コレットの変化
ダイヤス帝国に監禁されて10日経ち、悠魔はそろそろ相手も強硬手段に出るだろうと思い朝食を食べていた。
「どうかされましたか?」
一緒に悠魔の作ったフレンチトーストを食べていたコレットが様子のおかしい悠魔に尋ねた。
「いえ、何でもないです」
「そうですか、それでは今日はどうされますか?」
相変わらずの淡白な反応に苦笑する悠魔、それを見てコレットは首を傾けた。彼女には悠魔が何故苦笑したのか分からなく、ただ自分は今日の予定を聞いただけなのに、なぜそんな反応をするのかは分からなかった。
「そうですね……コレットさんは何かしたい事とかありますか? いつも僕のしたい事に付き合ってもらってますし」
「そのような気遣い不要です」
「そう言わずに何かありませんか?」
「そう言われましても、急には……」
考える仕草をするコレット、しばらく室内に静寂が訪れ、何かを思いついたかのようにコレットが口を開いた。
「私でも、このような料理は可能でしょうか?」
「料理ですか?」
「はい、今までした事が無かったので」
「よし、でしたら朝食を済ませたら材料を買いに行きましょう」
買い物に出て色々な食材を購入した悠魔とコレットは、2人して部屋の簡易調理場で調理を始めたが、悠魔はすぐに後悔し始めた。彼女は食材を包丁で切ろうとするが、その手つきは危なく今にも指を切りそうになったり、フライパンを使えば炎が立ち上り、彼女が作業をするたび悠魔はヒヤヒヤしてとても疲れた。
「……余り美味しそうに見えません」
コレットの作った料理は、形も歪で所々焦げていてとても美味しそうには見えなかった。
「み、見た目より味です」
一口コレットの料理を食べた悠魔だったが、その味はとても美味しいとは言えなく、表情を曇らせるが彼女をがっかりさせないために明るく振舞うと、コレットは半目で悠魔を見て自分の作った食事を食べた。
普段が無表情で、何を考えてるか分かりづらい彼女だが、今考えてる事は悠魔にもすぐわかり気まずい空気が部屋を支配した。
「やっぱり、美味しくないです」
「そ、そんな事ないですよ、ち、ちょっと形は悪く焦げ臭いですけど」
「顔が引きつってますよ、無理して食べなくていいです」
流石に、自分の作った不味い料理を食べる悠魔を見て、引け目を感じたコレットが料理を下げようとするが、悠魔はそれを制止して料理を全て食べた。
「無理をしないでください、体調を悪くしたらどうするんですか?」
「いえ、せっかくコレットさんが作った物を捨てるのはもったいないと思いまして」
「それで体を壊したら元も子もありません」
食事を終えた悠魔の顔色は少々悪くなっておりベットに寝ていた。そんな彼を心配するかのようにベットの近くに座るコレット。
「あはは……それでも、コレットさんが初めて自分からしたいて言った事ですから」
「別に調理だけで、食べて欲しいとは言ってません」
「料理は食べるまでが、料理だと僕は思ってますから、それに誰かに食べてもらった方がうれしいですから」
「…………ありがとうございます」
「え、何か言いました?」
「いえ、何でもないです」
コレットがポツリと漏らした感謝の言葉は、小さく悠魔は聞き取れなかった。
「ん、寝てたのか……」
窓の外はすっかり太陽が沈み真っ暗になり夜空には星空が舞う真夜中だった。ベットから起き上がろうとすると、少女の小さな唸り声が聞こえて来た。
「ん、ぅぅん」
「……コレットさん?」
一ヶ月程の付き合いだが、彼女が悠魔の目の前でこんなに無防備な寝顔を見せた事はなかった、世話役のため、悠魔より遅く眠り、早く起きると言う生活の中、決して悠魔の前では眠そうな表情や、居眠りをすると言う事は無かった。
「……風邪を引きますよ」
悠魔がコレットをベットに寝かせ、暇潰しにテーブルに座り魔法石に細工を始めた。
「ん、はっ!」
「あ、起きましたかおはようございます」
「申し訳ありません! 眠ってしまっていたようで」
土下座でもする勢いで頭を下げるコレット、彼女にしては珍しく慌てた様子で、こういう反応を見ると彼女も年相応の少女なんだなと思い。
「平気ですよ、疲れていたんでしょうね、よく眠っていたので起こすのも悪いと思って」
「本当に、申し訳ありません、次からはこの様な事が無いようにいたします」
「気にしないでください、ほら、朝食食べましょう」
「……はい」
小さく頷くコレットだが眠ってしまったのを気にしてるのか、余り食事は進んでなかった。
「よし、ちょっと待っててください」
「はい?」
悠魔がローブから布袋を取り出し、中に入っていたクッキーを皿に盛りつけ紅茶をいれてコレットの前に並べた。
「これは?」
「まぁ、食べてください、美味しいですよ」
「はぁ」
コレットが1つのクッキーを摘まんで口に運んだ、クッキーは甘く珍しくコレットは幸せそうに頬を緩めた。
「美味しいですか?」
「はい、少し渋めの紅茶とよく合います……この紅茶何だか?」
「薬草の粉末を混ぜてあるんです、元気出ましたか?」
「はい、気を使わせてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、気にしないでください」
さっきまでとは打って変わって、暗い雰囲気はなくいつも通りの無表情に戻った。
「どうします、今日も料理して見ます?」
「いえ、私には向いていないので……」
「初めは誰も上手く出来ませんよ、ほらやりましょう!」
半ば無理矢理にコレットを簡易調理場に引っ張って行き、料理をし始めた。
「あのう、流石にこれは私でも恥ずかしいですが……」
