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ルキスの剣  作者: 夜津
第二章 トルメルの子
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39 ドラゴンの真実



 エルピスの声が洞窟内に反響する。俺はその声の主の綺麗な目を見つめるだけで、何も言えなかった。

ただ、そっと振り返るとジャッテもニコラも納得したように小さく頷くだけ。…こいつら、気づいてたのかよ!


 「…ボクのこと、恐い?やっぱり、キライになるよね」

 「そ、そんなわけあるかよ!そりゃ、お前がここで俺たちをぶっ殺していただきまーす、なんてするような奴なら嫌だけど!」

 「そんなことしないよ!ボクだって目が覚めたらここに一人ぼっちだったんだ。ボクの力も昔より弱まっててどうしようもなくって…!」


 またぎゅーっとエルピスが俺に抱きついた。ちょっと苦しいけど、このままにしとこう。…エルピスが、ドラゴン…なんか信じられねぇな。ジャッテが優しい声で言う。


 「俺の推測だけど。聖剣の影響で、永い時を眠ってた力のある生き物…幻獣なんて呼ばれるものたちも目を覚ましつつあるんだろうなぁ。

  いつから眠ってるのかは分からないけどなぁ。けど、目が覚めたばかりのそれらは事情もよく分からないままだろうし…」

 「町の人が言ってたことはどうなるんだ?デタラメを言ってたのか?」

 「そこがさっきの『失敗した』ってやつじゃないのか?」


 俺たちの会話に、そっとエルピスが顔を上げて弱弱しい声で話し始めた。


 「…ボク、昔は…ボクといてくれる人がいたんだ。ドラゴンマスターなんて呼ばれたりして、その人はいっつもくすぐったそうだったけどボクの一番の友達だったの。

  けど、その人が死んだときにボクも深い眠りについた。いつぐらい前のことか、ボクにも分からないよ。…けど、あのときはすっごく楽しかったんだよね…。

  目が覚めたボクはこの洞窟に一人ぼっち。体力も魔力もほとんどなくなってた。少し休むと戻ってきたけど、ボクの魔法はどうしてかうまくいかなくて。

  もやもやしたけど、竜の姿になると少しすっきりしたよ。だからボクは運動がてらに飛ぶことにしたんだけど、動物も魔物でさえもボクを怖がるんだ」


 ドラゴンマスターか。境界戦争よりも昔のことだから俺もよく知らないけど、ドラゴンと共にある人間なんているんだな。エルピスの魔法が狂うのは久しぶりってのもあるけど、聖剣が影響を及ぼしたのかもしれねぇな…。


 「だからボク、また人の里を探したんだ。けど、そのまま行くのがちょっとだけ恐かった…から、魔法でボクの幻影を作って、誰か友達になってほしいなって伝えることにしたの。

  だけど姿もボクとはかけ離れたし、言いたいこともねじ曲がって伝わっちゃって…魔法使いや弓使いが、飛ぶドラゴンのボクを何度も撃ち落としに来たよ。

  もう人の里には行けない、これ以上恐がらせたくない、だから…もし誰かこの渓谷に遊びに来てくれたら…恐がらせないように、友達になりたかったの…!」

 「…エルピス…、そっか。もう大丈夫だぜ。俺たちちゃんと分かったからな。…寂しかったんだな」

 「…ぐすっ…、…さみし、かった…!…もうやだ、一人はやだ!ボクも行く!行くったら行く!ついてく!」


 エルピスが俺に抱きついてわんわん泣きながら叫ぶ。俺はそっと抱きしめ返して、ぼさぼさの黒くて長い髪をよしよしと撫でる。あーあ、駄々っ子だな、とても威厳あるドラゴンには思えねーよ。


 ジャッテがエルピスの傍に行き、エルピスの手をそっと優しく握ってやった。ニコラもエルピスに微笑む。エルピスは顔を上げて、握られた手と微笑みを交互に見つめ、しゃっくりする。


 「…聞かせてほしいことがあるんだけどさぁ、エルピス。魔法は今でもうまくいかないんだよなぁ?」

 「うん。…小さな魔法もまだおかしくなるよ。…あんなに魔法を使えたのに…もうボク、ほとんど魔法を正しく使えなくなっちゃった」

 「うーん…ニコ、ご意見をどうぞ」

 「俺か。…ドラゴンが強い魔力を持っていても納得できる。そこに聖剣盗難事件のせいで世界各地に魔力の暴走が起きる事態だ、力のある者ほどその影響に揺さぶられていても不思議ではない。

  ユハでは精霊が暴走したんだろう?」

 「えっ?あ、うん。してた。俺とシルたちで止めたぞ」

 

 突然話振るなよ!で、でもそうか。ドラゴンであるエルピスは大きな魔力を秘めてる。そこに聖剣がなくなった影響が大きく出るんだから…魔法が狂うのも仕方ないのか。

ジャッテが首を傾けながら唸ってたけど、よし!とエルピスの手をぎゅっと握った。おっ?


