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第6話「誰も私を責めることはできない」(中編下)




仮面兵5百を含む3千の久能勢が出立した。

広島城攻略戦です。


対する夷軍も四国方面から兵を引き上げ、畿内から増援を送った。

アズルドヴェイン国王軍と3人の十二神将です。


まず各地で行動する軍団は一人の大将と二人の中将を基本とし、その下に中級指揮官たちが従います。

この時の大将という名称は現代の軍隊における階級ではなく軍団長という意味の役職名です。

中将も同じで、大将を補佐する武将に与えられる役職名になります。


ですから軍団が解体されると役職も解かれることになります。

古代日本の征夷大将軍が東征軍が解散し、役目を終えると役職を解かれるのと同じです。

それが後に武家の棟梁としての名誉を表す称号や幕府の主宰者の役職になったのです。


十二神将は、その中で恒久的に将軍として地位を与えられた特別な武官でした。

毛野国軍の12人の主要な武将であり、特別な力を与えられていました。

その魔力は、もともと毛野国王が倒してきたエルフ王の魂を封じたもので、毛野国王の威信の源泉となったのです。


「もし東日流王が倒されていれば、十三番目の王のソウルとして十三神将になってた訳だねえ。」


雪姫が感慨深そうに話します。


「見えました。

 出雲軍です!」


聖覚が大声をあげます。

天磐楠舟の空中艦隊があっさりと安芸に侵入します。

相変わらず空中戦では大和軍に圧倒的な利があるようです。


「また、あんたの出番無さそうじゃない?」


雪姫が言うように久能勢が福山から広島に着く頃には、夷軍の鸞兵は一掃された後でしょう。

前哨戦となる福山城戦は雪姫一人でカタが着きました。


氷漬けになった天守閣に燃え上がる城郭。

瞬く間に久能勢は福山城を攻略し、次の尾道城に備えます。


「夷相手に調略はない。

 ただ力攻めあるのみか…。」


久能は厳しい表情を浮かべます。

夷相手に情けは感じませんが、味方の被害が大きくなることが心配です。


「構いません。

 雪姫様の仮面兵がある限り、広島城は押し通ることがかなうと存じます。」


エミリーがそう言って明るく笑いかけて来ます。

しかし久能としては、仮面兵がどうやって作られているか知っているだけに安請け合いはできません。


「仮面兵か…。

 雪姫様に負担をかけるのは気が進まんが…。」


「既に助手の巫女たちだけで十分に設備は稼働しているではござらんか。

 何を心配なさる?」


浮かない表情の久能に対し、エミリーは呑気なものです。


しかしエミリーが真実を知ったらどうするでしょう?

