第1話 この世は死体だらけ
常にこの世は死体だらけである。
戦の敗北による飢餓や反乱で朽ちた世の中で、捨てられ、行き場のない元人間たちが死に場所を求め腐っていく。そんな彼らを人間として死なせる「死体処理人」
この世の最期の送り人となる。
死体処理人……世間では【カラス】と罵られている。
烏カラスは口には嘴のようなマスク、生きているものを寄せ付けない眼、常に表情は凍り 顰しかめた面をしている。
彼らは直接「死」に触れるため 忌み嫌われている。
「穢けがわらわしい!」
「ひっ、近寄るな!」
民衆は石や心無い言葉を投げる。
しかし、こういった行為は処理人に向けられた憎悪というよりかは、この不条理な世の中全体への嫌悪を死体にしか相手をしない烏にその姿を見出しているのである。
誰のためにもならない言葉をかけ、嘲笑し、わずかでも自分の鬱憤を晴らしていることを、誰も自覚していない。
しかし、誰も烏たちを殺そうとはしない。このご時世、人を殺しても罰する者がいないにも関わらず。
現在、烏が殺されないのはただただ、転がり返った邪魔なだけの死体を進んで 片付けようとする者は烏以外居ないからである。
つまり死体処理人たちは「烏の業」故に生かされている。
烏はこの街に三人いる。
また別の街には別の烏たちがいるらしい。
しかし、その情報が正しいのかは街の人間にとっては大層どうでもよく、その情報の真偽を確かめるために数少ない物を消費して、なんの利益にもならない事を誰が立証しようというのか、
そんな奴はこの街には居ない。
烏について街の人たちが知っている事は進んで死体を片付ける事。
いつも祈りの言葉のような音を喋る事。
その後、死体を持ち帰り、その場に元々誰も居なかったかのように立ち去っていく事だけである。
彼らはどこから来たのか分からない。なんのために死体を片付けているのかも分からない。
彼ら死体処理人はこの不気味さから烏と呼ばれ始めたのである。