帝国の姫
現在悠魔とアリスはダイヤス帝国内の下水道を歩いていた。アリスの手にはペンデュラムが握られており青く輝いていた。
「それで姫様の居所が分かるんですか?」
「多分ね、僕も使うのは初めてだしこういう魔法は苦手なんだよ」
ゆっくりと暗い道を進む2人、ペンデュラムが指し示す方向に足を向けるがアリスは元々戦闘系の魔法しか詳しくなく、このペンデュラムを使った探知魔法は昔エルフェリアに教えられた魔法で、今まで一度も使った事はなかったので彼女自身制度に不安があった。
「うむ、今度は左か」
「このまま進むと王宮の外れにある塔周辺に繋がってますね」
2人は地図を見て行き先を確認して慎重に暗い道を歩く、聞こえるのは水の流れる音だけでそんな中をゆっくり確実に進む、しばらく進みペンデュラムが真上を指すどうやこの場所の上に姫様が居るのだと思う悠魔とアリス。
「取り合えず夜になるまで待つよ、いいね」
「はい」
アリスがペンデュラムをしまい代わりに取り出した懐中時計で時間を確認した。日が暮れまであと4時間程で時間があるので悠魔に休む様に言った。
「でも」
「いいから休め、自分が思ってるほど消耗してるはずだから」
アリスは半ば無理矢理自分の膝の上に寝かせる、悠魔は目を閉じ少しすると眠ってしまった。彼女は眠る悠魔の表情を愛おしそうに見ながら、時間だけが過ぎて行った。
時間になったのでアリスは名残惜しいが悠魔を起こした。何度か名前を呼ぶと目を覚ます悠魔、眠そうに目元を擦り体を起こす。
「時間ですか?」
「ええ、それじゃあ行こうか」
王宮内に侵入する、2人は王宮内の庭を見回りの兵に見つからない様に移動して塔の入り口まで来たが、そこには見張りの兵が居り、アリスが囮なると言いその間に悠魔が塔内部に入り姫を助け出す作戦となった。
魔剣を展開してして隠れていた茂みから飛び出した、アリスは手際よく見張り2人を倒して、その隙に悠魔が塔内部に入り込んだ。絶命した兵の悲鳴を聞き王宮内が騒がしくなった。
「っ、急げ悠魔!」
アリスの声を背に塔内部を駆け上がる、外からは物騒な音や人の叫ぶ声が聞こえて来る。
「此処か」
息を切らし無骨な扉の前に着いた悠魔、ドアの中から声が聞こえて来た。
「何かあったんですか? 外が騒がしいようですけど」
「あ、貴方が姫様ですか?」
「……どちら様ですか? 王宮の人間ではないですね」
警戒する様な雰囲気で悠魔に問いかける、どうやって警戒を解こうかと思ったが以外に簡単に方法は思いついた。
「コレットさんに頼まれて助けに来ました!」
「コレットにですか⁉ 彼女は無事なんですか、ここ最近来てなくて……もしかして貴方が悠魔さんですか⁉」
コレットの事を話すか考えるが、塔の下層の方からアリスに急かされたので、ドアを壊すから離れる様に伝えた。扉から離れる気配を察した悠魔は、ダイヤス帝国に来る前にアリスに渡されたコレットの大剣を取り出し扉を破壊した。
「大丈夫ですか」
「はい、平気です」
部屋の中から出て来たのは薄いピンク色のドレスを着た薄めの青い銀色の髪を短く切り揃えた少女が出て来た。
少女は悠魔の持つ剣を見て何か言葉を発しようとしたが、下層から飛行魔法を使って現れたアリスによって遮られた。
「よし、助けられたな! ならさっさと逃げるよ、面倒なのが出て来た」
高笑いと共に、悠魔には忘れる事も出来ない相手が出て来た。両腕に手甲を着けた男のキュリウス・レムナントが現れた。彼の顔を見た悠魔は手に持ってる大剣ですぐにでも切りかかりたかったが、今はそれより助け出した少女を安全な所に連れていかないと思いカギを取り出した。
「急げ!」
キュリウスを近づけない様に、アリスが魔剣を振るい竜巻を起こした。その隙をついて悠魔はカギを使い扉を生み出し戸惑う少女を押し込む、次に悠魔が潜り最後にアリスが通ると扉が閉じ消えた。
「ちっ、逃げられたか」
残ったのは憎たらしく壁を拳で破壊するキュリウスだった。
