133.ハーピーの願い
俺たちは『天船』に乗り、『ハーピー』たちの先導に従い、彼女たちの里から少し離れた場所に降り立った。
一つの森が、そのまま彼女たちの里になっていたが、『天船』を着陸させるほどの開けた場所がなく、森の外周部分に降りたのだ。
そして、『ハーピー』の少女の先導に従い、悪魔とスライム聖女が戦っていたと思われる場所にやって来た。
そこには、すでに悪魔の気配も人の気配もなかった。
もちろん『大剣者』が『アナライズ』で周辺探索をしてくれていて、ここに着く前からわかっていたことだ。
だが俺たちは、大きな木の立て札を見つけた。
『 ここにいた中級悪魔は、倒したのでご心配なく。
通りすがりのスライム聖女より 』
そんな簡単なメッセージだけが残されていた。
なんと中級悪魔を倒したらしい。しかも一人で。
スライム聖女という人は、かなりの強者のようだ。
会って挨拶をしたかったが、この周辺には、もう気配は無い。
改めてクラウディアさん達にも、スライム聖女について尋ねてみたが、誰も聞いた事はないと言う。
クラウディアさんの予想では、この辺の者ではなく旅の者ではないかとのことだ。
なぜなら、スライム聖女という名前だからだ。
みんな思うことだが、この『ジパン群島』にはスライムが生息していない。
普通に生息しているという西の大陸などから、来た者と考えるのが自然だろう。
ただ『ジパン群島』は、どの国も基本的に鎖国に近い状態だ。
『ジパン群島』内の国の国民同士は、ある程度自由に出入りができるが、他の大陸の者が自由に出入りできるとは考えにくい。
密かに潜入していると考えた方が良いだろう。
どんな目的があるのかわからないが、密かに潜入しているならば、なるべく人との接触を持たないようにしているはずだ。
だから、ここもすぐに立ち去ったのではないだろうか。
まぁいないものはしょうがない。
もし縁があるなら、また会うこともあるだろう。
俺たちは、そのまま『ハーピー』の里に案内された。
森全体が里になっているようだが、居住地は森の中心部だった。
大木の上に、木材で作られた家が付いていて、そこで暮らしているらしい。
鳥の巣箱の超巨大版のような感じもするが、人族が住んでいる木の家を枝に乗せたり幹と一体化させたような家々で、なかなかに幻想的だ。
どことなく温かみがあり、ちょっと住んでみたくなる感じがする。
俺は、『ハーピー』たちと今後の事について、少し話をすることにした。
『ハーピー』たちは、やはり俺に恩義を感じ忠誠を誓うと言って、配下として使ってほしいと言ってくれた。
そこで俺は、配下と言うよりは、この魔境に作っている『ヤマダイ国』の国民にならないかという話をした。
彼女たちは、即答で了承してくれた。
ただ彼女たちには、ここの方が住みやすいと思うので、生活自体は引き続きこの『ハーピー』の里でしてもらって構わないという話をした。
すでに仲間というか国民になっている『河童族』たちも、彼らの里に住んだまま国民という形になっている。
『魔境台地』の北側の山の中腹にある里だが、ある意味、『魔境台地』の北側の守りを担当してくれているとも言える。
『ハーピー』たちの里は、『魔境台地』の東側の山を越えて少し行った所の森にあるので、東側の守りを担当してくれるという感じにもなるだろう。
「強き王よ、いえ、ヤマト様、ありがとうございます。
それでは、このまま里に住むことにいたします。
ただ我らは、空を飛べます。
色々とお役に立てることもあるかと存じます。
毎日『魔境台地』にお邪魔して、国づくりのお手伝いをさせていただきます」
『ハーピー』の族長が、そう申し出てくれた。
「ありがとう。じゃぁ、今後色々と頼むかもしれないけど、よろしく」
「こちらこそ、ありがたき幸せです。
……それからヤマト様、一つお願いがございます。
我らに、名前をつけていただけないでしょうか?」
突然、そんなことを言ってきた。
「名前がない!?」
「……我らは、魔物に分類されておりますが、『オリジン』という特別な存在。途中で変質するのではなく、生来の魔物……魔の属性を持った生物です。
そんな『オリジン』たちは、ある程度の知能を備え、会話もできます。
当然、愛称程度ですが、名前を持っている場合もあります。
ですが、正式な名前をつけるという習慣は、あまりありません。
種族によっては、普通に名前をつけている者たちもいるでしょうが」
そんな説明をしてくれたので、少し驚いた。
そして正式な名前と愛称がどう違うのかもよくわからない。
一応、俺は『アナライズ』で『ステータス』を確認してみた。
『名称』の欄には、『マザ』という名前が表示されている。
「悪いんだけど、『ステータス』を確認させてもらったが、『名称』にマザと表示されているけど?」
「はい。愛称も長く使っていれば、『名称』と認識されるのです」
「じゃあ無理に名前をつける必要は、ないんじゃないか?」
「そうなのですが、我ら『オリジン』と呼ばれる者には、力のある者に名付けをされると、特別な力を得る場合があると伝えられています。
あの『支配の首輪』を破壊してくださった強き王であるヤマト様に名前をいただければ、我らも何かしら強くなる可能性がございます。
さすれば、更にお役に立てるかもしれません。
ただ言い伝えによれば……特別な力を得るのはごく稀で、普通は、ステータスが若干上がるとか、レベルが上がりやすい体質になるとかと、わかりにくい場合が多いようです。
あまり期待されると自信は無いのですが、それでも何かしら、今よりは向上すると思われます」
なるほど……そういうことか。
『オリジン』の特質なのか、他の生物でも同じような性質があるのかわからないが、とにかく力のある者が名前をつけると、何らかの強化がされる可能性があるのか。
「話の趣旨はわかったけど、俺は『命名』スキルを持ってない。
『命名』スキルを持っている者であれば、『ステータス』の『名称』に表示されている名前を、上書きして新しい名前をつけることができると聞いたことがあるが、それを持たない俺がやっても、上書きできるだろうか?」
「もちろん、やってみないとわからないと思いますが、ヤマト様ほどの力のある方なら、スキルがなくても可能ではないでしょうか。
そして、もし可能であれば、私にかけていただいたあの聖なる光の滴を、改めて皆にかけていただけないでしょうか。
身も心も浄化されるあの光の滴を浴びた後に、名前をいただければ、うまくいくような気がします。
あくまで私の直感ですが……」
うーん、まぁやってみる価値はあるか。
「わかった。じゃあやってみよう」
俺は、引き受けてしまった。
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