38 手がかりと正体
俺が想像していたのと違い、その洞窟はけっこう入り口が小さいものだった。…こ、こんなのにドラゴンが棲むって…物理的に無理だろ、と思うくらいには。
エスピルの案内で俺たちはずーっと谷底を歩き通し、やがて行き止まりについた。その頃にはもう、渓谷に差し込んでくる光りが眩しく、すっかり夕方になっていた。ちょっと冷えてきたかも。
目の前の行き止まりの岩壁に、ぽつーんとちょうど人が入れるぐらいの大きさの洞窟が口を開けてる。その前で、俺たちは立ち止まった。
「ほら、ここだよ!この奥でいくつか道が分かれてて、そのうちの一つが宝物が置いてある部屋だって聞いてるよ」
「聞いてるって…エルピスは見たことがないのか?」
「変な扉があるんだよー。ボク、開けようとしたんだけど開かなくて。何か条件でもあるのかなー」
エルピスがお手上げのポーズで首を横に振る。もしかしたら、ハニが道具をトルメル以外の者に盗られないように仕掛けをしたのかもしれない。俺は洞窟ヘ向かって一歩踏み出そうとし…ま、待てよ。
「あ、あのさ。ドラゴンってほんとにここに棲んでるのか?」
「さっきも言ったけど、洞窟の奥でいくつか道分かれしてるの。それで、そのうち一つがドラゴンの棲み処へ通じてるんだよ。ドラゴンは人型になれるから入り口が狭くたって大丈夫!」
元気よくお返事を返してくれる小さな女の子…じゃなくて男の子に、俺はふぅん、と頷く。
「…入りたいけど、ドラゴンに見つかったら怒られないか?」
「…今日は帰ってこないんだって。入ろうよ!」
そう言いながら、まっさきにエルピスが、ぼさぼさの黒髪をなびかせて洞窟に駆け込んでいった。俺たちは顔を見合わせ、ちょっと相談する。
「…別に疑いたいわけじゃないけど、エルピスのこと信じてもいいのか?」
「俺はここまで来たら信じるしかないと思うが。エルピスの話ではドラゴンは帰ってこないんだろう?」
「って言ってたよなぁ。…ひとまず真偽は定かじゃないけどさぁ、入ってみたほうがいいと思うなぁ。どっちみち手がかりは目の前なんだし」
審議終了。確かに、今更エルピスを疑ったってどうしようもないんだし。ドラゴンとグルで、エルピスが俺たちを餌としておびき寄せてる…なんてことにならなきゃいいけど。
ちょっと不安が残るけど、俺はあのエルピスの寂しそうな顔や激しい表情を思い出すと、どうも騙されてるって気がしなかった。性別には騙されたけどな!
俺たちが意を決して洞窟へ足を踏み入れると、すぐ傍でピチャン、と滴が跳ねた。あんなに乾いた渓谷だったのに洞窟の中は湿ってるのか!地下水でも流れてるのかも。
しかも真っ暗かと思ったら、既に洞窟の中に明かりとなる石をあちこちに置いてる。きっとドラゴンかエルピスが探し出して置いてるんだろうな。
薄暗い中、僅かに淡く光る明かり石は幻想的だ。細めの少し濡れた岩の地面を歩くと、やがて大きなロビーみたいな場所に出た!うおおっ、広い!洞窟の中にこんな広いところがあるなんて驚きだ…!
