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第6話「誰も私を責めることはできない」(中編中)




「どうして私に声をかけてくれなかった?」


久能がすがりつくようにエミリーに訊ねました。

エミリーは何が彼女をそうさせるのか、全く分からないという顔で答えます。


「言っても仕方ないと思ったからにござる。

 それに殿は閨に居られると聞いていたので…。」


嫌味ではなく、エミリーは真実、そう思ったのでしょう。

久能は、再び問います。


「私の判断は必要ないということか?」


「…あの場で私が判断しなければ、それこそ私の役目がなくなります。」


エミリーはきっぱり答えます。


「私は殿の執事、武者大将(騎士長)

 いちいち頭領である殿の判断を仰いでいては、クソの役にも立たぬ愚物でござる。」


彼女の理屈に問題はない。

これは、久能が繊細に考えすぎているだけなのです。


将の将と兵の将では役割が違います。

久能は自分が全ての責任を負うとするから無理が出るのです。


別に皆、久能を非難していませんし、問題はないと感じています。

しかし久能にとって、自分が情交に耽っている最中に事が起こったのが自責に繋がったのでしょう。


「すまない。

 エミリー、貴様の言う通り、私の考え過ぎだ。」


「お疲れなのでござるよ。

 しばらく静養することをお勧めいたす。」


エミリーにそう告げられ、久能は頭を抑えながら答えます。


「ああ。」




狗奴王が奮発し過ぎました。

津山城勢は大将の阿座上正就以下、主だった者たちが戦死し、大勢の死者を出しました。

夷と謀り、自分の立場を強化しようという正就の狙いは外れたのです。


「正就は吉備王を追い詰め、自分の立場を良くしようと企んだか。

 しかし自分が死んでしまってはな。」


スカディは正就の首を眺めながらつぶやきます。

もし正就が生きていたらスカディに飛び付きたくなる様な光景でしょう。

若い綺麗な娘が大股開きで腰を下ろし、胸元をはだけ、乳首まで見えています。


朝倉坊も紅潮しています。

最近、情婦のヌビオと情交に励んでいて、精力を持て余しています。


「殿は阿座上の子供たちをどう処すでしょう?」


「…チンポおっ立ててんじゃねえぞ。」


スカディがそういって朝倉をからかいます。

朝倉がスカディから後ずさりしました。


「今度、私と遊んでみるか?

 乱取りしてきた夷に入れ込みやがって。

 いつか噛みつかれても知らねえぞ?」


逃げる朝倉をスカディが捕まえてなぶります。

そこへ黒猫がぞろぞろ現れ、運んで来た生首を台の上に置くと一つに集まってルスランに変身します。


「それまで…。」


ルスランがスカディと朝倉に冷たく言い放ちます。


「んんんー。

 ルスラン、お前も混ざるか?」


「…ここは死者の前。」


「首だけじゃ生き返っても面子にならねえ。」


そういって、ふざけていたスカディは朝倉少年を解放します。

上にまくられた袴の裾から朝倉坊のモノが飛び出していましたが、大急ぎで袴を直します。


「坊主、スカディ殿の言う通り、捕まえた女を手籠めにするのも大概にせえ。」


珍しくルスランが長文を話しました。

二人とも少し驚きます。


さて、朝倉の言葉にもありましたが阿座上一族は滅亡していません。

出陣していなかった娘たちと正室が残っているのです。


吉備の王子たちが彼女たちを捕らえ、岡山城に連れ帰ります。

久能は義弟たちに姫たちを与えることにします。

これも乱世です。


「よぉし、この女はおまえたちにくれてやる!

 好きにしろッ!!」


雪姫がそういって正就の娘の一人を吉備の王子の方に突き飛ばします。

吉備の王子の一人が、その娘を手籠めにします。


「流石、雪姫様は話が分かるであります!」

「や、やめて…。」


雪姫はこうも言いました。


「正室と側室たちはKBB(クソババア)だから兵たちにくれてやれ!」


まさに巷の地獄です。

そこに久能が姿を現します。


「おっと、アイーダかな?」


見ない方が良いと聖覚たちも止めましたが、久能は顔を出すことにしました。

義弟たちは驚いて正就の娘たちから離れ、頭を深々と下げます。


「女たちに身支度する時間をやろう。」


久能は一言、威厳をもって発します。

吉備の王子たちは顔を見合わせ、一番、器量の悪そうな王子が叫びます。


「義姉上!

