112.元王族で最高位・最大規模貴族の爆弾発言
モーリス侯爵を始めとした貴族の皆さんが、一斉に頭を下げた五十歳くらいのご婦人は、俺の前までやって来た。
そしていきなり片膝をつき、頭を下げた。
この行動に、周りの貴族たちからどよめきが起きた。
この感じ、もしかして王族の人?
「私は、ミトノ公爵家当主のミツリーンと申します。
国を救っていただき、国民を救っていただき、心よりの感謝を申し上げます」
丁寧に挨拶をしてくれた後に、優しく微笑んでくれた。
このご婦人は、公爵だった。
俺も挨拶を交わしたが、威厳に溢れた公爵の雰囲気に、少し緊張してしまった。
この国においては、公爵家というのは、確か王家の血筋の者たちの集まりだったはず。
つまり王族ということだと思うが。
そんな俺の不確かな知識を補完するように、モーリス侯爵が公爵家について説明してくれた。
当のミトノ公爵を目の前にしての説明に、やり辛そうだったが、ミトノ公爵が気にしないようにという雰囲気の目配せをしていたので、そのまま続けてくれた。
ミトノ公爵家が、王家に繋がる血筋の人たちの集まりという俺の知識は、間違っていなかった。
国王とならなかった兄弟などの王族は、二つの公爵家に籍を移して、その公爵家の当主の下、貴族として生きていくのだそうだ。
その二つの公爵家というのが、ミトノ公爵家とヒトツバ公爵家ということだ。
この二つが公爵家は、代々の王族が集まっているので、一つの家系と言うよりは、寄せ集めの家系と言えるようだ。
王族籍を抜ける者を、公爵家に迎え入れるかどうかは、当主が判断するらしく、二つの公爵家に入れない場合は、下野することになるらしい。
まぁ実際には、そんな事態はほぼ起きないみたいだが。
そんな事情もあり、公爵家の人員規模は、どの貴族家よりもはるかに多いのだそうだ。
貴族としても最高位であり、元王族の集まりであり、人的規模も最大と言う、いわばこの国で一番勢力を持っている貴族家の当主が、ミトノ公爵なのだ。
「ヤマト殿、貴殿は『北端魔境』に『ヤマダイ国』を作られたと聞きました。真ですか?」
ミトノ公爵が、唐突に尋ねてきた。
「ええ、そうです。まぁ国と言っても、まだ村レベルですが」
「それは、どのような国なのですか? どのような国を目指しているのですか?」
「そうですね……はっきり定まっているわけでは無いのですが、私の下に集まってくる人たちを家族として受け入れ、守るというのが一番です。
その人たちの命を守ることももちろんですが、心豊かに暮らせるような、そんな場所にしたいと考えています。
テラス様に尋ねられた時も、そう答えました」
「ほほほほほ、なるほど。テラス様にも尋ねられたのですね。
集まる者たちを、国民を、家族として守ると。
……それこそが本来の、建国時の『カントール王国』の国是でもありました。
さすがは、『光の聖者』様ですね」
「この国も、建国時には国民を大事に考えていたという事なんですね」
俺は思わず、そんな言葉を出してしまった。
捉えようによっては、嫌味に聞こえたかもしれない。
「そうです。今の王家は全くそのことを忘れ、恥ずかしい限りです。
単刀直入にいます。
『カントール王国』は、終わりです。
この国は、腐っております。
元王族である私が言うのは、心苦しいのですが、抜本的に立て直さなければ、人々を守ることはできません。
今回の魔王襲撃を防げたのは、奇跡です。
ヤマト殿がいなければ、滅亡していたかもしれません。
死者がゾンビとなり、全国土に広がっていったことでしょう。
そして様々な情報から判断して、これで終わりとも思えません。
これからも人々を救うためには、ヤマト殿のお力が必要です。
どうぞ、古く病んだこの国を破壊して、ヤマト殿の国としてください」
おっと、爆弾発言。
元王族が、国を壊せと言っている。
“国を破壊して”と言われても……
俺は、言葉に詰まってしまった。
「ヤマト君、発言していいかしら。私も実は、少し考えてたことがあるの」
クラウディアさんが、そんな許可を求めて来たので、もちろん許可する。
そもそも、俺の許可とか必要ないと思うんだが。
「ミトノ公爵閣下がいらっしゃるのに、失礼を承知で申し上げます。
公爵閣下が発言されたように、抜本的には国を破壊し、作り直した方が良いと思われます。
ですが動乱は、これからも続く可能性があり、それを考えれば、国の混乱を最小限に留めるべきと存じます。
維持できる枠組みは、維持すべきです。
特に、地方領主たちの反発反乱を最低限に抑えるためには、国としての枠組みを維持するべきと考えます。
そこで、『カントール王国』を維持した上で、『ヤマダイ国』の属国とする方法を提案させていただきます。
普通は、戦争で勝利した国が、敗戦国を併合してしまう、もしくは属国にして従わせるということになりますが、今回の場合は、『カントール王国』を守ったヤマト君が、庇護を与えるという形で『ヤマダイ国』の傘下に加え、属国にするというかたちにするのです。
国王は廃位させ罪を問い、王族も廃することにし、総督府を置きます。
総督が、国の管理をするというかたちです。
これに伴って、『ヤマダイ国』は、いくつかの国を従える『帝国』というかたちにして、ヤマト君には国王ではなく皇帝になってもらうという変更を加えても良いと考えます」
クラウディアさんが、すごい提案をしている。
元王族の公爵自らが、国を破壊してほしいと言ったわけだが、それにしてもこの提案をするのは、かなり勇気が必要だったのではないだろうか。
だがまぁクラウディアさんの提案は、分かりやすかった。
一応、『カントール王国』は残しつつも、王族を廃し、国の中枢も一新する。
いきなり王国を廃止して『ヤマダイ国』に併合するとか、俺の国にしてしまうと宣言するよりは、確かに摩擦は少なくて済むだろう。
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