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ルキスの剣  作者: 夜津
第三章 魔と北の国へ
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84 ザミグラッツ  

 目の前の氷の城は、雪雲に覆われた空の下に堂々と構えている。銀や灰にも見えて、ときどき青色がかかったように輝く。氷でできているから透き通ってるんだろうと思ってたけど、氷の壁は厚く外から中は見えなかった。


 いよいよ来ちまったな…、氷の城ザミグラッツ。俺はそりから降りて、ザクザクと硬い氷雪の大地に踏み出す。あんなにふぶいてたのに、この氷の城の周りはちらりとも雪は降ってなくて不思議だ…。

シャハンは目の前の氷の城にホォーッとため息をつき、ザハーロは興奮のあまり言葉を失ってる。そりを引いていたラフィークは元の大きさに戻るとシャハンの背に走って飛び乗った。


 それにしても、噂のドラゴンの姿はない。氷の城を守ってるって伝説があったから外でドシーンと待ってるものだと思ってたのになぁー…いや、いきなり戦闘になるとかよりはマシだよな!

もしかしたらたまたま今は別の場所に散歩に出かけてるだけかもしれない。…だったらチャンスだ!今のうちに氷の城に入っちまおう!俺は城の前で固まってる二人を振り返る。


 「なぁ!さっさと入ろうぜ!」

 「ねぇねぇステイシアちゃん、このお城って入り口どこなのかなぁ?もしかしてあの門、開けるのかなっ?」


 …意外と冷静だったシャハンの言葉に、俺はスススッと氷の城へ視線を移す。……うわ。門…というか、扉だよな?下手すりゃ一階建ての建物の屋根の高さぐらいありそうなデッカい入り口の扉に思わず数回瞬き。パチパチ…。…はぁ!?


 「何だあの入り口!人力で開けれるレベルじゃないだろ!つか凍てついてもう開かないんじゃ……マジかよここまできて…」


 と、俺が目を剥いたとき。突然、雪原に重々しい音が響いた。


 ―――ガローン……………


 「うわあああああ何の音!!?」

 「あーっ!ザハリスちゃん何してんの!?」


 お化けでも出るんじゃないか、ヤバいもんでも召喚しちまうんじゃないかって音が!何だこれ鐘の音!?音の発生源を俺が探すのと、シャハンが声を上げたのは同時!見ると、いつの間にかザハーロが氷の城の扉の前に移動してる!

しかも何か…扉の横にあるヒモみたいなもの持ってるし。慌てて俺とシャハンがそっちへ行くと、ザハーロは平然と手のヒモを見せた。ヒモは扉の横、遥か上から垂れさがってる太い青色。ずーっとヒモの先を見上げていくと…あ、あれっ!


 上に続いてるヒモは、この馬鹿でかい扉のさらに上にあるこれまた規格外に大きな氷の鐘に繋がってた!なるほどヒモを引っ張ったらあの鐘が鳴るのかー……じゃなくて!


 「ザハーロお前何いきなり仕掛け触ってんだよ!あの鐘落ちてきたらどうすんだよ俺たち潰されて死ぬぞ!?」

 「何って……、人の家に来たら普通呼び鈴を鳴らすだろう?これもそれの一つかと…」

 「お前礼儀正しいのはいいけどこんな最北の氷の城に礼儀もマナーも何も……………お?」


 俺が肩をすくめてジト目でザハーロを睨んでると……突然地響きのような音がし始めた。ズズズズ、と何か…動いてる音?あ、と隣のシャハンが小さい声を上げたとき…!…扉が奥へ開き始めた……!


 ―――ズズズズ、…ドン…!


 「…マジかよ開いた」

 「ほら見ろ。僕は行くぞ」

 「おいらも!ね、ラフィーク!」「ミャッ」


 うわっザハーロ先輩ってばドヤ顔超似合うッス!あー待って待って俺も行く俺も行く待って!開いた氷の扉の奥へすたすたと進んでいく二人(と一匹)を俺も慌てて追う!せっかく開いたのに置いてくなーっ!


