。
「でも!」
「元々あのポーションは僕が作った物ですから、代金はいりませんよ」
洗った食器を布巾で拭き取り棚に戻していく。以外に強情な悠魔悪戦苦闘してると、ドアが開きアリスが帰って来る、彼女の手には沢山のワインなど色々なお酒の瓶が握られていた。
「ア~リ~ス~さ~ん」
アリスの持ってる酒瓶を見てこめかみをピクピク動かす悠魔に、それを見て流石に買い込みすぎたと思いたじろぐアリス、彼女は身振り手振りで言い訳をしようとするが、悠魔はため息をつき微笑して彼女の手から酒瓶を受け取り、棚に並べていった。
「お酒もほどほどにしてくださいね」
彼女は悠魔の反応を見てホッと胸をなでおろす、ブロントとフィオナはその光景を見て呆然とする、そんな2人に気が付いたアリスは気軽に話しかける。
「そうだね、改めて自己紹介をしておこうか、僕はアリス見ての通り魔女で、もと魔女教団第三席剣姫の魔女だ」
そんな自己紹介をされても、2人はどう反応していいかわからなくその場に立ち尽くす。
「じゃあ本当に剣姫の魔女なんですね」
「そうだよ、自分が剣姫の魔女だなんて、こんな嘘をついて何の得があるんだい」
2人は確かにと納得する。わざわざ自分が剣姫の魔女だと名乗る馬鹿はいない、街一つを単体で陥落させるような化け物を名乗るのはよっぽどの馬鹿か、本人だけだ。
「そう言えば君達何か揉めていた様だが何だったんだい?」
アリスは事の顛末を聞くと、アホくさと思いワインをグラスに注ぐ。
「別に本人が要らないと言ってるんだから、払わなくてもいいんじゃないか?」
心の底から興味なさそうに、ワインを飲むアリスに対して、フィオナは抗議の声を上げようとしたが、彼女が剣姫の魔女という恐ろしい存在だと思い何も言えなかった。
「はい、出来ました! 今日は人数も多かったので鍋にしてみました、アリスさんナナさんとサリアさんを呼んで来てください」
「わかった……何だいその鍋見た事ない物だね? この前の鉄鍋とは違うのかい?」
テーブルに置かれた土鍋を見て、アリスは疑問に思った。彼が前に作ったのは鉄で出来た鍋だった。
「これは土鍋って言って瀬戸物何です、先日この街の工芸店で焼いてもらいました」
「うむ」
興味深そうに見るアリスに、もう一度2人を呼んで来て貰う様に頼む、彼女は少々不満そうに階段を上がって行く。
しばらくして2人を連れて降りて来た。鍋の蓋を開けると、そこには沢山の野菜や肉などが煮込まれていて食欲をそそる香りを放つ。
「これは? 大根おろし」
「はい、今日はみぞれ鍋て言います」
5人は興味深そうに鍋を覗きこむ、それぞれ皆興味深そうな目をしており、それを見た悠魔は微笑してしまう。この世界には鍋と言う文化が無く、毎度鍋料理を出すと驚く。
「ほら、食べますよ」
悠魔は取り合えず人数分の小皿を取り出し全員に渡した。
「お、美味しい!」
「確かにこれは美味いな」
見慣れない料理を食べた2人はその美味しさに打ち震える、他の3人は普段から悠魔の作るものを食べてるため、そこまでの感動は得れなかった。その顔には美味しいと書かれており食べる手は止まらなかった。
「悠魔君!」
「酒臭いです、離れてくださいナナさん!」
完全に出来上がったナナは悠魔に抱き着く。それを乱暴に引き離しアリスに投げ渡す、ナナはそのままアリスに抱き着く。
「ええい、鬱陶しい離れろ!」
「ありしゅしゃんいいにひょい」
アリスの首元に顔をよせ匂いを嗅ぐナナを、心底鬱陶しそうに引き離そうとする。サリアはその光景を見て自分に被害が来る前に、2人から距離を取り悠魔の傍に行く。
「あれ、止めないでいいんですか?」
「どうせ止めるだけ無駄です、ああなったナナさんは寝るまで目障りですから」
「いい加減にしろ!」
必死にナナを引き剥がそうとするが、思う様に行かなくいい加減限界に来たアリスは、彼女の首元に手刀を落とし、彼女の意識を断った。彼女の髪や衣服は乱れとても剣姫の魔女の威厳など欠片もなくなっていた。
「全く、本来こういうのはレイラの彼女の役目だろ」
サレーナ公爵家で、フェレクスの工房の掃除をしていたレイラは可愛らしくくしゃみをする。それを見たフェレクスは彼女が風邪を引いたのか心配になり。
「誰か噂してるのかな?」
「風邪ですか⁉ 今日はもう休んだ方が!」
「大丈夫ですよ、早く掃除をしないと……前にもこんな事あったような?」
「運んで来た……」
疲れた様子で階段を下りてくる。どうやら先ほどのナナとの一悶着が相当堪えた様で、プライドの高い彼女がやせ我慢もせず疲れを表情に出していた。彼女はワインをグラスに注ぐと一気に飲み干し、もう寝ると言い再び階段を上がっていた。
「……魔女なのに睡眠を取るんですか?」
魔女は本来睡眠も食事も必要ない、そのすべてを魔力を代償できるからだ、だからこそアリスの行動を見て変だと思った。さっきの行動もだ、ナナの意識を奪う程度で済ませるとは彼女のフィオナの知ってる剣姫の魔女とはイメージが違ったからだ。
「趣味だそうですよ」
「趣味でするもんなんでしょうか?」
残った鍋をつつきながらしみじみ話す、そこに勢いよくドアが開き買い物をしたブロントとサリアが入って来た。
「ただいま! 帰って来たぞ」
「外寒いです」
買って来た砂糖をテーブルに置く2人だが、これで一体何を作るのか全く想像できない3人だが、悠魔は気にせず準備し始めた。
水と砂糖を入れたフライパンを加熱始める。3人は後ろからフライパンの中身を覗きこむ、砂糖は徐々に溶けて行き飴色に変色すると、加熱を止め細い木の棒を液体に浸し少ししてフライパンから離すと、飴色の液体も一緒に離れた。
完成したべっこう飴を3人に渡す、彼らは恐る恐る食べる。3人はその美味しさに打ち震える。飴を舐めながら、この世界には甘味処が少ないと思った悠魔だった。
なぜこんな物を作ってるのかと言うと、女性達が何か甘い物が食べたいと言いだした。悠魔は何か作れないかと考えたが、この時間で手にはいる物と言えば限られてる。そこで考えたのが貴重品で値段の高い砂糖なら売れ残ってると考え買い出しを頼んだ。
「ただの砂糖がここまで美味しくなるなんて」
「うまい」
「美味しい」
どうやらご満足いただけた様で悠魔は楽しそうにべっこう飴を食べる3人を眺めていた。




