第8話 来たぜ、来たぜ! 最っ高の波が来やがった!!
東の森では、リオ、バルゴ、ミル、ロロの四人とゴブリン=ジェネラルの戦いが続いていた。
時間稼ぎのために逃げながら、四人はゴブリン=ジェネラルの攻撃をかわす。しかし、徐々に疲労がたまり、その足取りが重くなる。
この足では、もう逃げられないだろう。
四人の目からは希望の光が消え始めていた。
しかしただ1匹。
ポヨンの目だけはいまだギラギラと輝いている。
「おい、リオ。そろそろガッツ=アタックのクールタイム終了だ」
「でもよう、ガッツ=アタックもあいつにゃあ効かなかったんだぜ」
リオの言葉に、他の三人も目を伏せる。
「ばっきゃろー! 今が最っ高の逆境じゃねぇか! ガッツがありゃ乗り越えられる!!」
「んな無茶な」
「いいか、よく聞け。一つだけ方法がある」
「なんだよ?」
「お前とチームの連中の絆だ。奴らのガッツをお前に送り込んで、ガッツゲージを限界突破する」
「そんなことできるのか?」
「できる! なんとなくわかるんだ」
「よし!」
さすがにゴブリン=ジェネラルもスタミナが切れてきたのか、今は休んで息を整えている。
しかし、いつでも襲い掛かれるとばかりに、その目は四人を睨んだままだ。
リオは三人を集め、素早く事情を説明した。
「了解じゃ」
「親分の言う通りでげす」
「にゃんす」
リオの右手をバルゴが、左手をミルとロロが握る。
三人とも目を閉じて念じ始めた。
「俺たちは絶対勝つんじゃ!」
「おう! 親分の言う通りでげす!!」
「あっしもやるでにゃんす!」
握られた両手を通して、三人のガッツが自分の中へ流れ込んでくる。
その感覚を、リオは確かに感じていた。
「先輩にあっしらのガッツを送るでにゃんす!」
「そうじゃ! 俺らは出来るんじゃ! 最強のチームじゃあ!!」
「そうだ、出来る! 親分の言う通りでげす!!」
ポヨンの体が光を放ち始めた。
———その時、転移してきた四人が駆けつける。
「あそこです!!」
キアラが叫んだその時だった。
リオも力の限り叫ぶ。
「俺達は絶対負けねえ! これが潮風の旅団だ!!」
「おいおいおい、来たぜ、来たぜ! 最っ高の波が来やがった!!」
ポヨンの体が、これまでにないほど強い光を放つ。
「ガッツだ! ガッツ! ドゥ!ガッツでぃ!!」
眩いばかりに光り輝くポヨン。
その姿を見たプラミアの顔色が変わった。
「だめだー! ポヨン!!」
だが、もう止めることはできない。
リオが剣を構える。
「行くぜリオ!!」
「おうよ、ポヨン!!」
「「ガッツ=アターーック!!」」
ガッキーーン!!
さっきとは比べ物にならないほどのスピードと威力。
一瞬で目の前に現れたリオに、ゴブリン=ジェネラルは反応することさえできない。
光を纏ったリオの剣が高々と振り上げられる。
そして——
一気に振り下ろされた。
ゴブリン=ジェネラルは微動だにすることもできず、真っ二つに切り裂かれた。
———その瞬間。
サウリスの脳裏に、一度だけ遠目に見た魔族討伐の景色が甦る。
ビッカーー!!
「タフネス! タフネス! ドゥ!タフネスでぃ!!」
「タフネス=アターーック!!」
「……!」
サウリスが我に返る。
「あれは……勇者が魔王討伐の時に使った必殺技『タフネス=アタック』。なぜ、彼らが?」
前方には二つに分かれたゴブリン=ジェネラルの体。
緊張の糸が切れたように、リオたち四人がヘナヘナとその場に座り込んだ。
「リオ! バルゴ! ミル! ロロ! ポヨン!!」
キアラが四人のもとへ駆け寄り、涙を流しながら、満身創痍のリオに抱き着いた。
「ヒール! ヒール! ヒール!!」
「も、もう大丈夫だ、キアラ。サンキューな」
「もー! ホントに心配したんだからね!!」
キアラの顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
そんな姿を見て、リオたち四人にもようやく笑顔が戻った。
そこへ真剣な表情のサウリスも近づいてくる。
その視線は、リオではなくポヨンに向けられていた。
「今の技は、勇者が魔王討伐の時に使っていた必殺技の『タフネス=アタック』と同じものだ。なぜ君たちが使える?」
リオが不思議そうな顔をする。
「え、今のは『ガッツ=アタック』だよな」
納得できないサウリスは、無意識のうちに声を荒らげた。
「どうなんだ!? 黄色いスライム!」
「うっせえな、体がでかい奴ぁ声もでかいってのは本当だな! 前もこいつらに言ったけどよ、俺ぁ昔のことは忘れちまったんだよ。覚えてんのはガッツのことだけだぜ」
そう言いながら周りを見回すポヨンの目に、こちらに近づいてくるプラミアとファイナの姿が映る。
——その瞬間。
ポヨンの脳裏に、以前見たあの光景が甦る。
「…またお前は嫌らしい目で私たちを見てるのか?」
「もーポヨンのエッチ!」
ダークエルフとビキニアーマーの女性。
「……!」
甦った過去の記憶に、ポヨンの顔がハッとなる。
「思い出したぞ! あの時のダークエルフのポヨンポヨンと、剣士の姉ちゃんのビキニアーマーじゃねえか!」
ポヨンの発言に、プラミアが頭を抱えた。
「はーあ、やっぱり思い出しちゃったか……」