上にも横にもすんごく広い空間が広がってる。洞窟とは思えないほど綺麗な円形で、まるでホールだ。あちこちに透明な石の柱が伸びてる!すっげぇ眺め。
円形のホールのようなここは、洞窟内での玄関みたいなものらしい。四方八方へと道が伸びてる。どこに何が繋がってるのかはさっぱりだ…。こりゃ、案内人がいなかったら迷うな。
整備されてるわけじゃないはずなのに、ここの地面は綺麗に平ら。さっきの道みたいに、ごつごつと岩があったりってこともない。その中央で、エルピスがくるくると踊りながら俺たちを待っていた。
「すごいでしょ!ほら、天井と床を見て。星みたいに石がきらきら光るんだよ!」
その言葉通り、見上げてみても見下ろしてみても、暗闇でキラキラと何か瞬くように光っている!うはー…何の石だろう、売ったら高いのかな…。
ジャッテなんか跪いてまで地面をしっかり見て、うわーっ!と歓声を上げている。そんな俺たちの様子にエルピスが満足そうに笑って頷いた。
「それで、ここ…いっぱい道があるでしょ?ボク、一通り冒険して、この先に何があるかちゃんと印をつけたんだよ。けど、多分お兄ちゃんたちには分からないと思うからボクが説明するね。
ほとんどの道は何もない行き止まりで、いくつかの道はさらに洞窟の奥まで続いてる。ボクも最後までは遠すぎて探検できなかったけどね!
あとは、そっちの少し赤く光ってる石が置いてあるのがドラゴンの部屋への道、そっちの扉があるのがきっとお宝の部屋だよーっ」
え、えーっと。確かに、一つの洞窟の続きには赤く光る石が置いてあるな。それで、…あ!ほんとだ!一つ、何か錆びついたような色の扉がある!他のはぽっかりと穴をあけてるのに一つだけ扉だから分かりやすい。
これは早く行かねぇと!俺はうずうずしてニコラとジャッテを見た。
「い、行ってみていいか!?」
「そのために来たんだろうが」
「うんうん!善は急げって言うよなぁ」
よ、よっしゃ!俺は扉の所へ駆け寄って、しげしげと観察した。これ、二つの石で挟むように入り口を閉めてるのか。コケとかついてるし、蜘蛛の巣張り付いてるし!ちょっと触りたくない…!
けどこれ、どうやって開けるんだ?スライド?押す…にしてはかなり重そうだし…。俺が押したところで開かないだろうなー。
扉の前で立ち尽くしてると、エルピスが駆け寄ってきた。そのまま岩の扉に体当たりしたり引っ張ったり押したり、とにかくひたすら頑張ってからふぅぅ、と息をついてる。当然…残念ながら扉は開かないままだ。
「なんで開かないんだろうー…ボクじゃダメなのー?」
「純粋に力不足なんじゃね?…ニコラ、押してみろよ」
ジャッテには無理だろう。それは確信がある。ニコラが来て、エルピスと同じように体当たりしたり押してみたりしたけど、扉がびくともしないから最後には魔剣を呼び出した!
「ぶっ叩くか」
「やめろーっ!さすがにそこまでしなくていいから!」
不満そうにニコラが魔剣をしまうのを、俺たちはハァと安堵の息をつきながら見る。こんなところで魔剣なんか振り回してみろ!洞窟が崩落してもおかしくねーぞ!
けど、力技じゃダメかー。
「このやろー、どうやったら開くんだよー」
俺はペチーン、と扉を叩いた。うおっ、冷たいっ!慌てて手をひっこめた瞬間、突然扉に光の線が走った!
「う、おおおおおっ!?なんだなんだ!?」
「お前、まだ触れてなかったのか…。トルメルの道具が隠してあるなら、トルメルしか入れないように仕掛けがしてあって当然だろうが。馬鹿だな」
「うぐっ」
わ、分かってたけどなんとなく触るのを躊躇ってたんだよ!呆れるニコラに俺はうめきながら、強い光を放った扉を見つめる。恐る恐る触れて押してみると…!
――――ギイイ…
い、いとも簡単に開くじゃねーかっ!豆腐でも押してるような気分だ…!石の扉は左右に分かれて押し開かれ、その向こうが見える。…って、道!まだ続いてるのか!奥には洞窟がさらに続いてるだけだった。
俺が扉があった場所を踏み越えてみると、すぐに扉が閉まり始める!おいおいおいちょっと待ってくれ!閉じ込めんなぁぁあああっ!!
