初めてのダンジョン2
「さて、いよいよだな!」
ダンジョン入り口前。
不自然に大岩が存在し、そこにぽっかりと開いた大穴。ここがダンジョンの入り口で階段を下りた先が一層と言われる場所。
その横には移動ポータルと呼ばれる柱があり、十層から簡単に帰ってくる事ができると、さっきミミさんから教えて貰った。
「いくぞ」
テツにぃの声に合わせて入り口の先を覗くと、下へと続く階段が十段ほど見えた。けれど、その先は真っ黒になっていて何も見えない。
僕たちは恐る恐る階段を下りて行く、ふと気がつくと十段先までが変わらず見えていて、その先はやっぱり真っ暗だった。
さらに何段か下りる、振り返ると入り口だった場所が真っ暗で見えなくなっていた。
さらに階段を下りて三十段ほど下った頃、階段の先が少なくなっていた事に気がついた。もう残り五段くらいだ。行き止まり? いや一層へ出るんだ。
最後の一段の先、真っ暗な壁、手を触れようとするとスッと見えない壁の先に手が消えた!
慌てて手を引っ込めると、何事もなかったように手が出てきた。やっぱりこの真っ黒な壁の向こうがダンジョンの一層なんだ!
僕とテツにぃは顔を見合わせて頷くと、一気に真っ黒な壁を突き抜ける。
ダンジョンの一層は広い洞窟みたいになっていた。通路の横幅は僕たち二人が手を伸ばしても届かないほどで、天井もテツにぃの槍が届かないくらい高い。
何故か壁や天井、通路が薄ぼんやりと光っている箇所があり、意外と先の方まで見通せる感じになっていた。これがダンジョン……。
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僕たちは今、ダンジョンの三層にいます。
早すぎる? それがね、元々僕らは外でも獣や魔物の狩りをして経験を積んでいたので、ダンジョンだからと言っても一層や二層の魔物相手だと弱過ぎたんだ。
一応、二人とも一度ずつは相手したんだよ! だけど、あまりにも手応えがなさ過ぎて三層まで来んだけど。
「うりょ!」
アントの魔物が黒いモヤとなって消えて魔石が残る。
「まあ、魔物が複数出るようになってやっと手応え出てきた感じか?」
「そうだね、けど……」
「!!」「そっちだ!」「くそ!」「だあー」
三層に来ると、今度は人が多くて魔物を探すのも苦労する状態になっていた。せっかく見つけても近付くまでに他の人に取られるんだ。
僕たちは勘違いをしていた。魔物は外の獣とは違って用心したり逃げたりしない。外の魔物もそうだったけど、僕たちは狩りの意識が強すぎてダンジョンでのやり方が分かっていなかったんだ。
魔物を見つけたら隠れたりせずに、素早く接近してサクッと倒す! これが上層での戦い方だったみたい。
三層は手応えはあるけど、とにかく人が多いと言う事で僕たちは四層まで行ってみる事にした。
四層では、いよいよゴブリンが出てくる。コイツを倒せてやっと初心者卒業らしい。
「いた」
通路の曲がり角の先で、一匹のゴブリンがキョロキョロしながらウロついている姿を見つけた。
「オレが先でいいか?」
さっきの魔物は僕が倒していたので、今度はテツにぃの番だ。テツにぃは素早く動いてゴブリンに気づかれるより先に、槍を刺してゴブリンを仕留めた。
ゴブリンの魔石を持って戻ってくるテツにぃ。
手を閉じたり開いたりしながら何かを確かめている。
「まあ、大丈夫か……」
「そうか、テツにぃ」
テツにぃは以前、人を刺した事がある……町を襲った賊相手だからテツにぃは悪くないけれど、その後暫く槍を持つ手が震えたりしていた。テツにぃのお父さんがしんりてきストレス? とかで、対処法だと言ってよく狩りに連れ出していたけど。
「テツにぃ、大丈夫?」
テツにぃはニッコリ笑って。
「ああ! 大丈夫だ!」
と、言ってくれた。
四層でも大丈夫だと踏んだ僕たちは、五層に辿り着き暫く魔物を狩っていたけれど。今、ある場所に立っている。