「コレットさんの包丁さばきがとても怖いので」
二人羽織状態でコレットに包丁さばきを教える悠魔、流石にコレットは恥ずかしいのか無表情ながらも頬を赤くしていた。
「少し辛いですね……」
「それでは……」
「ちょっ、コレットさんストップ、ストップです、何を入れようとしてるんですか?」
「辛いので、砂糖を入れようかと……何か問題でも?」
「問題しかないですよ!」
ちなみに今作ってる物は野菜と干し肉のスープだった、それに躊躇なく砂糖を入れようとするコレットを慌てて悠魔が制止した。
「辛いから砂糖を入れれば解決する訳ではありません、この場合は水を入れて薄くするか、野菜を追加すればいいですから」
「わかりました」
そして、出来た料理が前に並べられていた、昨日作ったのとは違い形も整っていて焦げ臭くもなかった。
「美味しい……」
「昨日より上手に出来ましたね」
「……はい……あのう」
「何ですか?」
「もし、時間があればでいいのですが……また、教えていただいてもよろしいでしょうか? 料理を」
「……はい、大丈夫ですよ」
不便な事もあるが、悠魔自身彼女との生活は特段悪い気はしてなかった。またコレット自身も今の状況が楽しいのか、彼女自身は気が付いてないが悠魔に対して、人形の様な冷たい雰囲気はなくなっていた。
「そう言えば、ちょっと外出したいんですけど?」
「分かりました、どちらに向かいますか?」
向かった先は、ダイヤス帝国の国内にある森林だった。
「何故このような所に?」
「ダイヤス帝国内部にどんな植物があるのか興味があって」
「……悠魔様」
「な、何でしょうか?」
悠魔を見るコレットの視線は少し呆れの感情が含まれていた。ここ最近コレットの考えが読める様になった悠魔は、彼女が心底呆れてる事がわかり流石にバツが悪くなり視線を逸らした。
「私が言えた事ではないのですが、この様な事をしてる場合ではないのではないですか?」
「そう言われましても、僕はエリクサーの生成方法を公開するつもりはありませんし、諦めてる貰うしかないんですけどね、あはは……」
「上層部は、余り好い感情は抱いてません……このままでは悠魔様が――っ!」
「コレットさん……」
彼女にしては珍しく感情を表に出して悠魔に詰め寄った。本人も意外だったのか途中で言葉を切り驚いた表情をしていた。
「大丈夫ですよ、何とかなりますよ」
「で、ですが……」
悠魔は木の根元に自生していた薬草を摘み眺めローブにしまい立ち上がり辺りを見回し警戒し始めた。コレットも異変に気が付いたのか、腰に付けていた剣を抜き戦闘態勢を取った。
「数は?」
「数十体かと、何故こんなに接近されるまで気が付かなかったのか……」
いつものコレットならこんな失敗はする事はなく、逸早く魔物の接近に気が付くのに囲まれるまで気が付かなかった、悠魔は普段通りの彼女だったらこんな失敗はしないと思ったが、先ほどまでの彼女は何処かおかし見えたので仕方ないと思い、魔物が潜んでるであろう茂みに魔法を放った。
茂みから飛び出して来たのは、黒い狼に乗るゴブリンだった。魔物の名前はゴブリンライダーで、その特徴は狼による機動力と連携で、5体程度の群れでも鉄ランクの冒険者のパーティーを全滅させることがある、それが周辺に20体。
悠魔が魔法を放つが、ゴブリンは狼の機動力で悠魔の魔法を避け接近して悠魔に剣を振り下ろそうとするが、コレットが飛び出して来て、ゴブリンと狼を両断した。
「ありがとうございます」
「いえ、護衛も仕事ですから」
剣に付着した血を振り払い、ゴブリンライダーの群れに向けて走り出した。コレットの接近にゴブリンライダーは散会して四方からコレットに襲い掛かった。
――魔弾
悠魔の放つ魔弾がゴブリンライダーを打ち倒し、空いた隙間からコレットが走り抜けた。
辺りにはゴブリンと黒い狼の死体が転がっていて、その中央に血で汚れた悠魔とコレットが座り込んでいた。
「つ、疲れました」
「ですね、流石に疲れました」
疲れは有るが、このまま此処に居る訳にはいかなく、また他の魔物に襲われたらたまらないので、この場を後にしようと2人は立ち上がろうとした時、悠魔の視界に死にかけの狼が見え、その狼がコレットに飛び掛かり彼女が気が付いた時には、その爪が目の前まで迫っており避けるのは不可能と思った。しかしコレットを悠魔が突き飛ばし、その爪は悠魔を引き裂いた。
痛みでその場に蹲る悠魔、それを心配して狼を切り倒し彼に駆け寄るコレット、悠魔はローブからポーションを取り出し飲もうとするが、痛みからか中々蓋を開けれなく。
それを見たコレットが悠魔の手からポーションを奪い取り蓋を開けて悠魔に飲ませた。しばらくして、傷が癒えた悠魔が目を覚ますと、一番に飛び込んで来た光景は涙したコレットの顔だった。
「何を泣いてるんですか?」
「よ、よかったです」
体を起こし泣き崩れるコレットの頭を撫でる悠魔だが、手を払いのけられてしまい彼女には珍しく怒りの表情を見せた。
「何故、あんな無茶をしたんですか⁉」
「あはは……すいません、体が勝手に動いてしまったもので」
「もう、あんな真似はやめてください! 貴方を護るのは私の仕事なんです! 貴方にもしもの事があったら! 私は……っ!」
コレットは言葉を切り森を出る為に歩き出した。
それを追うように悠魔も立ち上がり、コレットを追いかけた。やはり、今日のコレットは様子が変で、あれほど感情を向き出しにするのは、初めてで悠魔は戸惑った。
2人は全く会話をしないで森の中を歩いて行き、王宮に戻った。