 「じゃあ約束だぁ!エルピス、これからは魔法禁止!ドラゴンだろうが何だろうが、俺より本当はオッサンであろうが魔法ができようが!」

 「オ、オッサン!?年だけだよ!ボク、他のドラゴンと比べたら精神的には赤ちゃんみたいなものだよ!」

 「他にもドラゴンいるのかぁ…じゃなくて!…もし俺との約束守れるなら、…俺が王都に連れて行ってあげようかぁ?」


 ほえっ!?俺とニコラとエルピスが同時にジャッテをぐるんっと顔を上げて見つめた!のっほほーんとした笑顔で親指立ててるけどいいのかソレ!?案の定ニコラは言葉を失ってるし…けど、エルピスの目が輝いた!


 「いいの!?本当に!?やったあーっ!魔法使わないよ、だから行く!約束!嘘ついたら焼くよ!約束!」

 「焼くのはやめてほしいけど、俺が責任持つからさぁ」

 

 ぴょーんとさっきまで泣いてたのがウソみたいに、物騒なことを言いながらエルピスがジャッテに飛びついた。俺はニコラをちらっと見て小声で聞く。


 「…それ、いいのか?」

 「…本来なら報告書を王都に提出して、城や騎士団の返事を待つべきだ、が。…お前はエルピスに焼かれたいか?」

 「お断りだ。…なぁ、ニコラ。…おつかれさま」


 ふっ、と俺は小馬鹿にしたような顔で笑った。騎士団の中でもジャッテより地位の高いニコラが、エルピスを連れ帰ることで書かなきゃならない書類は増えるはずだし…オツカレ。責任はニコラにも降りかかるわけだ。

ニコラが頭をかきながらため息をつこうとして、それをやめた。ん?最近のニコラのため息癖が止まるなんて。俺の考えていることを察したのか、ニコラが肩をすくめながら指をさす。


 その指の先には…きゃっきゃとはしゃぎながらジャッテの片眼鏡を奪い取って洞窟内を走り回るエルピスと、笑いながらそれを追いかけるジャッテが。…お前ら…。

 

 

 ま、これでいいのか。俺たちはドラゴンに食い殺されることなく、さらに寂しがりのチビッ子を満足させることができたんだから。


 しかも旅の目的も完遂。聖剣を取り戻す方法は分からずじまいだし、聖剣の行方を追うめども立ってない。けど俺が知りたいことは分かったし力も手に入れられた…完璧じゃねーか!

ジャッテたちを見ながらにまにまする俺の隣で、ニコラの沈んだ声が小さく聞こえてくる。


 「はぁ…また俺の仕事が増える…暴れてぇ」

 「やめろバカニコラ。おとなしく事務作業してろ」

 「…なぁステイト。そろそろお前の実力を見てやろうか?」

 「それは大義名分で、本音はお前が俺をサンドバッグにして暴れたいだけだろうが…」

 「決定だ。王都に戻って落ち着けば騎士団宿舎に来い」

 「俺は了承してねーよ耳掃除しろバカ」


 当然そんな戦いは受けられないぞ!だって考えても見ろ…事務作業でイライラを溜め込んだニコラだぞ?誰が止められようか、いやできない。俺だって相手が張り切ってる時に戦いたくねーよ…。

俺の白目をよそに、まぁ、とニコラが続ける。


 「エルピスの世話はジャッテに任せる。これで王のドラゴンに対する憂いも晴れるわけだし、多少の面倒は引き受けてやらねーとな」

 

