ダイヤス帝国での日常
悠魔は目を覚ますと普段と違う景色が視界に入って来た。
「ん、此処は? ああ、そう言えばダイヤス帝国の王宮で監禁されたんだったな」
まだ、覚め切ってない頭で現状を確認する悠魔、しばらく思考してある視線を感じ振り向くと、そこには世話役のコレットが無表情で立っていた。
「おはようございます、よく眠っておられたので起こすのも悪いと思いまして、自然に目が覚めるのを待ってました」
「そうですか、今何時くらいですか?」
「お昼前です」
こんな状況でも、これほど熟睡出来る自分に危機感が無さすぎると思う悠魔だが、眠れないよりはいいと思いベットから出ると、コレットが綺麗なタオルを渡してくれ、部屋に備え付けの手洗い場に行き顔を洗った。
「この洗面所どうやって水が出てるんだ、魔力を流すと出るようだけど?」
石造りの洗面所には、木の根の様な物に覆われた青い球体状の宝石が吊るされており、宝石に魔力を流すと水が流れ出る仕掛けとなっていた。
「刻印魔法とは違うし、この青い宝石」
「それは、水樹と言われるもので、魔力を流すと水が湧きだす物です」
「うわ! びっくりしました、急に出てこないでくださいよ」
「申し訳ありません、何度か声を掛けたのですが、反応が無かったので」
「そ、それは、すいません」
コレットの説明によると、水樹という魔法具は、濃度の高い魔力水で育てた苗木が突然変異起こした物で、魔力を流す事で水を湧き出す植物で、大体1年程で枯れてしまう。
「今日はどうされますか?」
「その前にお昼にしましょうか」
「分かりました」
昼食は悠魔が作った、肉と野菜を挟んだサンドイッチを2人で食べる、今日は特段やる事もなく部屋で過ごす事にした。暇潰しにコレットとトランプをするが表情が読めないので、ババ抜きなどのゲームでは勝てなく神経衰弱をしていたが結局勝てなく、別のゲームを作り出した。
「何を作っているのですか?」
「チェスて言うゲームです」
「チェス?」
ずっと練習して来た事により、使えるようになった模型の魔法で黒い石と白い石の形を変化させて、色々な形の駒を白と黒で2組作って行った。
「私には彫刻を鑑賞する趣味は有りませんが、中々の出来ですね、これだけでもそれなりの値段になりますよ」
「それは、どうも、でもこれはゲームの駒です」
チェスの一通りのルールを説明すると、さっそく2人で遊ぶ。
「……あのう」
「もう一度です」
「あ、はい」
彼此10戦ほどしているが、その間悠魔が10勝、コレットが10敗と言う結果になっていて、それが悔しいのか中々勝負をやめないコレット。
「えっと、チェックメイト」
「っ」
「……それじゃあ、夕食の用意しますね」
普段はこんなに感情を表に出す事のないコレットから逃げる様に、夕食の用意をし始める悠魔だが、コレットの突き刺さる視線に負け、食後にもう一度チェスをする事にした。
「つ、疲れた……」
食後にした。コレットとのチェス疲れが出たのか、ベットに倒れ込んだ悠魔今日だけで20戦ほどしたのでしばらくはしたくないと思う悠魔だが、結局コレットは1勝も出来なかったので明日もする羽目になりそうだと思い、そのまま眠りについた。
次の日の朝、コレットに起こされた悠魔がすぐに思った事は、そんなにチェスがしたいのかと失礼な事を思ったが、昨日は眠り過ぎたため起こしてと頼んだ事を思い出し。
「おはひょうございまひゅ」
「おはようございます、こちらタオルになります」
「ふぁ~ありがとうございます」
悠魔はコレットを朝食を誘うが、今日はもう食べたと言われ断られたので、仕方なく1人で食べる事にした。朝食を食べながら今日はどうするか考えるが、特段する事はなく仕方なく街に出る事にした。
「今日は何をお求めですか?」
「いえ、特段欲しい物はないんですが……」
「計画性のない買い物は控えた方がよろしいと思いますよ」
「……その通りなんですけど、こうやって市場を歩いていて面白そうな物を見つけると、ついつい買ってしまう事ってないですか?」
「ありません」
