黒いドラゴン
コトナとアリスの目の前には、巨大な黒い鱗を持つ地竜が立っており、二人を見つめ咆哮を発した。
「っ! 来るぞ!」
「これって倒せるんでしょうか?」
アリスの言葉にコトナが腰から下げていた騎士剣を抜き構え、肉体強化の魔法を自分に掛けて地竜目掛けて走り出した。
「はっ!」
コトナが地竜の脇腹に剣を突きつけるが刀身の真ん中から折れてしまい、コトナは目を大きく開き慌てて地竜から距離を取った。
「この剣、それなりに良い物なんですけど……高かったのに」
「あの鱗かなり固いね」
「はい、さっきの感じだとあの鱗、鉄みたいな感じですね」
折れた剣を鞘に納め、困ったような表情を浮かべたコトナはアリスに地竜の鱗が鉄の様な素材で出来ていて普通の攻撃では、効果が薄くどうやって目の前の地竜を倒すかを話し合い始めた。
「何とかなります?」
「ただの地竜なら倒せるが、こんな変異種初めて見るし」
アリスが自分の周りに魔剣を展開して、戦闘の準備を始めた。それを見た地竜は魔剣の魔力を感じ取ったのか、先ほどまでとは目つきを変えて二人目掛けて走り出した。
「トカゲ風情が――起動」
アリスが魔法を発動させるとアリスの片腕の指先から魔力で作られた糸が出て、魔剣に展開された魔法陣に接続された。
そうすると魔剣が宙を舞い地竜目掛けて飛んで行くが、鉄の様に固い鱗に阻まれ傷を付ける事は出来ずに、それを見たアリスは険しい顔をして、浮遊していた魔剣を一本掴むと地竜目掛けて走り出し魔剣を振り下ろすがコトナと同様に鱗に弾かれ地竜から距離を取った。距離を取ったアリス目掛けて地竜は口を開くと岩塊を吐き出した。
「っ!」
複数の魔剣を盾の様に配置して飛んで来た岩塊を防ぎ、手に持っていた魔剣を振るうと雷が飛び地竜に命中するが、効果はなく。
「アリスさん何とかしてください!」
「無茶を言うな! いくら広くても、こんな洞窟内で規模の大きな魔法を使えば生き埋めになるぞ!」
アリスは魔剣を操り地竜を切り付けるが効果はなく、コトナも魔法を使い攻撃するが効果はなく二人ともじりじり、追い詰められていった。
「くそ!」
「ちょっと! アリスさん!」
アリスはコトナを肩に担ぎあげそのまま、空洞を抜け初めの人工的に作られた空間に逃げ込むが地竜も二人の後を追い空間に入り込むとそこには、魔法の発動を準備していたアリスが立っており。
「氷塊の棺! 」
地竜の足元に魔法陣が展開され光り輝くと巨大な氷塊が地竜を飲み込んだ。それを見たコトナはアリスに賞賛を送るが、アリスはさらに別の魔法陣を展開して。
「まだだ、氷の破裂」
地竜を覆っていた氷塊にひびが入り大爆発を起こし、辺り一面に冷気が充満し二人の吐息が白く凍りコトナが一息を着こうとするが、飛行の魔法を発動させたアリスによって肩に担がれ降りて来た天井の穴を目指して飛翔し始めた。
「アリスさん!?」
「このくらいで倒せる相手なら苦労はない! 今の内に地上に出るよ!」
今の攻撃に全くの手応えを感じなかった、アリスは急いで地上に出ようと空洞を飛行していった。後ろからは、先ほどまでとは違う明らかな敵意を持った地竜の咆哮が聞こえて来て、その声を聞いたコトナは嫌な寒気を感じてしまう。
やがて地上に出るとコトナを下ろしたアリスが大穴の方を見ると黒い影が飛び出して来て苦虫を噛み潰したよう表情をして、魔剣を構えた。
「此処なら遠慮なく出来るな」
アリスが構えた炎を纏った魔剣と風を纏った魔剣の二本を同時に振るうと炎の竜巻が起こり地竜を飲み込んだ。しかし、炎の竜巻の中から地竜が吐き出したと思われる岩塊がアリスとコトナを襲い二人は岩塊を避ける為に動くが地竜が炎の竜巻から飛び出して来て尻尾の打撃をアリスに浴びせた。
「がっ!」
「アリスさん!」
勢いよく吹き飛ばされたアリスは、そのまま岸壁にぶつかり追い打ちを掛けようと走って来た地竜の攻撃を避ける為に飛行の魔法を発動させてた。
「この――蜥蜴風情が! 調子に乗るな!」
アリスは、怒りに満ちた表情をして、魔剣を持ち替え振り下ろすと溶岩球が降り注ぎ地竜を飲み込んだ辺りは、一瞬で溶岩地帯に代わりさらにアリスが別の魔剣を振り下ろすと溶岩が熱されて固まってしまい、その光景を離れた位置から見ていたコトナは息を呑みその光景に見とれてしまった。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「アリスさん! 大丈夫ですか?」
「ああ、少し疲れたが流石にこれなら……」
コトナは体中に傷をつくり息を切らしたアリスに駆け寄り、傷の手当てをしようと回復魔法を発動させようとするが、アリスは大きく舌打ちをコトナを抱えその場から飛びのいた。
「ア、アリスさん!?」
「くそ! 今のでもダメか!」
地表にひびが入り中から地竜が這い出て来た、体の鱗は所々溶けただれているが闘志は衰えてなく咆哮して岩塊を吐き出しコトナとアリスを襲う。
「っ! 氷の壁」