 敵を討ち破り、家財たからを奪い、その妻娘さいしを犯す…。

 これこそ勝者の愉悦!!」


恵支日彦エシヒヒコよ。

 まだ昼ではないか。

 女たちに身体を洗い、髪をくだけの間をやろう。」


久能はそれだけ告げると、その場を引き上げます。

すぐに女たちは自害しました。




7人の娘たちが自害したと聞き、久能はしばらく目を伏せ、口元を震わせました。

しかし、すぐに数が合わないことに気が着きます。


「正就の一族の女は、あと2人生きているのか?」


「はい。」


聖覚が答えます。

その隣で伺候する朝倉が口を開きました。


「一番歳の幼い娘ともう一人。」


「そうか。」


久能は腕を組み考えます。

幼い娘は、まだ死ぬには早すぎるでしょう。

その子は、そのまま吉備の王子の誰かに投げて与えるとして…。


気がかりな、もう一人の女を呼ぶように聖覚に命じます。

やがて、美しい娘が姿を見せました。


阿座上あざかみゆいと申します。」


「…。」


久能はしばらく、彼女の様子を眺めます。

自分があの場で言った言葉の意味が理解できぬほど、愚かには見えません。

それとも美貌で吉備の王子を操れるという自信があるのでしょうか?


「兵庫頭様は、男ではないですか?」


結が明け透けにそう言いました。

久能は面喰ってしまいます。


「気狂いか。」


動揺を隠そうと久能はきっぱりと切り捨てます。

久能がそういう態度に出ると結は次のように答えます。


が思うに、女たちを本当に不憫を思うなら首を刎ねます。

 兵庫頭様がそれをお命じにならず、自裁の機会を与えたのは、男の優しさかと。」


「男の優しさ?」


「自分の優柔不断を、優しいと感じている愚かな性分です。」


結の言葉に久能は表情を硬くします。

確かにあの時、本当に女たちを救ってやるつもりなら、自分で殺めるべきでした。

久能はそれを決断する機会を相手に与えて、心の優しさと自惚れていたのです。


むしろ自害を迫られ、女たちは苦しんだでしょう。

手を汚すことを恐れ、あたかも自分が善人のように思い込もうとしたのです。


「敵の女を抱いて寝るなどと女なら怖くて考えませぬ。

 そのような豪胆さは、魔羅マラで女が改心すると信じる愚かな男だけ。

 馬鹿馬鹿しいっ。」


結はそう言うと皮肉たっぷりに笑います。

聖覚と朝倉坊が不安そうに汗を浮かべてお互いの顔を見合わせます。


「はっはっは。

 魔羅様、御前ごぜん、何するものぞ、欠伸あくびが出るわっ!

 はっはっは…。」


久能が結の高笑いをさえぎって質問しました。


「…貴様、何が望みだ?」


「はっはっは…。

 予の口封じる前に、御前ごぜんの大魔羅、見せてみいっ。

 魔羅が女を改心させられるか、その自慢の大魔羅でやってみいっ!」


「しっ。」


久能は大股で結の傍に駆け寄ります。

可愛さ余って憎さ百倍とは、この事です。

この女の泣き面、拝まずにはいられません。


「聖覚ッ!」


「はッ。」


「人払いせえッッ!!」


聖覚と朝倉坊は、その場を退去し、姿を消しました。

結と久能だけが残ります。


「な、なんでや?」


早足で離れながら朝倉坊は考え込みました。

殿は正真の女です。

男と言われ、どうして腹が立ったのでしょう。


「…なんでや。」




久能は結を前に呆然としました。

思い付くことは、殴るか、蹴るか、することしかありません。


しかし結は、男が女に情交で本当に惚れさせることができるか?

そう挑発しているのです。

暴力で屈服させても久能の負けです。


久能は進退窮まり、結の目に負けて観念しました。


「貴様は死んだも同然…。

 死人にならば、私の秘密を明かそう。」


久能はそう言うと大紋を脱ぎ、下着だけになります。


何故かブラジャーとボクサーブリーフを穿いています。

雪姫曰く、天磐楠舟と同じで、それが異常だと気付けない場違いな物(オーパーツ)だそうです。


さらに久能は震える手で下着を取り去り、真実を結に見せます。

結は驚きもせず、笑いもしません。

ただ、じっと見ているだけです。


しかし久能の方がやはり先に参ってしまいました。

膝を着き、床の上にへたり込みます。




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