きっとショックは受けないだろうと久能は考えています。

それどころか久能から石棒を取り上げ、もっと大規模に量産体制を確立するかも知れません。


あるいは自分だけ知らされていないだけでエミリーが独自に進めているのかも。

そうであれば急に量産速度が上がったのも頷けます。


「…。」


「殿、何か気がかりなことでも?」


エミリーが久能に声をかけます。


「…いや、エミリー。

 私に隠し事はしていないだろうな。」


「しています。」


エミリーはキッパリと答えました。

久能は目を丸くします。


「…いや、すまない。

 お前を疑っている訳ではないんだ。」


久能がそう言ってもエミリーは真顔のまま何も答えません。


他のヴァイキングたちと付き合いがあることは、明かすことはできません。

一度、主君に見捨てられたエミリーですか、保険を手放すつもりはありません。


久能は信頼できる好感を持てる人物です。

しかし人間である以上、間違いもすれば、無理なこともあります。

人間を信じるということと善意を信じることはまるで違います。


個々が十分に気を付け、その上に友情や信頼で社会は保たれるべき。

エミリーはそう考えていました。


「いえ、御疑い下さい。

 私自身の為にも。」


やおらエミリーはそう言いました。

また、こう続けます。


「殿が私を見てくれていれば、他の者が私を貶めようとしても偽りと気付きます。

 私に誤りがあった時も殿が指摘してくれれば、私は助かります。

 私は殿にはそれができると信じて着いて来たのでござる。」


「そうか。」


久能はエミリーに圧倒されるばかりです。

何も言い返すことも、言葉をかけることさえできませんでした。


「…もう休め。

 私も今日は下がる。」


「はッ。」




久能は占領した福山城の前、味方の野営地にいます。

この野営地に阿座上正就の娘、結を連れて来ていました。


彼女は久能にとって、いわたりであり、慰めでした。

久能は彼女に惹かれ、自分から彼女の肉体を求めていったのです。


「聖覚、正就の娘は一番若いおえい以外、自害したと発表しろ。」


「え、な!?」


聖覚は久能の言葉に戸惑います。

しかし久能の目に負け、引き下がります。


「では、結姫は久能様の下女ということに…。」


「良きに計らえ。」


久能はスカディや女たちを可愛がろうと心がけました。

しかし、何か違うと思っていたことが一本の線に繋がります。

やはり人は、好きになろうとして人を好きになるものではないのです。


むしろスカディに対しては男として、主君としての見栄がありました。

それが窮屈に感じられて仕方なかったのです。


ですが、結は久能の全てを受けいれました。

というより、結は久能の心を、久能が望んでいるように理解してやったふりをしただけです。

要するに女として一枚上手だった訳です。


ですが、久能は結にのめり込みました。

初めて楽しんでセックスできる相手が見つかったのです。


久能自身、こうなるまで男女の機微を理解していなかったのだと痛感します。

結の全てが愛おしく、どれだけ彼女を欲しがっているのか。

久能自身、溢れる気持ちにコントロールができないのです。


「結、私の物だ。

 お前を義弟たちに譲りはせん。

 私だけの物になれ。」


「ふふふ…。」


まさか相手がこんな奴とは結も思っていませんでした。

子供の時分から女はいかに男を言い成りにさせるかだ、と教えられてきました。

そう覚悟して生きて来たのですが、その相手がここまで変わり種とは予想していません。


ですが、単純で馬鹿なので助かりました。

結は愛嬌たっぷりに微笑み、時折、久能を驚かせ、彼女の聞きたい返事を返してやればいいのです。




「…話すしかないだろう。」


雪姫は聖覚を厳しい目で睨みます。


「いっそ、殺すか?」


雪姫が動転したのは、聖覚から結の話を聞いたためです。

なぜ久能が女たちに種をまかないのか雪姫が訊ねると聖覚がくだんの話をします。

それを聞いて雪姫は顔色を変えました。


「久能ちゃんの石棒は術式の要の一つだぞ!

 普通にセックスして遊ぶ道具じゃない!

 そのまま受精卵が成長したら何が起こるか分からん!


 馬鹿か、貴様!!」


聖覚は青くなって小さくなります。

雪姫は思案します。


「実験の一つとして見てみたいが、噂になっても困る。

 エミリーに処理させる。」


雪姫は聖覚をそのままにして、この場を去ろうとします。

しかし聖覚が抗弁しました。


「わ、我が君。

 僕は久能様の心が満足するなら、女の一人、抱かせてやってもいいのではと…。」


「…なに?」


雪姫が仮面を上げて聖覚を睨みます。

聖覚は主張を続けます。


「久能様が抱きたくて、その…。

 あ、愛している女は代わりが効きません。

 そんな簡単に殺すのは、僕は反対です!」


一度、雪姫は仮面を下ろし、腕を組んで考えます。

確かに久能がこれまで女を可愛がったことはありません。

本当の意味で情で結ばれた女を殺されれば、深く傷つくでしょう。


「男女の綾か…。」


殺すにしろ、一度、結という女に話す必要があるようです。

雪姫は翌朝を待って、結に全てを話すことに決めました。




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