 そう言いながらジャッテたちを見つめるニコラは少し頼もしく見えた。この男前…爆発しろ。エルピスが俺たちの方に走ってきながらバンザーイッと両手を上げる。


 「やったあーっやったーっ!!もう一人ぼっちじゃないよボク!」

 「…良かったな、エルピス。王都は厳しいおっさんが多いからいい子にしろよー」

 「気に入らない奴がいたらボクの本性をちらつかせて…」

 「お前…。まぁ、ジャッテに迷惑かけんなよ」


 こいつ、本当にさっきまでションボリして泣いてた奴とは思えない…!恐ろしい…!た、たしかに一番怒らせちゃいけない人物ではあるよな暫定…!ただし、狂いやすい魔法は禁止令が出たけど。

ジャッテが追い付いて、エルピスから片眼鏡を奪還しつつニコラに言った。


 「いいよなぁ?俺、責任全部持つからさぁ。ここまで話聞いといて、そうですかバイバイなんてできないだろぉ」

 「…俺も責任は持つ。ただ、こいつの世話はお前に一任するぞ」

 「分かってる!俺、弟欲しかったから嬉しいなぁ」

 「ジャッテお兄ちゃんーっ!きゃほーっ!」


 いいのか…弟分がドラゴンで見た目女の子みたいで腹黒くてもいいのか…いいんですね。ジャッテ、お前の懐が広すぎる。王都に戻った時の騎士連中の反応が楽しみだぜ。


 「それじゃ、明日には町に戻るかぁ。渓谷の魔物もエルピスを見たら勝手に逃げてくしなぁ」

 「ボクが竜の姿になって町まで飛ぶけど?」

 「それだと町の人がビビるだろぉ。ちゃんと町の人に説明しないといけないし、徒歩の旅もいいと思うんだけどなぁ」

 「じゃあ歩く!ボク、けっこう体力あるんだよ!」


 優しい表情で、人差し指を立てながらジャッテがエルピスに説明すると、エルピスも素直にこくこくと頷く。もう既に兄弟みたいだな、息もぴったりだ。ニコラが荷物を取りながら地面に座った。


 「では今日はもう休むぞ。朝になれば発ち、ラシマの町に戻る。まずはそこで状況を整理するか」

 「へーい。来いよエルピス、俺のパン分けてやる」

 「わーいありがとうっ!」


 さっきからぴょんぴょん楽しそうに跳ねて、エルピスはかなりご機嫌みたいだ。…良かった。よぉし、俺のパン多めに分けてやろう!兄貴分はジャッテとニコラだけじゃねーぞ!

その後もこれからの予定や、俺たちの王都での話をエルピスに聞かせたりしていた。眠くなった頃にごろ寝することにしたけど、エルピスがジャッテの傍で寝たいと言ったときは思わず俺もにっこりしていた。懐かれてるな!

そんなドラゴンに頬をかじられた俺もどうかと思うけどさ…。


 


 朝。俺たちは荷物をまとめてすぐに洞窟を出た。エルピスは洞窟からたった一つ、キラキラ光る石がついたペンダントを持ち出してくるだけだった。他に荷物はないのか聞いたけど、ハッキリ首を横に振られちまった。


 『これはボクとボクの大切な友達を繋いでくれたものだから』


 きっとエルピスが眠る前に一緒にいた、『ドラゴンマスター』のものなんだろう。ぎゅ、と大事そうにエルピスはそのペンダントの石を握ってたから…。


 まだ冷えてる朝の渓谷を戦闘もなく抜けられた。荒野でもエルピスを見た魔物たちは、突進してくる体を急カーブさせてどこぞへ逃げていったから通り抜けるのが楽だった。魔物避けにエルピスが貢献してる…。

魔物にさえも恐れられて~、と寂しそうに昨日語った姿とは大違いで、エルピスは腰に手を当ててフンッと鼻を鳴らす。


 「ボクがあんまりにもカワイイから逃げるんだね!どうだー!」

 「…たくましい弟を持ったな、ジャッテ」

 「うん。普通に俺より強いんだしなぁ」


 えっへん!と目を閉じて得意げになるエルピスを背に、俺たちはひそひそと話し合ったのだった…。あの戦闘バカのニコラでも規格外と評価したエルピスだ…怒らせちゃいけない…!


 ラシマの町に戻る頃にはすっかり日も暮れていた。相変わらずの静まり返りようは恐ろしいくらいだ。あの宿に着くと、変わらない様子で爺さんがカウンターでコーヒーを飲んでた。

俺たちが入ってきたのを見て、爺さんが長いひげを撫でる。


 「よくぞご無事で…。やはり渓谷へ行くのは辞めたのですかな」

 「いいえ、帰りです。ドラゴンにも会いましたよ」


 ニコラがさらっと返すと、爺さんがコーヒーカップを思い切り震わせて立ち上がった!うおおビックリした!


