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クソゲーの悪役令嬢に転生してデッドエンド寸前なので、ヤンデレ悪魔を召喚しました  作者: 志喜屋弥勒
アスモデウスと9人の王(学園入学前編)
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悪魔が執事になりました


山賊狩りはキノコ狩りみたいだと言ったな、あれは嘘だ。


「キノコ狩りというより、モグラたたきじゃない、コレ」


私は痛む頭を押さえながら、目の前の光景に溜息しか出なかった。

アスモデウスはニコニコの笑顔で山賊の根城に魔法を落として、逃げ惑う彼らを千切っては投げ、千切っては投げていく。

アスモデウスの愉快そうな笑い声のバックコーラスであるかのように、山賊の悲鳴や恐怖ににじんだ声が辺りに響き渡っている。


「惨状すぎる。山賊さん達ごめんなさい。私が軽率に設定考えたばっかりに、こんな目にあって…」


「え~、そうかい?これでも大分手加減しているんだけどなぁ」


呑気な声でそう言いながらも、禍々しい闇色をした魔法の玉で根城を更地にするのをやめはしない。本当に山賊の皆様が不憫で仕方ない。私が設定を考えたばっかりに、無実の罪でボコボコにされて、この後公爵領の警備隊に捕まえられることになるなんて。

子供のように無邪気に笑いながら、山賊たちを蹂躙するアスモデウスを眺めながら、私は切り株の上に腰かけた。もはやこれ怪物が蹂躙する観戦ショーだと割り切れば面白いかもしれない。膨大な魔力を持っているアスモデウスだからこそだろうが、一切疲れた様子なく、笑いながら山賊のキャンプを壊していく。


「オリヴィエ、あともう少しで全部終わっちゃうけど僕の名前考えてくれたかい?」


「あっ、忘れてたわ。そういえばそんなこと言ってたような」


「かっこいい名前を考えておくれよ。出来ればアスモデウスっぽい感じの」


アスモデウスは目が覚めるように美しい微笑みを私に向けながら、襲い掛かってきた山賊の首筋に手刀を落としていた。細長いしなやかな手足が、有象無象の山賊たちを凪払っていく。それはあまりに強大な力を表していて、そしてあまりにも優美だった。


「アシュレイ…、アシュレイ・モンタギューなんてどうかしら」


ぼそりと呟いた名前は何となく思いついただけのものだったが、それでもアスモデウスは耳に届ていたようで、振り返って表情をパァッと明るくさせた。


「アシュレイか、良いね。気に入ったよ」


アスモデウスは山賊のお頭らしき人間の首を片手で持ち上げて締めあげながら、私がつけた名前を繰り返しながら笑っていた。そうして、気絶したお頭に興味が失われたのか、適当に放り投げた。

哀れ、お頭。警備隊につかまるまで、ゆっくりと休んでくれ。アスモデウスは、魔法で今まで着ていた白い美しい衣装とマントを、平民が着ているような質素な服に変え、その場でくるりと回った。

あまりに顔がいいので、質素な服が浮いていてかわいそうだ。逆の意味で服に着られているといえるかもしれない。


みすぼらしい服を身にまとった美しい悪魔は、私の手を取り引き寄せて、軽々と抱き上げた。


「それじゃあ君のお屋敷に戻ろうか、オリヴィエ」



その後、駆け付けた警備隊に、打ちのめした山賊たちを任せ、私たちは元居たノートルダム家のお屋敷に戻ってきた。騒ぎを聞きつけて門の前で私を待っていたお母様に涙ながらに抱きしめられて、そして夜に家から抜け出したことを叱られた。

お母さまは私の無事を喜んだあと、私の隣にいるアスモデウスに気が付き、目を見開いた。そうなのだ、ここからが勝負だ。


「オリヴィエ、こちらの方は?」


「お母さま、こちらアシュレイ・モンタギューさんよ。山賊に攫われた私を追いかけて、助けて下さったのよ」


私がアスモデウスを紹介すれば、アスモデウスは美しい所作で膝を折ってお母さまの前に膝魔づいた。騎士のようなその姿は、先ほどまで笑いながら魔弾をバカスカ撃って山賊を蹂躙していたものとは思えない。


「アシュレイさん、私の娘を助けて頂いてありがとうございました。なんとお礼を言えばいいか」


「いいえ、マダム。私は当然のことをしたまでです。お気になさらず」


「そうはいきませんわ、何かお礼をさせて頂けませんこと?我が家でできることがあれば、なんでも言ってくださいませ」


アスモデウスが声に出さず、私の方をチラリと見た。恐らく、私にここで押せば母親は頷かずにはいられないだろう。


「お母さま、私、アシュレイさんと一緒にいたいわ。だって凄く強いんですもの。私の執事になっていただきたいのよ」


「まぁ、オリヴィエ。そんなことはできないわ、大体アシュレイさんだって突然言われたら困るでしょう」


「いいえ、マダム。これは私の願いでもあるのです。オリヴィエお嬢様の側で、彼女を守ること、それが私の願いなのです」


お母さまは、分かりやすく困惑していたが、これはもう勝ったも同然だ。この後お母さまは、決められないからお父様に決断をゆだねるはずだ。しかしながらこの国の宰相としてお忙しいお父様は私に興味なんてないし、お父様は自分にとって益のある者であれば傍に置こうとするはずだ。