 *


 入ってすぐの円状エントランスの壁には、いくつもの扉がある。どれも同じ形で同じ大きさだ。他に階段も廊下もなくて、このずらーっと並ぶ扉のうち一つを選んで進むしかないってわけだな。

エントランスの天井には氷のシャンデリア。ぼやーっと光を放っているから、氷の中に光魔法か何かを閉じ込めてるのかも。幻想的だけど楽しんでるヒマはなさそうだ…。


 「ザハーロ、扉いっぱいあるけど三手に別れてそれぞれ別の扉を選ぶか?」

 「いや、三人一緒に行く。戦力を分散させたくない」

 

 さっそくエントランスの床をアイススケートのように滑って楽しんでるシャハンを横目に、俺とザハーロで相談。ほんとシャハンっていつも楽しそうだよな…。すぐにシャハンを連れ戻し、適当に一つの扉を選んで進む。

扉を開けた向こうには廊下。けど、壁と壁の間が狭い。床と天井の間も、俺がピッと背を伸ばしたときの身長ぐらいしかない。おまけにそこらかしこから氷のトゲがニョキッと生えてるから進みづらい…!


 これは氷のトンネルだな。壁からズドンと突き出てる氷のトゲや障害物を必死に乗り越えて進まなくちゃいけない。先頭はシャハン、次にザハーロ、最後に俺って順番でトンネルをくぐっていく。

俺たちは揃って小柄や細身な体格だからいいけど、これ…大柄な奴じゃ通れないよな。それに、もし俺たちがこの先行き止まりにぶち当たればまたここを通ってエントランスに戻らなきゃいけないんだし…本格ダンジョン、なのか?


 黙々とトンネルを進み続けると、ようやく次の部屋に出られた。大部屋か…何もない。って、出口の扉もないし行き止まりかよ!俺が無言で肩を落としてると、ザハーロが部屋を歩き回ってフン、と鼻を鳴らす。何だ?


 「…戦闘の準備をしてくれ。ここにボタンがある」

 「は?ボタンって…何で戦闘?」

 「いいから、頼むぞ」

 

 って、ほんとに戦闘!?シャハンは鼻歌を歌いながらさっそく手をポキポキ鳴らしてる!ラフィークはその背で欠伸してるけど……まぁいいか!とりあえず短剣装備しとく!俺とシャハンが準備できたのを見て、…ザハーロが壁のボタンをポチッ。


 …何も起きないじゃん。なんだよ拍子抜け…と思った時!天井に突然『30』の文字が浮かんだ!な、何が始まるんだ……ってうわああぁ壁!壁から…何か出てきてる!氷の壁から粘土で人形でも作るように、何かが出てきてる!

そりゃまぁ粘土じゃなくて氷なんだけどさ……あ、そういうことか。俺は天井の数字と、壁から続々と生み出される氷の塊にちらっと目を向けた。氷の塊はどんどん形を変えて…やがて人型になった。武器らしきものを持つ奴もいるぞ。


 「氷人形30体撃破。それがこの部屋を抜ける条件みたいだな」

 「成程ねっ!そいじゃおいら、もうやっちゃっていい?」

 「あぁ、頼む!サクッと終わらせようぜ!」


 形を整えた氷人形はまるで氷の甲冑に身を包んだ戦士みたいだ。槍や剣などを構える氷人形もいるし直接殴りかかってくる氷人形も。攻撃パターンは様々…どうやって片づけるか、なんて決まってる!


 俺は氷人形の一体をパシッと掴んだ。腕を掴まれた人形が俺を振りほどこうとする…その前に!俺は人形を掴んだ手に力を込め、息を吸って……よっしゃ、行くぞ!


 「融かせ!ラエア!」


 火の攻撃・ラエアだ!俺の腕から吹き出すように現れた力が、炎を上げながら人形を包む!あっという間に氷人形は融けて消え、天井の数字が『29』になる!よっしゃ、次だ!

俺が次の氷人形に狙いを定めてると、突然目の前の人形たちが一斉に吹き飛ばされて壁にバンッと強く激突!そのままバラバラになって…数字は『25』!シャハンが両手を前へ突き出した恰好でニカッと笑ってみせた。


 「案外脆いねぇ。ちょーっと吹き飛ばしただけなんだけどっ」

 「そりゃシャハンが強いからだろ…」

 「そうかなっ?エヘヘ、ステイシアちゃんに褒められたっ!」


 いや、俺は呆れてるんだけど……って、シャハン後ろ!剣持った奴が襲い掛かろうとしてるぞ!俺で間に合うか!?と慌てて駆け寄ろうとしたその時!