 「よ、よくぞ生きて戻られましたな…!おおぉ、本当に…!神よ…!」

 

 祈りだした爺さんを尻目に、俺とニコラとジャッテがエルピスを見た。エルピス、むすっと頬を膨らませてる。エルピスが素早くたたたっとカウンターの内側に走り込み、爺さんに叫ぶ!


 「ボクがドラゴンなの!町の人に遊びに来てって連絡を寄越したつもりだったけど失敗しちゃって変な噂が流れただけ!ボク、人間を食べたりしないもん!」

 「…おぉ?これはまた小さな女子を…渓谷で拾われたのですか?」

 「い、いやぁ、そうじゃなくって…その子の言うとおりなんですよぉ」


 そばかすの多い鼻をポリポリかきながらジャッテがほほ笑む。爺さんの視線がもう一度エルピスに下りて、沈黙。ふっふっふ、とくぐもったような笑い声が聞こえた。


 「御冗談を。ドラゴンは黒いローブに全身を包んだ大人だったのですよ」

 「だーかーらー!僕が連絡に送った幻影の魔法がおかしくなってたんだってば!ボクがドラゴンなのー!恐がらないで!」

 「随分愉快なことを申される子ですなぁ」


 信じてないみたいだ…。まぁ、確かに信じられないよな。町の人たちが見たドラゴンの連絡の幻影は大人の何者かだって言うんだし、でも目の前にはうるさいチビッ子だし。想像に差がありすぎるよな。

ニコラが肩をすくめて言う。


 「今日はもう遅いですから、明日証明します。町の長を教えていただけませんか?」

 「ここの町の長は交代制でしてな、今はわしが務めておりますので明日の朝に町の皆に声をかけましょう。…本当に、信じられんのですが」

 「まぁまぁ!明日に本当のことが分かりますから!今日は休ませてください」


 俺がカウンターに身を乗り出すと、爺さんが俺にニッコリした。


 「…仲直り、されたのですな。良かった…心配でしたのでな…」

 「あ、はい!すみません、騒いでしまって」


 うわわ、気まずい…!何の話?とエルピスが振り返ったけど敢えて無視してさっさと借りた部屋に俺たちは移動した。は、話すのめんどい…。

エルピスはジャッテの部屋に行くことにして、俺たちは3部屋にバラバラに入って休む。今は飯や風呂を済ませ、俺は食堂でだらだらしていた。疲れてるんだけど、今日は別に戦闘もなかったし…。

寝るにはまだ早い時間だから、エルピスとジャッテはもう部屋にこもって遊んでいるみたいだな。すっかり兄弟だなー、アリシアとヨーウェンさんを思い出すぜ…あ、アリシアに土産…どうしよう。


 特に土産物も売ってないしなぁ、と俺が考えているとちょうどニコラが食堂に入ってきた。いつものゴツめの装備とかも全部外して、普通の無地の服を着てる。俺がテーブルでだれているのに気付き、声をかけてきた。


 「お前は何をしてるんだ?」

 「ぼーっと…。疲れてるけど眠気もないし、散歩に行くか迷ってた。お前は?」

 「小腹が空いたから宿の主に許可をもらってつまみ食いに来た」

 「い、潔い…」


 つか、ニコラてめぇどんだけ食うんだよ。食べるの大好きな俺でも仰天の量を夕食に貰ってたのに…まだ腹が減ったとぬかすとは!テーブルの上の果物をナイフで削ぎながらニコラが椅子に座った。

スパスパと手際よく切り分けた赤い果物を俺に差し出す。貰っていいのか?じゃ、貰おう。


 「…けど、良かったよな。俺たち生きて戻れて。魔物との戦闘もほぼ無く、恐るべきドラゴンはあの通り、ただの寂しがり屋のだだっこ。蓋を開けてみないと分からないモンだよな」

 「…本当に、な。お前の目的も達成されて何よりだ」

 

 うわっ、酸っぱい!なんだこれ、朝に食べたらいい目覚ましになる果物だな。ニコラはたいしてそうも感じないのか、けろっとして食べてるし。


 「それで、洞窟でのこと。何かわかったのか?」

 「あ、説明してなかったな。聖剣については何もわからずじまいだけど、トルメルの力とこれから行くべき場所は分かったぜ」


 ジャッテたちも呼んでこようかと思ったけど、向こうは向こうで楽しそうだしまぁいいか。俺は洞窟で見つけた手がかりについてニコラに話した。もちろん、あの『エスイル』の力についても実演して見せた。