「思い出したって言うのは、いったいどういう意味なんだ。プラミアさん」
不用意な言葉に、サウリスが鋭く反応した。
プラミアは眉を八の字にして、いかにも困った顔でサウリスを見つめる。
どうやって、ごまかそうかなー、
そう考える暇もなく、サウリスが畳みかけてきた。
「プラミアさん、もうごまかしは効かない。正直に答えてくれ」
「ま、仕方ないか……」
プラミアはため息をつきつつ、観念した表情でポヨンの方に向き直る。
「ポヨン、お前は十年前、勇者と契約して私たち勇者パーティーと共に魔王と戦っていたんだ」
「あー、なんか思い出してきたわ」
確かに自分のそばには、いつもクソまじめな青年と、ガミガミうるさい爺さんがいた。
剣士のお姉ちゃんのビキニアーマーと、ダークエルフのポヨンポヨンだけが、俺の癒しだったなー。
そんな記憶が、徐々にポヨンの頭の中に甦ってくる。
「魔王との最後の戦いのとき、お前は今と同じように私たちからガッツを吸収した」
みんな固唾を飲んでプラミアの話を聞いている。
「その強大な力で魔王を倒したんだが、その衝撃によってお前は形も残らないくらいバラバラになったんだ」
「えっ? んじゃ、さっきの俺って危なかったの?」
「まあ、今回は魔王ほどの力ではなかっただろうから、無事で済んだんだろうな」
「結果オーライってやつか」
こいつ、 いくら何でものん気すぎんだろ!
リオは思わずポヨンに怒鳴った。
「おまっ、死ぬとこだったんだぜ!」
「へへ、面目ねぇ」
「嫌だぜ、死体の貼りついた防具なんてよ」
いまだに軽いポヨンに言いたいことは山ほどある。
だが、それよりもリオには一つ気になることがあった。
「でもよう、ポヨン。おめぇ、どうやって生き返ったんだ?」
「いや、バラバラになったけど、小指の先ほどのちっせえ欠片から、十年かけてだんだん元に戻って、今の超可愛らしい俺になったんだよ」
「そっか、一回死んだから勇者との契約が切れて、俺と契約したって訳だ」
小さくなりすぎて、考えることもしなくなったポヨンは、死んだと判定されたのだろう。そこから再生するとは、恐ろしきはポヨンの再生能力だな。
リオは普段のポヨンと、その能力のギャップに呆れるばかりだ。
「そうそう、勇者ってのは、リオよりもクソ弱っちい奴のことだよな!」
「げっ、思い出したか」
プラミアが途方に暮れた表情で顔を押さえる。
「あいつ、えれぇ弱くてよ、いっつも爺ぃと姉ちゃんに怒られててな……」
ポヨンが懐かしそうに話しだす。
「ま、ガッツだけはいっちょ前だったからな。俺が強くしてやったもんよ」
「そう、それが勇者の秘密。カッコ悪いから知られたくないって言ってたんだけど、あいつ……」
「なんか、色々ショックだわ……」
勇者ファンのファイナは、呆然とした表情で立ち尽くしている。
「あーあ、いつあんたたちにばれるか、気が気じゃなかったわ」
心底疲れた表情のプラミアに、サウリスがさらに質問を重ねる。
「じゃあ、なぜプラミアさんの存在は消されたんだい?」
「知らないわよ、もともとシーフだから別行動することも多かったし。ダークエルフって悪っぽいから、物語を書くときにわざとハブったんじゃないの?」
「はは、それが勇者の秘密か……思わせぶりにもほどがある」
まだわからないことは沢山あるが、サウリスの思考を中断するように、長引いた会話に飽きたポヨンが声を上げる。二回もガッツ=アタックを使って、空腹ゲージが限界になったのだ。
「おい、それより腹減ったぜ! プラミアさんのお手々作りのスーシが食べたいなー!! ギルドの奢りで」
「分かったよ、今日は私が出そう」
「さすがでけぇ奴は心もでけぇや! んじゃあよー、今日は雑魚スーシ以外にしてくんねえか?」
さっきは声がでかいとか言ってたくせに。
あまりにも調子のいいポヨンに、サウリスも少し引いている。
「はは、分かったよ」
余裕の表情で答えたサウリスであったが、誰にも見つからないようにそっと財布を見る。
そして、小さなため息をつくのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドの食堂トレジャーには、多くの冒険者集まっていた。酒を酌み交わす冒険者たちは、「潮風の旅団」を取り囲み、口々に褒め称えている。
「おめえら、すげえじゃねえか!」
「ああ、ゴブリン=ジェネラルやっちまうなんてよ!」
「ありゃあ、Bランクの連中が相手にするもんだぜ!」
「キアラちゃん、俺の嫁に……」
冒険者たちの喜びの声に混じって、約一名変なことを言っている奴もいる。
そんな中、サウリスだけは複雑な表情を崩さなかった。
「サウリス先生、どうしたんですか? 浮かない顔して」
「ああファイナ先生……うーん、もしかしたらリオが将来の勇者かもしれない、なんて思っててね」
「まさか!」
そこへ、いつものようにお邪魔虫のプラミアが混ざってくる。
「あんたまだ言ってんの? 王国で定期的に魔王の封印は確認してんだから、あんまり心配しなさんなよ」
「相変わらずお気楽ですね」
「こんな美女二人に囲まれてんだから、あんたも楽しく飲みなよ。ウリウリ」
サウリスの腕を取り、プラミアはいつものように双丘で挟む込む。
ダンっ!!