「馬鹿か。お前が触れたら扉はまた開く仕組みになっているはずだ」
「あっ、そっか…。じゃあお前ら待っといてくれ!探したら出てくるからさ!」
「はいはい、分かったぁ!…けどスティ、そっち真っ暗だけど大丈夫なのかぁ?」
「え?…ああああちょーっとストップストップ灯りくれよ灯りあああ閉まる閉まる閉まる!!」
――――ギギギ…ドォンッ!
閉まっちゃったがなー!真っ暗じゃねーかぁぁ!いや、扉だけが光を放ってるから近くまでは見えるんだけどさ…!この先は真っ暗だ…。ランプ借りときゃ良かったぜ。俺の荷物に灯りとなりそうなモンはねぇし。
できるだけ歩いてみるか…。うう、肌寒い。
俺が一歩踏み出すと、ふわっと洞窟内が突然光に照らされた。おおっ!?今度は眩しいくらいだ!そうか、俺を感知して光を放つのか。見上げると、天井に光る石のようなものがずーっと奥まで並べて貼り付けてあった。
しかし、魔物とか出てこねぇだろうな…。びくびくしながら歩いてると、あっけなく奥へ着いた。行き止まりの岩壁にがっかりしたけど、すぐその下にデカい宝箱が見えた。…た、宝箱!男のロマンじゃねーか!
こ、これはつまりアレですね開けても大丈夫ですね!!いやさ、たまに盗賊生活してるとさ、ダミーの宝箱に引っかかることもあって…ダミーの中には謎の仕掛けがあって色々困らされてきたトラウマが…。
けどまさかここまできて、あんな扉のビックリな仕掛けまでしといてダミーでした、とかはないよな…!し、慎重にいくぞ…短剣を片手に持って…よし!
俺はそっと宝箱に手をかけ、一気に開けた!おおっ、開いたぞ!何が入ってるんだ…!?
………あれ。本?と、ヒモの輪…。金属の小さなプレートがついてて、俺の指輪に彫られている文字と同じのが彫ってある。…トルメルの装備だ!
つーことはこの本は…、ハニの書いたものか!俺は慌てて宝箱の中からその二つを取り出し、本を開く。やっぱり見ただけではサッパリ意味が分からない文字が並んでいた。
ごく…。喉が鳴る。さあ、何が書いてあるんだ…?これを探しに俺は足をすり減らしながら渓谷を下ってきたんだぞ…!
ざら、と埃をかぶった表紙をなぞる。
『取扱説明書』
…はい?取扱説明書?…とは?何の?壮大な想像を膨らませていた俺の目が点になる。…ま、まさかトルメルの?タイトルの下にはしっかりと『ハニ』って名前があるし、俺が間違えたわけじゃないよな?
『きっと君は俺の日記を読んで、ここまで来てくれたんだと思う。ありがとう、これを読んでもらえる日が来るなんて俺も嬉しいよ。ここに、俺の知っているトルメルについて書いておこうと思う。
もしかしたらもう、君自身もトルメルがどんなものであるかを知らない…そんな時代になっているかもしれないからな。だから、取扱説明書と名付けてみた』
な、なるほど。その予想はビンゴです。もう俺も、つい最近まで「トルメル」という名前すら知らなかったんだし。…続きを読んでいこう。
『まず、トルメルは絶海の孤島に浮かぶ島であり、そこに暮らす民族のことだ。俺もそれが世界の全てだと思っていたから、まさかこんな大陸や、魔法とかいう力が存在するなんて知らなかった。
俺たちが持つ力は魔法ではなく、トルメル独自の力。大きく分けて4つの種類がある。それを説明しておこう。
一つ目は、【エスイル】という力。何かを目覚めさせたり、癒しの力として使うことができる。魔法で例えると、補助魔法だ。
二つ目は、【ラエア】。全てを熱く焦がし、燃やし尽くす。光りを放つこともできる。魔法で例えると、火や光などになるものだ。
三つ目は、【ヤーヴァス】。何かを眠らせたり、毒などの状態異常にすることもできる。エスイルと対になる力だ。
最後の四つ目は【リウ】。全てを冷たく凍らせ、氷の中で枯れさせる。闇を呼ぶこともできる。魔法で例えると、水や闇だけど氷しか発生させることはできない。ラエアの対となっている力だ。
すぐに覚えることはないぞ。その力を手に入れたら、自然に分かると思うからな』
へぇ、4つの種類の力か…。しかも、【リウ】があった。ってことは、俺のあの氷漬けはやっぱりトルメルの力だったのか…!でも、氷は出せるけど闇なんて呼べないぞ?