 「…なるほど。では、トルメルの力を込めた道具があるのはあと2カ所か」

 「ああ。南の海にあるココムの塔、北の氷の城にあるザミグラッツだってさ」

 「ココムの方は大丈夫だが、北は厄介だな。…あの聖剣を盗んだ魔族が逃げ込んだ北の国、ネーディヤ帝国の氷の大地の果てに氷の城があると聞いたことがある」

 「マジか…じゃあ、次は南のココムってところだな。また王都に帰ったら調べるか」


 ネーディヤ帝国は鎖国中だしなんか不気味だし、近寄れないから今はどうしようもない。だったら次の目的地はシエゼ・ルキスの国外になる。大陸の一番南の国に行かないと海には辿り着けないからな。

ちら、とニコラを見ると、ニコラは最後の果物を口に放り込みながら説明し始める。


 「ココム海はシエゼ・ルキスの南にある大陸で最も南の国、コットリア共和国の海だ。海は豊かで穏やか、ココムの塔は昔からの観光名所だ。南の楽園と呼ばれることもある。

  コットリアはシエゼ・ルキスとも良好な関係を築いているから、多少は気楽に旅ができるはずだ。気がかりと言えば海賊や山賊が多いぐらいか」

 「賊かー、やっぱりいるんだな」


 盗賊はただのコソ泥ってところだけど、海賊や山賊はもうちょっと荒っぽい。つか、ニコラってばやっぱり博識。辞書代わりに使えるな。


 「聖剣盗難で魔物が増えているとは聞いたが、特に他には悪い知らせを聞かない。観光客が減りつつある、とは噂で聞いた」

 「ふーん。じゃあ、次はコットリア共和国に決定だな!南の海かーっ、ワクワクしてきたぜっ!」

 

 ココムの塔って観光名所にもされてるんだろ?一般人が行けるってことは、今回みたいに魔物に怯えなくてもいいわけだ。しかも南の海…沈没船でもあればお宝がザックザクだろうに…!


 「お宝…!待ってろよ南の海の財宝たち!」

 「お前は何をしに行くんだ…」


 ガタッと立ち上がって勢いで南の方角を指さしながらビシッと決めると、ニコラの呆れた声が。何故お前にはこのワクワク感が分からないんだ!古い宝箱、軋む鍵、重い蓋を開けると…!そこには、


 「ミミック」

 「やめろバカニコラァァァーー!!俺の夢を壊すんじゃねぇーっ!」

 

 ダミー宝箱ミミックさんのことを言うんじゃねぇ!たまにあるんだよ、期待に胸を膨らませて宝箱を開けるとハイ罠でした残念ー!とばかりに襲ってくるやつが!アレ恐いぞ…。

聖剣盗難前にも普通に存在していた魔物だからな。宝箱の中限定で潜んでるんだよな、だから宝箱なんぞ目にしない一般人には知られていない幻の存在。全然神秘的じゃねーけど!


 「まぁ、予定が決まっているのなら大丈夫だな。俺も安心して眠れる」 

 「すぐに王都に戻って、すぐに出発ってわけにもいかないけど。ちゃんと休んでちゃんと調べてから行く」

 「そうしろ。…じゃあ、俺は寝る。お前も早く寝ろよ」

 「へいへい、おやすみおやすみー」


 ニコラが立ち上がって食堂を出て行くのを目だけで追う。たっくましい背中しやがって。タックルかましても動かなさそうだ。さら、と黒髪が揺れているのを見送りながら俺もそっと立ち上がった。

寝よう。明日は町の人たちにエルピスのことを説明しなきゃならないんだし…、そう思うとなんか眠気が出て来たな。よし。


 俺は食堂を後にして自分の部屋に入った。虫が入ってくるから窓は閉めとくけど、あんまりにも星空がきれいだったからカーテンは開けておいた。


 「…アリシアへの土産、どうしようかなぁ」


 それだけが今の悩みだ…。俺が渓谷から持ち帰ったものは、トルメルの力、エスイルが込められたハニのアンクレットと『取扱説明書』だけ。この町にもサミラの町にも、お土産としていいものは売ってない。

どうしよっかなぁ、とベッドに転がって悩んでいるうちに、俺はいつの間にか眠り込んでしまった。



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