サウリスとプラミアが音の出どころに視線を移すと、叩きつけたグラスを握るファイナがプルプルと震えている。
怒りのせいなのか、酒のせいなのか、その顔は真っ赤だ。
「プラミア! またなに押し付けてるんですか!?」
「ついに呼び捨てになったか。てか、あんたもその立派なもん、くっつければいいだろう」
いつものファイナなら「ハレンチーー!!」と言って引き下がるところだ。
しかし今日は無礼講。
手にした酒を飲み干して、勢いよくサウリスの腕を取った。
スルッ!
そんな音が聞こえるほど、サウリスは華麗にファイナの腕から抜け出してしまう。
「勘弁してくれよ」
何とも思っていないプラミアなら、あんなことをされても感じるものはなにもない。
だが、ファイナはだめだ。
いろいろ我慢できなくなるかもしれない。
危険を感じたサウリスは、そそくさとタウレンのもとへと逃げていった。
「あ、あーー」
「ざーんねん、ファイナセンセ!」
まあ、プラミアも薄々サウリスの気持ちに気付いて、わざとやっているのだが……
当の本人であるファイナはそんなことに気づかず、腕で顔を隠して泣き出してしまう。
「くー! 剣士生活ウン十年……こんなに辛いことが……」
「それはわしのフレーズじゃぞい!」
今回もいいとこなしの地獄耳エルフ、タウレンであった。
——一方のポヨン達
男泣きのミルの肩を、バルゴが優しく叩いている。
一見強面だが、仲間にやさしいバルゴである。
その近くではロロが黙々とお菓子を食べ続けていた。
どこかで話を聞きつけたのか、シスター=レーラとミーサも来ている。
ミーサが、ロロの口についたクリームをハンカチでふき取ると、ロロの顔はやっぱり赤毛と同じくらい赤くなった。
少し離れた席に座るリオとポヨンの前に、女子三人パーティーの「三日月の兎」が座っていた。
お色気担当のバニーちゃんがポヨンに迫ってくる。
「ねえ、ポヨンちゃん。あたし達のパーティに来なさいよん」
「うーん、バニーちゃんにそう言われちゃなあー」
ニヤニヤ×10のポヨン。
その隣では、リオがうらやましそうに見ている。
「おいおい、ポヨンと俺はセットだぜ。だったら俺も入れてよーーん」
すん…
「あんたはいらない」
「なんでーー!!」
「なんでじゃないわよ! ったく」
「あ、キアラ」
最近ジト目が癖になっているキアラが、ため息をつく。
「一瞬でもあんたを見直したあたしがバカだったわ」
「そんなこと言わないで、傷心の俺を慰めてよーー」
まったくこいつは、小さい頃から変わんないんだから。
でも今日は……
かかか、カッコよかったかもね。
そんな思いでキアラはいつまでもふざけているリオをじっと見つめる。
無事でいてくれて、本当に良かった。
そう思った途端、自然に言葉が零れる。
「ホントに心配したんだからね……」
上目遣いのキアラにリオの胸がドキッとする。
「……ああ、分かってる」
真剣な表情で答えるリオ。
今度は恥ずかしくなったのか、キアラがふざけた調子で言葉を返した。
「じゃあ、明日はリオにおいしいものでも奢ってもらおうかなぁー! 雑魚スーシ以外で」
「ちぇ! 調子いいなぁ」
二人を見ていたポヨンのニヤニヤがさらに深まる。
「なんだなんだ、リオよぉ! キアラちゃんとデートか? 憎いよこの、色男!!」
「うっせぇ! バカスラ!」
「やんのか? アホリオ!」
勇者の秘密という大事件があったにもかかわらず、あいかわらず能天気なシャーク・Gの連中。
しかし、リオたち若き冒険者たちの成長に、シャーク・Gの未来は明るい……はず?
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