 「ジャールキィ!」


 ザハーロの声だ!シャハンの後ろにいた氷人形がグニャッと形を変えて崩れ、完璧に融け落ちる!ぶわっと部屋の中がいきなり熱くなった気がして俺はザハーロを見た。


 「何だ今の!」

 「中級の火魔法。熱波で敵の体を包み、融かす。…僕はあまり火魔法は得意じゃないし詠唱に時間がかかる。お前たち二人でさっさと倒せ!」

 

 赤い魔法書だ!ザハーロは俺たちに叫ぶとすぐにまた詠唱を始める。魔法書からバチッとときどき閃光が上がるのを見ながら、俺はザハーロの傍へ駆け寄った。


 「じゃ、俺は詠唱中のお前を守る!シャハン、風魔法でできるだけ氷人形どもを部屋の隅へ集めてくれ!」

 「集めるだけでいいの?そのまま壁にドシーンでガラガラッてできるよぅ!」

 「頼む!」


 俺はザハーロを狙う氷人形をラエアで融かす!ザハーロも次々に詠唱を完了させ、シャハンの風魔法に引っかからなかった奴らをテキパキと魔法で倒していく!天井の数字は『15』、これで半分は倒したな!

そして。シャハンが詠唱抜きで風魔法を発動させ、残りの氷人形たちを壁に寄せていく。うわ、不気味な光景…。壁際に氷人形がギッシリ…!


 パッとシャハンが両手を上げ、叫ぶ!


 「グルグル竜巻、イアサール!」


 ―――バリバリバリッ!


 んぎゃー!竜巻が!部屋の隅に集められた氷人形が突如現れた竜巻に巻き込まれてクラッシュしていく…!竜巻が収まると、氷人形はもう粉々に…。天井の数字は『0』。えっ、全部倒したのかよ!

まだ詠唱して魔法攻撃を準備していたザハーロと、もっと戦闘が続くと思ってた俺はポカーンと立ち尽くす。宙に浮いていたシャハンがひらりと地面に降りて、ラフィークを撫でながらまた笑ってみせた。


 「うーん、おいらの前に敵なし!そうだよなっ、ラフィーク!」

 「ミャオッ」


 …。……もう戦闘はお前一人で大丈夫な気がしてきたよ。ザハーロと俺はもう何も言えず、天井の数字が消えるのと同時に壁に次の扉が出現したのをそっと見つめるしかできなかった。


 *


 ハニも記録を残してたけどさ…、本当にこの城の中はどうなってんだ。罠やトラップが多い!なんとなーく壁に寄りかかったらパキョッて壁が割れて隠し部屋見つけたり、つららが一定間隔にサクサク落ちてきたり!

一度歩いたら抜け落ちる床とか、傾斜が急な氷の坂とか、雪玉をポンポン投げてくる雪だるまの置物とか!魔物は出ないけど、氷人形はひょいひょい出現するし!地味にめんどくさくて嫌になってきた!


 今も巨大迷路を爆走中。かなりの大部屋で、迷路になってる氷の壁は天井から床までズドーン!だからシャハンが飛んで上から迷路の全体図を見る、なんてこともできない。

氷の壁は火の魔法じゃ解けないってザハーロが実践してたし。俺はラエアを使えるけど、ここまである意味懇切丁寧に作りこまれたアトラクション的な城をラエアで融かすのもナンセンスだと思って実行せず。


 やっぱダンジョンは地道に攻略しないとね!と張り切るシャハンの言葉もあり、今はこの巨大迷路を………あーまた行き止まりか!この迷路に限っては別行動して出口を探すぞってことになったから一人でションボリ。

途中の道まで戻って、『この道の先は行き止まりですよー』って分かるように目印を作る。と言ってもナイフで床をガリッと削って×マークをつけるだけなんだけどな。


 ハイハイまた次の道ね…と迷路に挑戦し始めてかなり時間が経った頃。ようやくザハーロの声が聞こえてきた。


 「出口を見つけた!一度入り口に集合しろ!」


 おぉ、やっと!つるつる滑る氷の床に気を付けながら入り口に戻ると、もうシャハンとザハーロが待っていた。シャハンはずっと飛びまわっていたのか、疲れたらしく氷の床にデローンと突っ伏してる。


