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AT『アベルとテツの』冒険譚 if 異世界転生したおっさんが普通に生きる  作者: カジキカジキ


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AT「アベルとテツの」冒険譚

「さあ! 行くぞ!」


 テツにぃの掛け声と共に、僕たちは五十層のボス部屋の扉を開けて中へと進んだ。ボス部屋の中は、それまでのボス部屋と比べてもずっと天井が高く広い空間になっていて、思わず上の方まで見上げてしまう。


「やっぱりワイバーンなんだな」


 これまでで、ダンジョンのボス部屋で知られている情報と違う魔物が出たのは、海のダンジョンで見たボス位かな。あの時のダンジョンオクトパスはホントに変な魔物だったよね。


◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶


「貴公らが、気持ちの良いダンジョン探索にならず申し訳ない」


 五十層に到達した翌日、アスラさんの屋敷に集まった所でアスラさんが僕らに頭を下げた。騎士団が同行する事になって、確かに思い通りにはならなかったけれど、そんなのはダンジョンでは当たり前だし。騎士団の所為ではないと、僕らもゴドスさんも言ったのだけれど。アスラさん的には腑に落ちなかったみたいだ。


 それから、とにかく謝るアスラさんに。皆んなで頭を上げてくれとお願いして、やっと明日からの打ち合わせに入る事ができた。

 

「先ずは五十層のワイバーンについて、以前『サンライズ⭐︎スター』で戦った時の戦法なのだが……」


 教えて貰った戦法は……。

 

 えっとゴウさん? 

 

◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶


 テツにぃが、予め準備していたワイバーン用の対策を用意する。その対策と言うのは……大魔石。


 ワイバーンは何もしないと空を舞っているけれど。何故か大魔石を見ると下りてきて、卵だと思って抱き抱えるらしい。そこを皆で襲うのだけれど、卵を奪われると思ったワイバーンは、普段より凶暴になって危ないけれど、卵を守ろうとするので動きが制限されるから飛んでいるより倒しやすいんだって。


 と言うのを、何故かゴウさんが教えてくれたと、昨日アスラさんが話してくれたんだけれど。


「行ってきます」


 皆が息を呑んで待ち構える中、テツにぃが大魔石を持ってフロアの真ん中辺りまで進む。


 その時、空を飛ぶワイバーンの目は大魔石に釘付けになっていた! 「何あれ?! 何であんな興味津々に見てるの?」


 テツにぃがそっと大魔石を床に置き、ゆっくりとその場を離れると。


 いきなりの急降下! テツにぃが襲われるかと思ったけれど、ワイバーンは大魔石にだけ目が行っている。地面に下りたワイバーンは大魔石にヨタヨタと駆け寄り、大事そうに大魔石を抱えた。


 その顔は、まるで赤ちゃんを見るお母さんのような。見ているコッチまで幸せになれそうな微笑だった。

 

「えっと、この状況で襲うのって。コッチが悪者みたいじゃないですか?」


 テツにぃも調子が狂ったのか。皆んなの顔を見て動きが止まっている。


「まっ、まぁ。今はあんな様子だが、元々は恐ろしい魔物だぞ? しかも五十層のボスだ、襲うなら今が一番のチャンスではないのか?」


 アスラさんのその言葉を聞いても、どうにもピンと来ない。そんな僕たちの様子を見てモヤモヤしたのか。


「それならば、我々が先手を取っても良いだろうか?」


 そう言って騎士団、リンゲルさん達が前に出てきた。


「えっ、ヤコブさんまで? 大丈夫なんですか?」


 リンゲルさん、ランドルフさん、アーノルドさんにヤコブさんまで武器を握っている。


「油断しているように見えて、卵を守る為に向こうも必死だ、通常より攻撃は激しいぞ。空から襲われるよりはマシだと言うだけだからな」


 分かっています、と言うように皆が頷くと。そっとワイバーンの視界に入らないように迂回しながら近づいて行った。


「ヴゴグァーーーーーー!」


 騎士団が近寄っている事に気がついたワイバーンが、物凄い咆哮を上げる。ボス部屋中に響き渡るような怒声、間近で咆哮を受けたランドルフさんが固まってしまった。


「ランドルフッ!!」


 リンゲルさんがランドルフさんの名を叫ぶ!


 ドガァッ!


 振り下ろされた尻尾に、ギリギリで間に合った盾で守られはしたが、跳ね飛ばされたランドルフさんは転がったままだ。


 リンゲルさんと、ヤコブさんがワイバーンの視界に入ってランドルフさんから興味を引き剥がす。その間にアーノルドさんがランドルフさんを引っ張って行った。


「クソが!」


「ハァッ!」


 ガギィン!


「セヤッ!」


 ギン! ギン!


 二人の攻撃はワイバーンの皮膚と爪に遮られて、ダメージを与えられない。


「ハァッ!」


 ギィイ!!