断言するコレットに悠魔は言葉が出てこなく奇妙な沈黙が訪れてしまい、沈黙を誤魔化すようにコレットの背中を押し1つの売店の前に立った。店には鉄や木材を加工して作られた動物を再現した置物が売られていた。
「へーどれも精工に作られてますね」
「おう、俺の自身の作品だ、どうだいねぇーちゃん1つ! 安くしとくぜ!」
「そうですね……あと、僕は男です」
悠魔は真剣な顔で1つの鉄で出来た鳥の置物を購入した。
「コレットさん、これすごくないですか! 今にも動き出しそうですよ!」
購入した鉄の鳥の置物をコレットに見せると、彼女は半目でそれを見てため息をはいた。
「そんな、鉄屑の何処がいいのですか? いくら精工に出来ていても所詮は鉄の塊ですよね」
「っ‼」
コレットのあまりな発言に悠魔は売店のおっちゃんの顔そーと見ると、その顔は茹蛸の様に真っ赤になって額に青筋を浮かべていたので、悠魔は慌ててコレットの背中を押して売店を後にした。
「勘弁してくださいよ、コレットさん」
「何がでしょう?」
「あんな事言ったら誰でも怒りますよ」
「私は感想を求められたので答えただけですので」
悠魔は何で囚われの身の自分がこんな苦労をしないといけないのか分からなくなり、次の店に移動した。
「こっちの服なんかどうですか?」
「ヒラヒラして動き辛いです」
何時もメイド服ばかりのコレットに似合う服を探して、今2人は洋服店来ており、コレットは頭にフリフリのヘッドドレスを着け、大量のレースが使われた黒と白の衣装を着用して両手にはリボンの付いた手袋をはめ、その手には黒い兎の人形を持ち、俗に言うゴスロリ服を着ていた。
「これ、脱いでもいいでしょうか?」
「気に入りませんか? 似合ってますけど」
コレットの身長は小柄で整った顔立ちに癖のないストレートな綺麗な金髪で、その風貌は人形の様な印象を受ける彼女はこの手の服がよく似あうと思い選んだ悠魔だったが、どうも彼女は気に入らないようで、さっさとメイド服に着替えてしまった。
「気に入りませんでしたか?」
「動き辛いです」
「もう少しおしゃれとかしたらどうですか?」
「必要ありません」
「まぁまぁ、ちょっとこっち来てください」
コレットが座らされた所は、化粧品などおしゃれの道具が置かれた机だった。
「ちょっとじっとしてください」
「ん」
されるがままのコレット、悠魔は手際よく彼女に化粧を施していき、化粧を終えた自分を見たコレットは相変わらず無表情で何の変化も見られなかったが、悠魔には何処か嬉しそうに見えた。
「気が済みましたか?」
「もう少し、違う反応とかないんでしょうか? すごく可愛くなってるのに」
「興味がありませんので、そもそも何故男性の悠魔様が、この様な技術を持ってるのですか?」
「今まで何度か女装をした事があるんですけど、その時に覚えました」
「……そう……ですか」
今の悠魔の発言に流石のコレットもドン引きしてしまい、悠魔から距離を取った。
「そうあからさまにドン引きされますと、流石に傷つきます」
「申し訳ありません、つい」
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「分かりました、その後はどうしますか?」
「特別やる事はないですけど……」
悠魔の発言を聞いたコレットは、そうでしたらと彼女の珍しく提案をして来た。
「あのう、もうそろそろやめませんか?」
「……」
無言で黒い駒を動かすコレットに悠魔も白い駒を動かす。あの後王宮に戻った2人はチェスをし始め現状の勝敗は悠魔が5勝コレットが5敗中で続けられた。
(この人、意外に負けず嫌いだよなぁ~……でも、脳筋過ぎるから動きが単調で読みやすいから)
「っ」
(こうなるよな……ハァ~)
今ので勝者が決まり、勝者は悠魔となった。
「もう1度です」
「え、でも、もう6回もしてますけど」
「もう1度です」
無言の圧力に飲まれ、頷いてしまう悠魔だが、何時まで続くのだろうと思い、時間だけが無駄に過ぎて行った。
 