 「もうおいら疲れたよー…行っても行っても行き止まりなんだよぅ…」

 「だが、もうこれで最後だ。この入り口を見てみろ、僕たちが通ってきた扉以外にも幾つも扉がある。最初でどの扉を選んで進んでいても結局この迷路に辿り着くことになっていたってことだ。

  だったら考えることは一つ。この迷路を抜ければいよいよ…氷の城の宝物庫か玉座の間か、何か特別な場所に着くはずだ」


 確かに、ザハーロの言うとおりだ。この入り口には扉がいっぱいある。この部屋からその扉を開けることはできなかったから一方通行なんだろうな…、俺たちが通ってきた扉も一度閉めるとこっち側からは開けられなくなったし。

それにしても、この迷路の先はどうなってるんだろう。やっぱり宝物庫か!?いや、城に玉座の間がないってのもな…。城なんだし、誰かがいるはずだ。今はいなくても、誰かがここを治めていたはずだし。


 なんにせよ、進んでみないと分からない。くたびれてるシャハンを引っ張りながらザハーロの案内に従って道を進むと、ようやく氷の壁が惑わす迷路を抜けて大きな扉の前に来た。…なんか、いよいよって感じだ。


 城の入り口の扉程は大きくないけど、氷の凝った装飾がなされている大きな扉が目の前にある。俺はためしに扉を押してみたけど、やっぱり開かない。この扉も人力で無理やり開けるものじゃないのかも。

じゃあ入り口の時みたいに呼び鈴…いや、鐘があるのかと言われれば何も見あたらない。シャハンと俺は首を傾げて、…ハイ、こんなときはザハーロ先輩に。


 ザハーロは俺たちの『?』な顔を呆れたように見て目を閉じた。


 「他人の部屋を訪ねるときはどうする?」 

 「えっ、おいら何もせず突撃しちゃうよぅ」

 「開かないなら蹴破る」

 「お前ら…」


 俺はまたシャハンと顔を見合わせて首を傾げた。違うのか?ザハーロはため息を一つついてから、扉の前に立った。カツ、と氷の床から軽い音が鳴る。


 「僕ならこうするが」


 ――――コン、コン


 あ、ノックね!うん知ってた!俺もよくやるよノック!別に気付かなかったわけじゃねぇからな!……あー、ノックか……いや知ってたから!


 ザハーロが大きな氷の扉をノックすると、…やっぱり正解だ!ギギギ、と氷の扉が開く!いよいよ氷の城最奥か…!?我先にと開く扉の奥を俺たちが見ると……!…おぉぉっ!


 やっぱりすっごく広い部屋だ!部屋というか…玉座の間!奥には透明で大きな窓、その前に玉座がある。柱にも彫刻が施されてて、壁にも上品な布がかかってる。青を基調とした織物だ。この入り口から玉座までにも青いじゅうたんが敷いてある。

ここで氷人形が一斉に出てきて最後の戦闘に……とも思ったけど、そんな様子はない。シンと静まり返っている玉座の間には誰の姿もなく、動くものもない。


 「…本当に入っちゃっていいのかな?」

 「僕の目的は雪原の竜に会うことだが、いないのなら仕方ない。それでもステイト、お前の目的は別にあるんだろう?だったら帰ってどうする」

 「そうだよな…じゃあお邪魔しまーす…」


 ザハーロのもっともな言葉にこくこく頷きながら、俺は遠慮がちに青のじゅうたんを踏んだ。続いてザハーロも。シャハンはきょろきょろと玉座の間を見回しながら感嘆の声を上げてる。

じゅうたんを踏むたびに、少し埃の匂いがした。こんな氷の城でも平等に時間は流れてる。俺たちの前に誰が来たかは分からないけど、人間がここを訪れた最後のときはもしかしたら境界戦争までさかのぼるのかも。


 ザハーロはまっすぐ玉座まで歩いて行って、玉座の周りをじっくり調べ始めた。シャハンはこの広い部屋をあちこち確認してる。俺は…ハニがどこに『探し物』を隠してるのか見当がつかないから、とりあえず部屋の隅から見に行く。

あからさまに宝箱とか置いてあれば分かりやすいのに、と思いつつ隠し扉がないかコソコソ調べてたら…。ヒョォーッ、と素っ頓狂な声が部屋の端から聞こえた!