アリスが分厚い氷の壁を作り出し岩塊から身を守るが、次の瞬間に地竜の体当たりで氷の壁が破壊されてしまい。コトナが魔槍と言う魔法を発動して魔力で出来た槍を放つが地竜に傷を付ける事すら出来ず、地竜がコトナを見て口を開き岩塊を吐こうとするが、隣にいたアリスが魔剣を振るい。
「いい加減にしろ!」
溶岩弾が地竜の口の中を焼き、地竜が咆哮を上げてその場に倒れ込み、その隙を見てアリスがいくつもの魔剣を自分の周囲に展開して魔法剣を掲げると魔剣から魔力が流れ魔法剣が輝きをました。
「これで、終わりだ!」
アリスが魔法剣を振るうと今まで傷がつかなかった、地竜の首を切断した。地竜は傷口から血を吹き出し倒れ次第に動かなくなり絶命した。
「ふぇ~初めから倒せるなら、倒してくださいよ」
涙目になりながらその場に座り込むコトナは、目の前に立つ息を切らしボロボロになアリスに不満を言うが、アリスは今まで何故地竜の切断した魔法剣を使わなかったのかを説明し始めた。
「君、簡単に言うがあの魔法は燃費が悪いんだ、あれで決められなかったら後がなくなっていたんだよ」
アリスも疲れた様に息を整えながらその場に座り込み、消費した魔力を回復するのに取り出した魔力ポーションを飲みだした。
「全く何なんだこいつは、その辺の魔王種と同等の強さておかしいだろ?」
「そうですよね」
二人して動かなくなった地竜を見上げ、しばらく休み日が傾いて来たので調べるために地竜の体の一部を採取して下山した。
「疲れた」
「疲れました」
「二人とも大丈夫ですか?」
真白が桶に居れた水とタオルを持って来て二人に渡しアリスの傷を治療し始めた。
「いっ!」
「我慢してください」
「もう少し……優しくしてくれないか?」
コトナは体を拭き真白がアリスの体を拭き傷口に薬を塗り包帯を巻いて行くと急に襖が開き、そこには悠魔が立っており今の光景を見た悠魔はその場で固まってしまい。
「ああ、君かどう」
「悠魔様今は早く出て行ってください!」
「悠魔君のスケベ!」
女性二人に追い出されてしまい、悠魔は襖にもたれ掛かりその場で襖の中で見てしまった光景を噛みしめていた。そんな事をしていると歩いて来た紅に怪訝な目で見られた。
「君達は何を慌ててるんだ?」
「アリス様! 女性は安易に男性に肌を見せない物です!」
「ん、僕は別に悠魔ならいいよ、昨日も体を洗ってもらったし」
「はぃ!?」
その言葉にコトナが過敏に反応して、アリスがその説明をするとコトナは色々納得したように頷き真白は顔を真っ赤にしてその場で倒れてしまい。
「この子は初だな」
「いえ、流石に私も裸を見られるのは恥ずかしいですよ、アリスさんも悠魔君以外の男性に裸を見られると恥ずかしいいですよね?」
「別に……ただ不愉快だからそんな男が居たら始末するけどね」
何処かズレた意見を言うアリスにコトナは頭を抱えてしまい、アリスは真白が倒れてしまったので仕方なく器用に包帯を巻いて行き。
「すいませんでした」
「もう、いいです事故ですから」
「見たければ、僕は何時でも見せるよ」
「貴方は何言ってるんですか!」
土下座をする悠魔にコトナは顔を赤くして許すがアリスが馬鹿な事を言い出すので悠魔は顔を上げて反論した。
「皆さま夕食の用意が出来ました」
真白に呼ばれて部屋を移動するとそこには、和食が並べられていてすでに紅が座り全員が揃うのを待っていた。食事をしながらアリスとコトナは山で見た事を説明し始めた。
「と言う訳だ」
「お兄様?」
「いや、俺も長く此処に住んでいるがそんな地竜は見た事がないな」
真白も紅も心当たりがなく結局有力な情報は得られなくガッカリするコトナに二人はすまなさそうな顔をして、そんな時アリスが何かを思い出したかのようにポツリと呟いた。
「起源龍」
「「「え、」」」
コトナ、紅、真白の三人はその言葉を聞いて表情を強張らせた。
「アリスさん起源龍て何ですか?」
ただ一人この世界の常識に疎い悠魔だけは皆が何故、そんな表情をするのかは分からなく。
「ああ、起源龍て言うのは」
アリスが起源龍についてを説明し始めた。
説明によると火、水、風、地、光、闇の属性を持つ六体の龍で、その昔この世界を造ったと言われてる存在で、水の起源龍ネプトゥーは何もなかった世界に海を造り、地の起源龍グラウは大陸を造り、風の起源龍ゾーマは風を起こして海に眠る命を運び、火の起源龍メギドは草木を焼き灰を造り森を広げ、光の起源龍ウルティマ世界を照らし朝を造り、闇の起源龍ゾーアは世界を闇に照らし夜を造った。
「――と言うのが、世界を造ったと言われる神話だよ」
「神話なんですか? でも話を聞く限り神様みたいなものですね、それが今回の黒い地竜とどう関係があるんですか?」
「ああ、起源龍は確かに世界を造った神と言われてるが、厄災の象徴とも言われ世界を何度も破壊したと言う記述が見つかってるんだ」
「どういうことですか?」
「どれが、本当なのかは分からない起源龍は本当に存在するのかもねただ、今回の地竜は奇妙な魔力を感じたまるで、この世の者ではないような」
悠魔には普段から余裕のある態度を崩さないアリスは、この時だけは弱弱しく見えてしまい、今回の出来事はアリスにも予想外の事が多いのだと実感した。