「テツにぃ、どうする?」
「覗いてみる……か?」
そう! 六層へ降りる階段が目の前にある。貰っている地図には六層の階段の場所は描かれていなかったのだけど、見つけてしまったら仕方ないよね。
「見るだけね、一応見てから帰るってのはどう?」
「そっ、そうだな……そろそろ良い時間だし、下を見たらすぐ戻って帰るか!」
何だか二人して理由をつけたけど、やっぱり好奇心には勝てないよね。
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「帰ろっか……」
六層に下りた僕たちが見た光景は……。
五層とはちょっとだけ広い洞窟が続いているだけでした。興味をなくした僕たちは、そのまま回れ右して階段を上ったんだ。
階段を出て五層に戻った時だ。
「?」
「どうした? アベル」
「何だか、何処かで嗅いだ匂いがした気がして……」
気のせいだったのかと思い、僕たちは特に気にせず帰ってしまったのだけど。
「「ただいまー」」
ダンジョンを出た僕たちは、カウンターにいたミミさんを見つけて声を掛けた。
「あっ、お帰りなさいテツ君、アベル君。初めてのダンジョンはどうだった? 見たところは大丈夫そうだけど」
「はい、何とか五層まで行ってこれました」
「えっ? 初日で五層まで? 大丈夫? 無茶してはダメよ」
えと……これは心配されているのかな? 六層まで見てきたと言ったら怒られる?
「はい大丈夫です、無理はしていません。」
テツにぃがしっかり返事をすると、ミミさんも少しホッとした表情で対応してくれた。
「この魔石は……本当に五層まで行ったのね」
何だかぶつぶつ言いながら魔石の鑑定をしてくれる。
「はい、では魔石は全部買取りで良いのね? 初めての魔石は記念に持ってる人もいるけれど」
「オレたちはもう狩で魔石は何度も手にしてるから、全部買取りでお願いします」
「では、こちらが買取り額になります。お確かめ下さい」
銅貨を貰って枚数を確かめるテツにぃ。
「はい、確かに。ありがとうございます」
トレーを返して帰ろうとしたところで。
「ところで、二人はダンジョンの中でルルちゃんを見かけなかった?」
「ルル?」
「あっほら、一緒に説明を受けた子よ」
「あっ、あの子か。あの子がどうしたんですか?」
「あの子、まだ戻ってないのよね。もうそろそろ窓口も閉まる時間だから気になって…… 他の冒険者の人達にも聞いてみたんだけど、誰も知らないって言うし」
その時、ミミさんの話を黙って聞いていたアベルが突然声を上げた。
「あっ! あの時の匂い!」
「「匂い?」」
「そう! 五層に戻った階段の前、何か嗅いだ事のある匂いがした気がしたんだけど、あれルルの匂いだ!」
「匂いって、アベルは匂いで誰だか分かるのか?」
「誰でもは分からないけど、あの子はいい匂いがしてたから。僕、覚えてる!」
「待って下さい! 五層に戻った階段の前って事は……ではあの子は五層か六層にいるって事!?」
「そうなるね」
「無茶よ! あの子そんなに装備も付けていないし、武器だってナイフしか持ってなかったのよ! それなのに十層までの地図が欲しいとか言ってたのも、今日はダメだって話して二層までで帰って来なさいって約束したのに……」
すごく慌てているミミさん。
「僕たちが探して来ます」
「えっ!」
「僕たちがルルを探しに行きます! 五層までは辿り着けてるし、ルルの姿も知ってて匂いだって覚えてる。必ず探して戻りますから」
ミミさんは、少し悩んでいる様子だったけど、意を決した様に頷くとカウンターから一枚の紙を取り出した。
「これは十層までの地図よ、念の為に二人に渡しておくわ。本当は初日の人には渡してはダメなんだけど、二人は五層まで辿り着いているから特別、絶対にルルちゃんを見つけて帰ってきてね。お願いね!!」
「「はい!!」」