 「ちょ、ちょ、ちょっと来てステイシアちゃん、ザハリスちゃんも!すぐ!」

 「なんだよシャハン、何を見つけて…………ん?」

 「僕も今はこの玉座のあたりを調べたいんだが………え?」


 シャハンの興奮したような慌てたような声に俺たちが振り返ると。シャハンが部屋の入り口側の隅で俺たちを手招きしてる。その傍にはいくつもの氷のオブジェが飾ってあるけど、中でも一つ、一回り大きな雪像があった。

すらっとして綺麗な他の氷像とは違って、ずんぐりむっくりした白くて大きい雪像はこれもまた甲冑姿のように見える。その手の槍だけは氷でできていた。…何のオブジェなんだろう?


 「こらシャハン、勝手に動かすなよ?何か隠されてるかもしれないんだし」

 「そうだな…僕も何故その像だけが氷ではなくて雪でできているのか気になる。下手に触るな」

 「わ、分かってるんだけどいいから早く!何かこの像、ヘンっていうか…その、おいらもよく分かんない何かを感じるんだよぅ!」


 …あの能天気マイペースシャハンがそんなに慌てるなんて。俺とザハーロもその像の前に来て雪像を観察する。雪だるまと同じだろ?もしかして中に宝箱とか埋まってんのかな?


 下手に触るな勝手に動かすなとは俺たちが言ったことだけど。シャハンがそわそわして雪像を見てる横で俺とザハーロは目くばせして…。………。


 ―――ズボッ


 「そぉいっ!」

 「えええええ!?おいらにはダメって言ったくせに何で自分たちは雪像に腕ツッコんでるの!?ずるいよーっ!!」

 「何か中に入ってるかもしれないだろ!」

 「雪像バラすぞ」


 俺とザハーロは同時に雪像に腕を突っ込んで、ザクッと雪をかく!こりゃ俺の勘によれば宝箱が埋まってるな!ザハーロもその気だし、この妙な雪像バラバラにしちまおう!うおおおおおっ!!


 ………とはならなかった。突然雪像の持つ氷の槍がピクッと動いたかと思うと…俺たちが反応する間もなく雪像が動いた!ザッとその雪の腕を振り上げ、足がドシッと床を踏む……う、う、動いたーーーっ!!!?

慌てて腕を引き抜いた俺たちは雪像と距離をとる!シャハンは既に宙に浮いていて、慌てる俺たちを苦笑で眺めてる。…こいつこうなることを予想してたな…!


 「ちょ、雪像動いた!ヤバいってコレ!」

 「槍を構えているぞ。あの氷人形のボスかもしれない」

 「ほーらー、ステイシアちゃんたちが触るからー。おいら手伝わないよー?」

 「シャハン様お願い手伝ってーっ!」


 重量感ある動きで雪像が槍を構える!けど動くたびにぱらぱらと雪が剥がれ落ちていく。ど、どうしよう。なんか風格が凄いんだけど…この氷人形。オーラが出てそうな…。…けどひとまず戦うしかないか!

俺は片手に短剣を装備し、横目にザハーロを見た。ザハーロももう魔法書を用意して詠唱準備に入ってる。…よし、行くぞ!


 「ザハーロ、援護頼むぞ!俺はあいつに直接攻撃を仕掛けるから!」

 「ああ、了解し……………っ!?…ど、どういうことだ!?」


 ザハーロが俺の言葉に頷いて魔法書を構えたとき!突然ザハーロが目を見開いて口をぱくぱくと魚みたいに開いた。あ、あいつ大事な時に何やってるんだよ!?

 

 「おい、ザハーロどうした!?」

 「…おかしい!魔法詠唱のスペルだけ…発音できない!どういうことだ、…………、くっ、どうなってる!?声が……詠唱の時だけ声が出ない!」

 「はぁ!?」


 ザハーロが苛立ちながら叫ぶのと同時に、うわーっ、と後ろで音がした。続いてドンッと…何だよ次は!振り返るとシャハンが…氷の床に落下して倒れ伏してる!さ、さっきまで飛んでたよな!?