 離れて見ていた僕たちも、リンゲルさん達の戦いを見ている内に、あのワイバーンが普通の魔物だという感覚が戻ってきていた。


「俺たちも行くぞ!」


 テツにぃを先頭に、僕たちもリンゲルさん達のフォローに走る。


「リンゲルさん! 入ります!」


 ロウさんが大楯を構え、リンゲルさんの前に入る。


 ガァン!


 ワイバーンの尻尾をロウさんの大楯がしっかりと防ぐ。僕とテツにぃが左右から斬りかかると、ワイバーンがどちらを攻撃するか一瞬戸惑う。その隙に、背後に回っていたアルが入れ墨の力を使ってワイバーンの尻尾を切り落とした。


「ハァッ!」


 スパァッ!


「ヴォーーーーーー!」


 たまらず後ろを振り向くワイバーンだけど、よそ見してたら危ないよ?


「セヤァッ!」


 スパッ!


「うりょ!」


 ザグッ!


 僕とテツにぃの剣がワイバーンの腕や腹を切り裂く。


「ヴゴグァーーーー!」


 片方の腕を振り回すけれど、だんだんとワイバーンの咆哮が弱くなっていく。


「リンゲルさん! アーノルドさんも、攻撃に加わって下さい!」


 テツにぃが、見ているだけになっていた騎士団の二人を呼んで攻撃に参加させる。


「ハァッ!」


「トゥ!」


 ザンッ! ザスッ!


 ついに、ワイバーンからも黒いモヤが出てきだした。


「ランドルフ!」


 リンゲルさんが、ランドルフさんに声をかけて最後の一撃を加えさせる。


「ハァアッ!!」


 ザンッ!


「グォオーーー!」


 最後は、ワイバーンが大魔石の上に覆い被さるように倒れて消えていった。


 最初にテツにぃが置いたキングオーガの大魔石の横に。今倒したワイバーンの特大魔石が並ぶ姿を見て、何故だか神妙な気持ちになったのは僕だけでは無かったはずだ。


◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶


 カリカリカリカリカリ……。


 静かな部屋の中で、私が持つ羽ペンの音だけが響いていた。


「ふーっ」


 フッと光が目に入り、書いている手を止めて窓の外を見る。今日のお日様が低くなり赤くなってきている。夕焼けが窓から入り手元を照らすけど、すぐにも暗くなってしまうだろうな。


 私は、書きかけの本のページのインクが乾くのを待って本を閉じる。


「おーい、リリご飯だぞ」

 

 その時、ドアをノックする音と同時に扉が開き、お兄ちゃんが部屋に入ってきた。


「あっ! もう、勝手に入らないでって言ってるでしょ!」


「あーゴメンゴメン。何だリリ、また何か書いてたのか?」


 お兄ちゃんが、机の上の本を見ようとする。

 

「あ! ちょっとお兄ちゃん見ないでよ!」


「見てないって、さあ父さん達も待ってるから行くぞ」


 お兄ちゃんが部屋を出ようとするので、私も慌てて机を片付ける。

 

「はいはい。ねぇお兄ちゃん、今日はアベル君と何したの?」


「リリはアベルの話が好きだなあ」


 お兄ちゃんが振り返って揶揄う(からかう)


「違うの、お兄ちゃんの話を聞くのが好きなの!」


「わかったわかった」


 私の机の上には、大事な大事な宝物が並んでいる。


 襟章に招き猫、大魔石に特大魔石、沢山の人と描かれたお兄ちゃんの姿絵。


 そこに、お兄ちゃんの冒険の話を聞いてまとめた私の本。


 そして、それを読んでくれる皆んな。


 この物語は、お兄ちゃんの冒険の話を聞いて私が纏めたお話しでした。ちょっと私の誇張や妄想も入っているけれど。


 お兄ちゃんは、今でも時々アベル君と冒険の旅に出ている。旅から帰ってくると、新しい話を聞かせて貰うのが私の楽しみだ。そんな楽しみをお話しにして、皆が一緒に楽しんで貰えるのがもっと嬉しい。


 私は、お話しを書く事が大好きだから。


 

 AT「アベルとテツの」冒険譚 if 異世界転生したおっさんが普通に生きる


 

 おしまい。


「AT『アベルとテツの』冒険譚 if 異世界転生したおっさんが普通に生きる」を読んで頂きありがとうございます。

 ずっと応援して下さっていた方々、読んで頂きありがとうございました。毎日とても励まされました。書き始めた時から、終わり方はコレだと決めていたのですが、どのタイミングで終わらせるかで悩んでいました。

 六十層までとも思ったのですが、そこは読者の皆様の想像にお任せして、このお話しは終了です。

 リリちゃんがお話を書き続けるように、私も続けて書いて行きますので、また次の新作を楽しみにお待ち下さい。

 スタートから三ヶ月、百話。お付き合い頂き、本当にありがとうございました。


作者

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