まだ俺の力も未熟なのかもしれない。続きに、その補足が書いてあるみたいだ。
『この4つの力は使えば使うほど上達する。もし力に目覚めたら、ガンガン使っていって大丈夫だ!』
取扱説明書…。チュートリアル?これって最初の方に師匠とかが教えてくれるようなやつだよな?ま、まぁいいか。ガンガン使うことにします、師匠。
『俺はこの4つの力を4つの道具に託して大陸の各地へ隠して回った。と言っても、ここに一つ置いてあるはずだ。飾りのついたヒモがあるだろう、それに【エスイル】を込めている。
あのヒモ飾りは俺がアンクレットとして足首につけていた。といっても靴越しにだが。好きな場所につけてくれていいから、是非持って行ってくれ。
魔法はトルメルには効かないが、トルメルの力は全ての種族に使うことができる。便利なことだ』
最後の方はただの感想じゃねーか!何が『便利なことだ』だよ!…でも、このヒモ…新しい力があるんだな…!早速俺も足首につけてみる。すると、金属の飾りが一瞬輝いた!
これで後はどんどん使っていけば上達するってわけだな…!試しに使えねーかな?
『4つの力は、魔法のように『ファイア』と言えば火が出る、『ファイアランス』と言えば火の槍が出る、というような忠実さはないんだ。
例えば『エスイル』だけで、傷を癒したり、開かない鍵を開けたり、身体能力を一時的に向上させたり、いろんな効果がある。どの効果になるかは、『エスイル』と言う前に決めればいい。
つまり、傷を治したいのなら『癒せ』や『治せ』と指示をする。使い慣れてきたら、言わなくとも『エスイル』だけで思った効果が出るから便利なことだ』
まーた『便利なことだ』かよ!し、しかし覚えることがいっぱいだ。確かに無意識だったけど、俺は大抵『凍てつけ』って言いながらリウをやってたよな。そんなもんなのか。そいじゃ試しに…。
俺は短剣で指の先を少し切った。あいてて。チクチクする…んで、エスイルだよな!
「癒せ、エスイル!」
―――ポォウ…
おおっ!あの独特の、内側から何かが溢れるような感覚が手を伝っていく!短剣の先まで伝っていった『力』が俺の傷つけた指に伝わり、あったかくなる。そして、光が収まると…治ってる!すげぇ!
その力に応じた命令ができたら発生するってわけか!おおーっ、なんか楽しくなってきた!
『では、ここのアンクレットに込めた【エスイル】以外の力を込めた道具の在り処を書いておこう。
【ラエア】はココム海に突き出た塔、ココムの塔という場所にある。あそこは南の海の浅瀬で、泳ぐのにはもってこいだ。塔は驚いたことに、陸も続いてないのに海から飛び出た塔。
昔の人が苦労して作ったんだろうなぁと思うと、なんかワクワクしたからそこに置いてきたんだ。
【ヤーヴァス】は北の大地の果てにある、氷の城ザミグラッツにある。ルキスたちとの冒険の中で、俺が城の罠を踏みまくった思い出の場所だ。すごく寒くて風邪引いたのも思い出だ。
あのときの俺のお荷物っぷりが半端じゃなかったから、再戦しにいく気持ちでそこに置いてきた。
【リウ】は広大な迷いの森、トーシェの森に。あそこを抜けるとき、俺が道の行き先を決めたら何度も同じところに出て、方向音痴と怒られたのはいい思い出だ。
迷い込んで辿り着いた森の中の洞窟、そこで巨大なクマと一人で死闘を繰り広げた…その思い出を称えて置いてきた。
ちなみにこの洞窟、そのトーシェの森の洞窟に実は繋がっている。…俺の大発見だ。5日間ほど飲まず食わずでひたすら洞窟内を走り続けたら着いた。世界中にここは繋がっているのかもしれない』
おいおい。真面目な書き出しで始まってたのに、思い出とか語られ始めたぞ。しっかし、大変そうな場所に隠してきたんだな…。ココムの塔とやらは温暖なビーチの近くみたいだけど、氷の城って…!