「あらあら、どうしましょう。困ったわ。では旦那様にお聞きしてみましょうか」


ーこの勝負、勝ったー

アスモデウスに目配せを送れば、作戦が上手くいったのが分かったようでニコニコと嬉しそうに微笑んでいた。


私の家、ノートルダム公爵家はこの国でも有数の由緒正しきお家柄だ。元より、王家の血族を引き継ぐ分家のような扱いをされているし、なにより私の母は元王女様だ。

このぼんやりして少し浮世離れした母、ヴィクトリカ・ノートルダムは現ロストベルト皇国の王の妹である。宰相である父とは所謂政略結婚なのだが、それでも厳格な父とは相性が良かったようで仲睦まじい。父も表には出さないが、母を愛していることは伝わってくる。


これから会う私の父、ゴドウィン・ノートルダムはこの国の宰相を務めている。厳格で折り目正しいが、他国との外交では蛇のように嫌らしい知略を立てることで有名である。私の父が宰相になってから、国の中で魔法教育を盛んに行うようになり、魔法により国の守りもより強固になっているようだ。

そのため、国政の場においても魔法の力を取り入れるべきだと考え、魔術協会との繋がりも強くなっている。


私にはあと兄が二人、姉が一人いるのだが、いずれの兄弟とも私とは年が離れている。


一番上のカーシェお兄様は、魔術協会を飛び級で卒業したエリートで、現在は魔法協会の中で働いている。カーシェ兄さんこそ悪魔を召喚し、私が記憶を取り戻した原因になった人間だ。正直、原作ゲームの中でオリヴィエが悪魔を召喚したのは彼のせいではないかと私は思っている。


二番目の兄であるアンドレ兄さんと、姉であるドロシー姉さんは現在魔法学校に通っているため、殆ど家には帰ってこない。


この国では、魔力を持った子供は王、貴族、平民といった身分にかかわらず魔法学校に通うことを義務付けられている。この「恋と魔法と召喚陣」というゲームの舞台も魔法学校であり、13歳から18歳の魔力を持った子供は全寮制の魔法学校に通うことになる。


そのため14歳のアンドレ兄さんと16歳のドロシー姉さんは魔法学校の寮に住んでいるので、この屋敷に返ってくるのは夏と冬の休みだけである。


私の家族はこのような感じだが、父以外の家族は私を可愛がっており大抵の我儘を聞いてくれていた。まあそのせいで、ゲームのオリヴィエはわがまま放題の悪役令嬢になっていたのだが。


しかしながら、父だけは違う。

父は冷静で、自分の利益になる者にしか心を動かすことはない。私の我儘に耳を貸すこともなければ、私を諫めることもない、単純に私に対して興味がないのだ。

だからこそアスモデウスが益であると判断すれば、彼を私の側に置くことを拒むことはしないだろう。


私は父の書斎の前に立ち、深呼吸をしてそのドアをノックする。


「お父様、オリヴィエです。少しお時間いただけますでしょうか」


入れ、と低い声が、ドアの向こうから投げかけられた。父の書斎にこうして入るのは、何時ぶりだろうか。いや、そもそも二人できちんと会話するのだって久々な気がする。緊張からか、バクバクと鳴る心臓の鼓動を押さえて、ドアを開いた。


「何か用か」


父は私の方を見ずに、こちらに背を向けたままそう尋ねた。こうなることは予想の反中だが、それでも少しだけ寂しかった。


「この者、アシュレイ・モンタギューを私の執事に任命しようと思っております。私は彼に山賊の手から救われました、今後一切私をなにがあっても守ってくれるでしょう」


「その許可が欲しい、と?」


「ええ、その通りです。お父様の手を煩わせることは致しませんし、アシュレイを傍に置くことはノートルダム家にとっても利益になるでしょう」


父は考え込むように押し黙ったが、こちらへ振り向きもせず、言葉を放った。


「許可しよう」


「お父様、ありがとうございます」


「旦那様、恐悦至極に存じます。お嬢様の命は必ず守らせていただきます」


私とアスモデウスが感謝の意を示そうが、父の態度は変わらない。すぐに出て行けとでも言いそうな雰囲気に、それを受け入れ無駄口は叩かずに父の書斎から抜け出した。


ドアを締めてから安堵のため息をつく、これでミッションクリアだ。父が認めたということは、この家の全ての者から許可を得たと考えてよい。それほど、家庭内の(家庭外もだが)父の権力は絶大だ。


「これでひと段落だね、アスモデウス」


アスモデウスにそう小さな声で呼びかければ、彼は見たこともないような顔で閉まった父の書斎のドアを見つめていた。あの父の態度に、怒りでも感じたのだろうか。王の位を持つアスモデウスにとってみれば、それは最もなのだが、私の執事という立場になったから抑えてくれないだろうか。


「アスモデウス?」


彼の耳元で名前を呼べば、驚いたようにこちらへ振り返る。私の姿を瞳に写した彼は、先ほどまでの怒ったような表情を一瞬で消して、にこやかな人好きする笑顔を浮かべた。


「何でもないよ、さぁ、僕の部屋へ案内しておくれ」


その時、私は聞いておくべきだったのだ。どうしてアスモデウスがあんな表情をしていたのか、あの時彼が何を感じ取っていたのかを。


ーそれを、私は後に後悔することになるー

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