19.勇者の称号を得た者
三人称視点です。
『勇者選抜レース』第二位パーティーの駐屯所
「おい、聞いたか? 勇者ジャスティス……全然弱いらしいぞ。やっぱり俺の方が、勇者にふさわしいんだ。勇者パーティーのタンクとロングアタッカーが死んだようだが、あいつが死んでれば、俺が勇者になるんだがな。ウッハッハ」
勇者候補だったジェイスーンが、愉快そうに笑う。
「相変わらず、勇者候補らしからぬ発想ね」
同パーティーのヒーラーフランソワが、吐き捨てるように言う。
「まぁさぁ、近いうちにさ、ほんとにそうなるかもしれないよ。評判悪いし、力もないんじゃ、死んじゃうかもでしょ。だからって、あんたが勇者になるっていうのはさ、ちょっと微妙すぎるけど」
今度は魔法使いポジションのイリーナが、微妙な笑みを浮かべながら言った。
「お前なぁ、その口、縫い付けるぞ!」
ジェイスーンが針を持つ手つきで、睨み付ける。
「ほんとのことっしょ」
イリーナが、からかうような笑顔を作る。
「あのジャスティスとあんたが、『勇者の可能性』の称号を持ってるのが、ほんと信じられないわ。ちょっとだけ神様に疑問を感じちゃったもの。まぁ神様ごめんなさいって感じだけど」
フランソワが、残念そうな眼差しをジェイスーンに向ける。
「そんな目で見るんじゃねえよ。お前の目を縫い付けるぞ!」
そう言って睨んでくるジェイスーンを、鼻で笑うフランソワ。
「三番手になっちゃったパーティーの勇者候補の子は、勇者っぽい子だったけどさ」
「イリーナ、何言ってんだ。あんな奴、全然勇者らしくなかっただろ」
「ジェイスーン、あなたがよく言えるわね、そんなこと。私はイリーナの意見に賛成よ。私もあの子好きだったもの。でも配属されたパーティーが悪かったわね。あのパーティーったら、酷い面子だったから。一番一生懸命なあの子が孤立してたもの」
「ジェイスーンとさ、あの子がチェンジしたらさぁ、めっちゃ良かったんだけど。勇者らしい勇者候補と心の綺麗な私とフランソワで、良いパーティーになったと思うのよね。まぁタンクとロングアタッカーの問題はあるけど」
イリーナが、再びジェイスーンにからかう視線を向ける。
「それいいわね。ジェイスーンも、あの三番手のパーティーに行けば、下衆な人間の集まりで、やりやすかったかもよ」
フランソワまで、茶化して話を繋ぐ。
「お前ら、ふざけんな! ほんとに口を縫い付けるぞ!」
「やー、怖い」
「とっととずらかろう!」
二人は、楽しそうに扉を開けて出て行った。
◇
王都のとある宿屋の一室
「本当に助けていただいて、ありがとうございました。あなた様がいらっしゃらなければ、命を落とすところでした」
「「「本当にありがとうございます」」」
跪いて一人の女性に礼を言っているのは、昨日の迷宮攻略の際に、勇者ジャスティスに見捨てられたサポート部隊の者たちだった。
もともとは、『勇者選抜レース』において二番手となった勇者ジェイスーンのサポート部隊だった者たちだが、クビになったジャスティスのサポート部隊の代替要員として召集されたのだった。
だがその日のうちに、魔物に敗北し逃げたジャスティスに置き去りにされ、命を落とす寸前だったのである。
そこを助けた者に、跪き心からの礼を述べているのであった。
その助けた者の名は……ミーア・シーウォーカー。
彼女は、『勇者選抜レース』第三位だった勇者候補パーティーの勇者候補だった女性だ。
彼女は、第三位となったことで、お役御免となった。
実際はクビであり、パーティーは解散した。
そして、王都を去るところだったのである。
故郷に帰ろうとしていたのだ。
だが帰る前に、少し資金を稼ぎたいと思い、冒険者の資格で密かに迷宮に入っていたのである。
そこでたまたまバッファロー魔物に追い立てられ、瀕死だった彼らを発見し、助けたのだった。
勇者ジャスティスたちが逃げ出したバッファロー魔物三体を、彼女はたった一人で傷だらけになりながら、なんとか倒した。
彼女を慕ってついて来た元サポートメンバーの女性レオナが、大量の回復薬を持っていたので、彼女だけでなく全員の傷を治し、密かに迷宮を脱出したのだ。
サポート部隊の者たちは、本来であれば無事に帰還した知らせを出して、仕事に戻るべきなのだが、十人は皆、そうしなかった。
このまま死んだことにしてほしいと、ミーアに頼み込んだのだ。
ミーアは、その申し出に躊躇したが、それも無理のないことと考え了承した。
そして、自分が身を寄せている宿に連れて来たのだった。
このまま勇者パーティーのサポート部隊に戻れば、いつ命を落とすかわからないのだから。
当然家族がいる者もいるわけだが、一旦は姿を消し、落ち着いてから、密かに家族を呼び寄せるかたちにしたいとの意向だった。
確かにそうでもしないと、今のこの国は、何をするかわからない。
逃げたと認識されれば、何をされるかわからないのだ。
「私の故郷は、北西のデワサザーン領なんですけど、よかったら一緒に行きますか?」
「いいのですか?」
「私は構いませんよ。ただ少し遠いですから、王都の家族に連絡を取るのが大変になるでしょうけど」
「いえ、そのぐらいの方が良いでしょう」
「しっかり生活の基盤を整え、力もつけて、迎えに来る準備をします」
「分りました。じゃぁ明日にでも出発しましょう」
笑顔で微笑むミーアに、サポート部隊の者たちは改めて頭を下げた。
実は、このサポート部隊の者たちを助けたときに、ミーアには新たな『称号』が発現していた。
『勇者の可能性』の称号の他に、『勇者』の『称号』を得ていたのである。
だが、それを知る者は誰もいない。本人のミーアを除いては。
当のミーアは、今更勇者になりたいとも思わなかった。
『勇者の可能性』という『称号』が現れたせいで、国に召集された。
それでも国のために力になれるならと、一生懸命頑張った。
だが、パーティー内では浮いた存在だったし、いくら頑張っても仲間たちは認めてくれなかった。
そして『勇者選抜レース』が終わり三位という結果に、仲間たちは、自分を罵倒し、報酬としてもらった金貨まで奪っていった。
もちろん力で抗うことはできた。
でも、そんなことをする気力はなかった。
体の力が抜け、すべてに失望したのだ。
その後、故郷に戻ることを決意したミーアは、資金稼ぎのためにやむを得ず迷宮に入った。
そこで偶然人を助けたら、『勇者』という『称号』を得たのだった。
今更の『称号』だと、ミーアは少し笑った。
そしてこのことは、隠そうと思った。
これを知られれば、また国に召集されるかもしれない。
せっかく自由になれたのだ……このことが知られないように、細心の注意を払おうと決意したミーアだった。
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この物語は、私の書いているもう一つの連載「異世界を魅了するファンタジスタ 〜『限界突破ステータス』『チートスキル』『大勢の生物(仲間)達』で無双ですが、のんびり生きたいと思います〜」と、同一世界線の違う時代の違う場所の物語です。
https://ncode.syosetu.com/n8768ff/
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