シャハンはイテテ、と呟きながら俺に手を合わせた。


 「お、おいらも魔法がキャンセルされてる!きっとあの雪甲冑の仕業だよっ!この空間じゃ魔法が使えなくなってる!」

 「マジかよ……ってことは俺がなんとかするしか…!」


 あの雪像何者だ!?ザハーロとシャハンは魔法に頼った攻撃スタイルだから…魔法がキャンセルされるんじゃ戦力としては望めねぇ!俺は短剣を握り直して雪像と対峙する。雪像はやっぱり氷の槍を構えて俺の動きを待っていた。…やるか…!?


 俺はできるだけ速く雪像に突っ込む!…俺の方がきっと速さは勝る!そう思ったのに、次の瞬間には俺の短剣に衝撃が走り、思わず俺はそれを手放した。…くそ!飛び退ろうとすると追撃の槍が俺の頬を掠める!…恐ッ!

カチャン、と俺の短剣が氷の床に音を立てて落ちる。それでも雪像は俺に短剣を拾う隙すら与えず、見た目からは想像もつかない速さで槍を何度も俺に突き出した!おいおいマジかよ…!これじゃ近づけない!


 後ろに回り込もうとするけど足元が滑るからうまくいかない。なんとかチャンスを掴んでも、あと一歩で像に届くってところで槍の柄に叩かれそうになる。ああもう!なんでこんなに速いんだよ!


 「ステイト!一旦退け!」

 「けど、このままこいつの体力を削って…」

 「氷人形は生き物じゃない!体力なんて無限だ!」


 …ちっ!俺はザハーロの声に苦い気持ちになりながら、二人の元に一度退散した。一定の距離ができたからか、雪像はまた槍を構えて動きを止める。…あー試されてる!俺たち試されてる!こいつがボスってわけかよ!

シャハンが申し訳なさそうに手を合わせてるのと、ザハーロが諦めず魔法詠唱を試みるのとを見てると…やっぱ悔しい。ここであの雪像をガツンと一人で仕留められたら…俺にそんな力があればよかったのに!

 いや、力はあるんだ。けど、俺が使いこなせていないだけなんだ…。石像が今、ここに突進でもしてきたら…。俺たちまとめて串刺しだ。ああもう、どうすればいい!?


 「俺じゃ…力不足か…!」

 「落ち着け、ステイト。相手は雪の塊だ、融かせばいい。…僕も詠唱ができれば…!何なんだ、この状況は。あいつは僕たちに何をしたんだ!?」

 「落ち着くのはザハリスちゃんもだよぅ。おいらの考えだと、多分状態異常魔法だね。しばらく相手が魔法を発動できないようにするってヤツだよー。よっぽどの魔法の技術がないと使えない大技ではあるんだけどねぇ…」


 状態異常魔法か…。あの雪の塊、ハイスペックなことしやがって…!それじゃどうやって攻撃すりゃ…………ん?待てよ。状態異常………。


 俺はザハーロとシャハンを見た。…そうだ。『俺が』倒すんじゃない。『俺たちで』倒せばいいんだ。俺が攻撃をすれば勝てるってわけじゃない。………きっと、簡単に勝てるんだ。


 「なぁシャハン。さっきザハーロがやってた火魔法みたいなやつ、できるか?」

 「えっ、おいら?おいらは風魔法以外はほとんど初心者さんだよぅ…。あ、でも熱い風を吹かせることなら…」 

 「それでいい!ザハーロはさっきの火魔法の準備をしてくれ!」

 「忘れたのか!?僕たちは今、魔法を使えないんだぞ!?」


 俺はちらっと雪像を見た。まだ動く気配はなく、静かに構えてる。……きっと俺がまた攻撃に来ると思ってるかもしれないけど、外してやるぜ。…まぁ雪像に意思があるのかはさておき、だけど!


 「俺がお前らを治す。お前らはすぐ魔法仕掛ける。あいつ負ける。……分かったか?」

 「……この際何にでもすがってやる。頼むぞステイト!」

 「おいらも準備オッケー!…だけどあの像………まぁいっか!やろっ!」


 何かシャハンが言いたげだったけど…、ひとまず先にあの雪像を倒さねーと!あいつを何とかすれば…次の道が分かるはずだ!俺は二人が準備したのを確認すると、シャハンとザハーロの体に触れた。…さぁ、今度こそ!