「此処は?」
「エストア王国にある僕の家です」
今いる場所は悠魔の家で、彼女にはさっきまでダイヤス帝国にいたが、一瞬でエストア王国に移動した事に驚いていた。
取り合えず立ったままで話をする訳にもいかず、悠魔はお茶の用意を始めた。アリスは戸惑う少女に椅子に座る様に進める、2人の間には会話はなく唯々悠魔の用意が終わるのを待っていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……それでコレットは? 無事なんでしょうか」
その問いに中々答えられない悠魔だったが、アリスが死んだと答えた。それを聞いた少女は手に持っていた金属製のコップを落とした。
「う、嘘ですよね?」
「君の所の悪魔の騎士に魂を喰われた」
「何ですかそれ、コレットが死んだ、悪魔の騎士? 何がどうなってるんですかダイヤスは⁉」
「落ち着いてください⁉」
錯乱する少女を落ち着けようと、マインドポーションを取り出し飲ませた。次第に彼女は落ち着き、泣き出した。
「これが一国の姫ねぇ」
涙する少女を呆れた表情で見るアリスに文句の1つも言いたかったが、それよりも今は少女の事を優先した。
「まずは、すいませんコレットさんは僕を逃がすために」
「いえ、それを選んだのは彼女です……貴方が謝る事じゃありません」
涙をぬぐい、親友だった者の死を嘆くのをやめ、現状のダイヤス帝国の確認をし始めた。長い事閉じ込められていた為にダイヤス帝国の事を彼女は殆ど知らなかった。
「思っていたよりひどい状況ですね」
「一体何があった? 少なくても数年前まであんなに酷い国ではなかったと思うが?」
今の様になる前のダイヤス帝国を知ってるアリスは疑問に思った。彼女の訪れた時の国は今の様に汚職まみれの国ではなかった。
それも皇帝の少女の父のセーブル・ダーマン・ダイヤスが最善の国政を敷いていたからだ、だがその皇帝が病死して、すぐにこの少女のサリア・ダーマン・ダイヤスが皇女に即位するはずだったのが。
「どうやら、大臣達は私が邪魔だったんでしょうね、父の死亡後のすぐに私は病床に伏せた事にして、あの塔に軟禁」
「ん、とう言う事は今ダイヤスに皇帝や皇女て……」
「不在のはずです、私はコレットから大臣達が運営してると聞いてますが?」
それを聞いた悠魔は自分があった皇帝と呼ばれた男が偽物だと確信した。電話やネットのない世界では皇帝を偽る事くらい可能だと考えた。
「ギルド運営に所属していればこんな事にはならなかったのですが」
「そもそも何故ダイヤス帝国はギルドの運営に協力をしなかったんですか?」
「父は参加を表明しようとしていたのですが、大臣達が反対していて思えばその時から計画は進んでいたのかもしれませんね」
ギルドの運営に所属していれば、皇帝不在、今回悠魔があった皇帝が偽物だったこともすぐに分かったが、現状を見る限りどうやら前皇帝は大臣達の暴走を止められなかったようだ。
アリスは心底呆れ、悠魔はこれからどうするかを考え出した。アリスは興味なしとお茶を飲み、サリアと悠魔はこれからの事を話し始めた。一番はエストア王国の力を借りるのが現実的だが、今この国は起源龍の事で一杯一杯で力を借りれるか分からなかった。
「起源龍ですか? あれは伝説上の生き物ではないのですか」
「いえ、実在します、アリテール王国のリボーズ陛下が先日戦いに敗れました」
「魔王をですか⁉」
彼女はそれを聞いて思考して、しばらくすると何かを決意したようにある提案を悠魔に持ち出した。
「もし、ダイヤス帝国を取り戻していただけるのでしたら、ダイヤス帝国は全身全霊を掛け起源龍討伐に協力させてもらいます」
その言葉は強く、少女の目は先ほど親友の死で動揺した時とは違いしっかりと強い意志が込められていた。ダイヤス帝国の力を借りられるなら願ったり叶ったりだったが、そもそも起源龍討伐には悠魔は関わっていないので返事のしようがなかった。