しかも、この洞窟があのトーシェの森とつながってるってのも驚きだ。トーシェの森といえば、俺とシルがユハへ行くときに馬車で通りかかり、鳥のミチテラシにこの指輪を預けられたとき以来だな。
ひとまず、ミチテラシが運んでくれたおかげでトーシェの森は攻略しなくてもいいんだな。いつかお宝を求めて行くけどな!待ってろよ!
じゃあ、あとは【ラエア】と【ヤーヴァス】の力が込められた装備を探しに行くだけか…!
『トルメルの力についての説明はここまでだ。島への行き方は、4つの力全てを完全に自分のものにできたとき、自然と分かるはずだから…もし島を探すのなら、頑張ってほしい。
俺が今、君に伝えられることはここまでだ。どうか…トルメルの民であることを誇りに思い、その心を守り続けてくれ。
トルメルの力を使うに当たり、大切なことは一つだけだ。強く、自分を保つこと。己の心をなくさないことだ。トルメルの力は心や思いの強さで変化する。
不安が積もった状況で力を変に使うと暴走をしてしまうから気を付けてくれ。…君の旅の無事を祈っている。この本は自由に持って行ってくれ』
―――己の心を失くさないこと…。
でも、俺ももう決めたから。二度と暴走はしない。これ以上力を手に入れて暴走をしてたら…本当に俺は大事な人を殺してしまうかもしれないからな。笑えない。
俺は本を閉じ、宝箱にしまおうか迷って…結局自分の持ち物を詰めたカバンにしまいこんだ。俺はトルメルの末裔…もう俺以外の誰かが、ここに訪れることはないんだ。俺が持っていこう。
そっと宝箱を閉じて、俺は足首につけたアンクレットに触れた。指輪に引き続いての、俺の装飾装備が増えた。ニコラからのペンダントも、リェンからの羽飾りも…。俺、けっこう装飾装備もってるよな。
さて。一回読んだだけじゃスッキリとは入ってこないけど、また読み返そう。…今回は、これでミッションコンプリート!もちろん王都に帰るまでが旅だな。気を引き締めて帰らなきゃ。
俺は明るい洞窟内を歩き、あの扉に触れて開いた。ギギギ、と重い音を立てながら、石扉が左右に開く。
扉を出ると、あの広場で3人が待っていた。ニコラは剣を惚れ惚れと眺めながら布で手入れしてる。武器愛っぷり健在だな。その魔剣、さっさと持ち主に返してやれよ。
ジャッテはあのガシャコンと音を立てる改造弓をさらにいじくりまわしてた。その楽しそうな様子を、おぉーっと声をあげながらエルピスが身を乗り出して見つめてる。…可愛い光景だ…!
「終わったぞー!あのリウってのも、他にも力があることもよく分かったぜ!今日は俺もまだ整理ついてないから休んでから説明する!」
「ステイトお兄ちゃん!お帰りーっ、お宝あったのっ?」
「俺にとってはお宝だけど、お前らにとってはガラクタかな…」
ぴょーんと跳ねながら、エルピスが俺にとびついた!お、落ち着け、男だ、こいつは男だ…!ジャッテとニコラも顔を上げて俺を見た。
「収穫があったのなら良かった」
「本当になぁ!苦労してここに来たかいがあったってもんさぁ」
俺にとっては大きな収穫だ。聖剣について、俺がトルメルの力を生かせるかはまだ分からずじまいだけどな…。でも、トルメルの力の4種類中2種類をひとまず手に入れたっつーわけだ!
