79.今後の方針
『勇者選抜レース』で第三位だった勇者候補パーティーの勇者候補だったミーアさんは、密かに『勇者』の『称号』を得ていた。
彼女は、『勇者』の『称号』を得たことを、誰にも言っていないそうで、デワサザーン伯爵に初めて打ち明けたらしい。
そこで、デワサザーン伯爵は、この件を極秘事項として隠すことに決めたようだ。
俺たちだけに、密かに教えてくれたわけである。
この対応に、クラウディアさんは、「さすが父上」と呟き、喜んでいた。
もし国が知ったら、再びミーアさんを強制的に召集するに違いない。
こんなことになれば、王命でどんな状況に追い込まれるか、容易に想像できる。
それはミーアさんにとって、決して好ましい環境でも状況でもないはずだ。
俺的にも、情報の秘匿を決めてくれた伯爵に、心から感謝したい。
ミーアさんは、故郷の『トブシマー』で、のんびり暮らそうと思っていたようだが、『勇者』の『称号』を得た以上、魔王と悪魔の出現を見て見ぬふりはできないと戦う決意をしてくれたそうだ。
そして王国ではなく、俺たちに合流することを考えてくれているとのことだ。
ただその前に、一度、故郷に帰って、族長さん達と今後のことを相談したいと言っていたらしい。
伯爵は快諾し、すぐに『トブシマー』に送り届けたとのことだ。
それから伯爵からは、俺宛のメッセージもあった。
それは……
今の王国の体制では、魔王や悪魔が襲ってきた場合、とても人々を守れるとは思えない。
頼めた義理ではないが、国の為ではなく、人々のために魔王・悪魔の撃退に協力してもらえないかというものだった。
はっきり言って、国を助ける気持ちは全くない。
ただ罪のない人々が虐げられるのは御免だ。
それを防ぐ力が少しでも自分にあるのなら、使わなければ寝覚めが悪い。
今後、のんびり魔境で暮らしなんて、できないだろう。
そして、もしジャスティスが生きているとしたら、確実に俺を狙ってくるだろう。
そうでないとしても、ユーリシアが悪魔側にいる以上、俺を狙う可能性はある。
そもそもが、他人事では無いのだ。
頼まれるまでもなく、魔王・悪魔には対抗するつもりでいる。
もし『魔境台地』に牙をむいてきたら、今度こそ倒してやる。
もっとも、俺たちの今のレベルでは、余裕を持って対処できるというわけではないが、前回のような悪魔の不意打ちではないから、取れる対策もある。
なんとしてでも、倒してやる。
俺は決意を新たにした。
デワサザーン伯爵からの書状の内容を聞き終えた俺たちは、改めて今後の事について話をした。
国王の聖剣を取り戻すことを第一優先とするという決断にも驚いたが、俺たちが一番驚いたのは、第三位パーティーの勇者候補だったミーアさんが『勇者』の『称号』を得ていたことだ。
この意味するところは大きい。
勇者の出現は、人々にとって大きな希望になるはずだ。
ただ今の王国では、人々に希望を与えるどころか、危険にさらしてしまうことになるだろうが。
『勇者』の『称号』を得たミーアさんなら、おそらく『聖剣 カントローム』や『聖槍 カントウロウム槍』を使いこなせるのではないだろうか。
本当に俺たちに合流してくれるなら、かなり大きな戦力として期待できる。
他のみんなも俺と同じように、ミーアさんの件についての情報が一番衝撃的だったようだ。
改めて、その話題になっている。
「まさかミーアちゃんが『勇者』の『称号』を得たとはね。
でも彼女なら、ある意味納得ではあるけど」
クラウディアさんが、感慨深げに言った。
「だけど、今後対応が難しいですよね。勇者の誕生は喜ばしいことですが、王国に知られれば強制的に召集されるでしょうし」
フランソワが、思案げに首を傾げる。
「そうなったら、ミーアさんの身が危険になるかもしれません」
今度はラッシュが、心配そうに声を張り上げた。
「そうだよね。王国なら無茶苦茶なことをしそうだし」
イリーナも、表情を曇らせる。
「本来なら勇者として人々の希望の存在になってもらいたいところだけど、現時点では、デワサザーン伯爵が判断したように、情報を秘匿するしかないだろうな。それが彼女の身を守ることにもなるし」
俺の言葉に、クラウディアさんは少し悲しげに頷く。
みんなも同様に頷いた。
「まぁ父上が秘匿すると決めた以上、大丈夫だと思うけど……一度ミーアちゃんとしっかり話がしたいわね」
「俺も、一度デワサザーン伯爵へ挨拶したいとも思ってるんだけど、今の状況では、ここから動けないしな……」
「挨拶!? それは……いつでも、いいんだけど」
なぜかクラウディアさんが、頬を赤らめている。
挨拶に反応しているが……。
「先輩、また私とクラウディアさんで『オートホース』を使ってデワサザーン領に行くって手もありますよね?
でもいつ魔王や王国軍が攻めてくるか分からないから、離れるのはまずいですよね?」
ラッシュが逡巡しながら、尋ねてきた。
俺も、一瞬考えたことではあるのだが……。
「俺もそうしてもらおうかと思ったんだけど、やっぱりこの状況だと戦力ダウンはまずい。今は、動かないほうがいいと思う」
「やっぱりそうですよね。
ところで先輩、多分魔王より先に、王国軍が攻めてくる感じですよね? どうします?」
「それについては、俺に考えがある。はっきり言って、一個大隊が来ても、一瞬で無力化できると思うんだ」
「え、どうするんですか?」
「『聖槍 カントウロウム槍』を使うんだ」
「聖槍で、どうするんですか?……あ、もしかして?」
勘のいいラッシュは、気づいたようだ。
「技コマンド『聖なる地層』を使えば、いつでも大穴を開けることができる。
王国軍が進軍している場所に大穴を開けて、落とし穴を作る。
一瞬で無力化できるはずだ。
問題があるとすれば、その大きさだ。
一度に落とすには、かなりの広さの穴を作らないとといけない。
この二日間で、だいぶイメージ通りの使い方ができるようになったから、もう少し訓練すれば、かなり大きな穴が作れると思う。
仮にその一発で全員を落とせなくても、連続で穴を作ればいいだけだし」
ほぼ俺一人で、片付けられるという算段である。
「確かにヤマト君なら、できるかもね。
でも、当たり前のように言ってるけど、それって凄く異常なことだから。
聖剣や聖槍を使いこなした者は、過去にもいたわけだけど、これほどの規模で使える人って、多分いなかったと思うわ」
クラウディアさんが、感心しつつも、少し呆れるような感じで言った。
「さすが先輩です!」
ラッシュは、めっちゃ嬉しそうだけど、俺は苦笑いをしただけだった。
「まぁそんな感じだから、王国軍は何とかなると思う。
問題は魔王や悪魔だから、残された時間、レベル上げに励もう!」
俺はみんなに声をかけて、今後の方針について話し合った。
移住してきた人たち五十六名は、この『魔境台地』に残ってもらって、追加の丸太小屋の製作や生活環境を整える作業を行ってもらう。
元衛兵で結成されている守備隊のメンバーは、その護衛をしながら、作業を手伝ってもらうということにした。
そして俺たちは、再度魔境の探索に出かけ、なるべく強い魔物を見つけ、レベル上げをすることにした。
ただ、王国軍や悪魔がいつ攻めてくるか分からないので、あまり遠くには行けない。
そこで、『魔境台地』の奥側、北側にある山に出かけることにした。
場所的にも近いし、強い魔物もいそうな感じがするからだ。
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