 「治せ、エスイル!」

 「……詠唱完了!熱波・ジャールキィ!」

 「おいらも復活!熱風・サーヒン!」


 俺が発動させたのは癒しの力・エスイル!確かな手ごたえを感じたのと同時に、ザハーロ達がすぐに魔法を撃ち込んだ!雪像は僅かに槍の先をピクッと揺らしたけど、反応しきれずにもろに魔法を食らった……!よっしゃ!

ぶわっとまた部屋が熱くなる。そして、俺たちは確かに見た!熱波と熱風にさらされた雪像が…融けていく!白い雪がぼたぼたと融けて落ちて…崩れて……………、けど、俺たちは歓喜の声を呑み込むことになった。


 雪像が融けたとき。今度は雪像の周りに小さな吹雪がつむじ風のように渦を描いて巻き起こった…!また部屋の中はひんやりとして…つむじ風が収まると、銀色に輝く甲冑に身を包んだ何かがそこに立っていた。…ふ、復活しちまったのか?


 けど、今までの氷人形の甲冑とは違って見えた。氷人形は甲冑を纏っているんじゃなくて、存在そのものが氷の塊だった。だけど…こいつは違う。確かに甲冑を『装備』している。細身で体格も良くないけど…氷の槍をしっかり構えている。


 「…雪像は、倒したよな」

 「あぁ。まさか次の形態があるとは僕も考えていなかった」

 

 俺とザハーロの声には少しの絶望が混じってた。あんなに必死になって倒したと思ったら、さらに強そうになって構えてるんだぞ。ザハーロは魔法書を持ち直し、俺も予備のナイフを装備する。けどそんな俺たちを制したのはシャハンだった。


 「二人とも、待って。ほら…」


 シャハンの言葉に、俺たちはそっと前を見た。すると銀色甲冑が…カランと氷の槍を地面に捨てた。そして片手をス、と上げる。兜の中からくぐもった声が聞こえてきた。


 「そこまでです。貴方達の力量は分かりました。私は貴方達を認め、このザミグラッツに正式な客として招きます」


 …女性の声?若くはないけど、…上品で凛々しい。厳しくも聞こえるその声と共に、兜が脱がれた。その兜の下は……やっぱり、女の人だった。

短い水色の髪、銀色の甲冑。歳は…お姉さんと呼ぶには老けてるけど、お婆さんと呼ぶには若い。おばさんで合ってるのか?髪の色と同じ、凛々しい水色の目が俺たち三人を映している。


 「…おばさんは…氷の城の主?」

 「…お、…おば……。…コホン。私は氷の城を守る者です。ザミグラッツの主はこの大地そのもの。私はここで城を守っているにすぎません」

 

 あ、…やっぱおばさんって呼んじゃ失礼だよな…。けどお姉さんと呼ぶには無茶があるし…と俺が正直に困っていると、スッと一歩ザハーロが前へ踏み出した。


 「僕はネーディヤの帝都から参りました、ザハーロ・サガーノフです。こちらは友人のステイトとシャハン。失礼でなければ、貴女のお名前をお聞かせください」


 うお、よくぞそんな流暢に!シャハンは緊張感なくいつも通りの表情で場を見守り、俺もおとなしく傍で見ていることにした。ザハーロが真摯な態度で女性を見つめてる。…やがて女性がザハーロを見て、表情を少し柔らかくした。


 「人の名は後世に受け継がれるのですね。サガーノフとは懐かしい名。かつてはこの北の大地の一世を風靡した祝福されし英雄の名でした。私の古き友の名もサガーノフ…懐かしい思い出です」

 「…まさか、貴女が」


 待てよ。…ザハーロの先祖は、『雪原の竜』を友とするドラゴンマスターだった。ザハーロは…その『雪原の竜』に会いにきたんだよな。…この女性がもしかして…。

風もないのに女性の水色の髪が揺れる。ザハーロとどこか厳しい雰囲気が似た彼女は、小さく微笑んで見せた。


 「かの英雄サガーノフから私が貰った名前はカルテリア。『雪原の竜』とも呼ばれました」

 

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