もともとトルメルの民は皆持ってる力なんだろうけど、エリネヴィステさんも言ってた通り、俺は力が弱まってる。だからハニの装備を集めないと力が目覚めないみたいだ。
本当に疲れたー…。このグラーバス渓谷を歩いてきた疲れがどっと押し寄せて、俺はぺたっと座りこむ。一緒に俺に引っ付いたまま、エルピスも座る。
「エルピスー、離れろよ」
「やだ!カイワレお兄ちゃんのこと、ボク気にいっちゃった」
「カイワレ言うな。お前、イケメンのニコラの方がいいとか言ってなかったか?」
「憧れるのはニコラお兄ちゃん。ほんとの兄になってほしいのがジャッテお兄ちゃん。心地いいのはステイトお兄ちゃんなの!」
「ぶ、分析されてる…!」
猫みたいにすりすり寄ってくるエルピスをぐぐぐっと押しながら俺は呟いた。俺、なぜ好かれた?どこに好かれる要素があった!?ジャッテがあはは、と能天気に笑う。
「俺もエルピスみたいな可愛い弟がいたらいいんだけどなぁ」
「じゃあボクも連れていってよーっ!ボク、ここで暮らすの飽きた!」
「エルピス、お前もここに住んでいるのか」
じたばたするエルピスの言葉に、ニコラの純粋な疑問がぶつけられた。すると、ぴたっとエルピスがおとなしくなる。
「…エルピス?」
「…うん。一人で」
力なく返されたのは、あまり元気のないお返事。よしよしと頭を撫でると、本当に動物みたいにおとなしくされるがままになってる。どうしたんだ?
「一人でって…ドラゴンもいるんだろ?お前の友達だと思ってたけど」
「……」
黙ってうつむいてしまったエルピスの様子に驚き、俺はジャッテとニコラに助けを求める視線を送る。ほんとにどうしちまったんだよ、まさか最近喧嘩したとか?
けど、ジャッテはどこか切なそうな顔で微笑んでる。ニコラは何かを思案し、それを言おうか言うまいか悩んでいる様子だった。なんだよ、お前ら何か気づいてんのか?
ぽつり、とエルピスが話し始める。俺の手が、その小さくて荒れた手にそっと握られた。
「…ボク、いつも一人で。遊びに出かけても、皆ボクを遠巻きにするの。ボクが怒ると、恐いから…。寂しくて」
「…?」
「それで、友達が欲しくて。ボクの幻影を魔法で作って町へ飛ばした。そしたら…久しぶりの魔法はうまくいかなくて、失敗しちゃったみたい。遊びに来てって言っても、誰も来なかった。
それどころか、ボクの姿を見て皆怯えたり、攻撃してきたり。ボク、どうしたらいいか分からなかっただけなのに…」
ぎゅう、と抱きつかれる。けど、俺には話が見えない。魔法で幻影?失敗?誰も来ない…怯える…どういうことだよ。この腹黒くて生意気なやつを誰が怯えるんだ。
ニコラが何かを言おうとして、ジャッテに制されてるのが視界の端で見えた。ジャッテはただエルピスを見つめ、ニコラの方に片手を突き出している。
しばらくの沈黙。俺は頭が音をあげそうな勢いで必死に考えた。こいつ、何が言いたいんだ?俺はどうしたらいいんだ?話がかみ合わない。
だってエルピスが誰かを怖がらせるようには思えないし、攻撃されるなんてあんまりだろ。じ、じれったい…!俺が続きを促そうと声をかけようとしたとき、ジャッテが優しく言った。
「大丈夫。俺たちはちゃんと聞くからなぁ。逃げたりしない。…教えてくれるよなぁ、エルピスのこと」
広い洞窟内に、その声がほわほわと反響する。その言葉にもじ、と身じろぎしてからエルピスが顔を上げた。その目の光の強さに俺は思わず引き込まれそうになる。
へにゃ、と情けなくその可愛い顔をゆがませて、泣きそうな声でエルピスが言葉を紡いだ。
「そのドラゴンって…ボクなんだよ」




