第6話「誰も私を責めることはできない」(中編上)
「お疲れ様でございます。」
久能の前で四つん這いになり、尻を突き出していた女が起き上がって衣服を直して、そう言います。
久能も小さく礼をして、女に声をかけます。
「大義であった。」
今いた女が下がると別の下女が久能に告げます。
「御殿様、いまの者で25人が済みました。」
「…構わぬ、続けよ。」
「かしこまりました。」
下女は、そう答えて退室します。
久能としては、なんというか狐に化かされているようです。
女たちは、久能の前に出ると秘所を向けて事が終わるのを待ちます。
そこまでは今までと変わらないのですが、これまでは久能が気をやるまで続けていました。
今ではそれが十も数えぬうちに女たちは下がって行きます。
久能としては喜ばしいことばかりです。
女たちの辛い姿を見なくて済みますし、自分が色情に狂ったと自責しなくても良くなります。
何より体力の負担や効率が大幅に変わりました。
ただ…。
「続けよ。」
虚しい。
一人だけ部屋の真ん中で代わる代わるやってくる女に腰を押し当てているだけですから。
毎日、書類に悩殺される狗奴王の苦労がしのばれます。
「おい。」
「はい。」
久能が呼ぶと下女がやってきます。
久能は、さっと自分の身体を隠して言います。
「…少し、疲れた。」
「分かりました。」
久能は身体を引きずって壁際によるとため息を吐きます。
そこへ下女たちが水を差しだします。
「ありがとう。」
久能はそういって水を飲むと虚ろな目で正面の壁を睨みます。
ずっと、そうしているとスカディが現れます。
「殿、やはりこのやり方は良くないぜ。」
「…そうか?」
明らかに憔悴した久能にスカディは身体を寄せます。
そして大きく腕を広げ、久能を抱きしめます。
「やっぱり、こうだろ!?」
スカディがそういって、力任せに久能を押し倒してしまいます。
それを見ていた下女がゆっくりと立ち上がって、女たちに引き上げる様に告げました。
「皆、殿の御心の疲れをお慰めせねばならぬ。
もう行って良し。」
「エミリー様。」
エミリーが部下たちと酒飲みしていると夜の月が話しかけてきます。
彼女は月に言いました。
「そんな遠くから話さんでもいい。
降りて来なさい。」
「承知。」
次の瞬間、風魔忍の三夜が姿を現しました。
海兵たちが「おおお!」と声を上げます。
「広島城の夷が動いております。
おそらく津山城の阿座上何某と共同しておる様子。」
「阿座上?」
エミリーが訊ねると三夜はニタニタしながら答えます。
「吉備王が対夷戦争に参戦する方針に転じ、立場を危うくした中立派の豪族です。
久能様は近々、攻撃する予定のようですが、敵が先に動きました。」
「なんだと!?」
エミリーは飛び起きると部下を連れて走り出します。
「誰かある!」
「出陣じゃー!」
「槍を持てー!具足を持てー!」
すぐに狗奴王と伊邪奴、吉備王子たちが集まります。
エミリーが皆に告げます。
「敵に夜襲の気配あり!
打って出て敵を探るのだ!!」
「なんやて!?」
伊邪奴が前に進み出ます。
「義姉上には!?」
「夷は夜目が効く。
昼間ならともかく殿には城内に留め置かれ、大事を取って貰う。
者ども、動けるものは総動員せよ。」
エミリーがそう告げると今、着いた吉良が声を上げました。
「城を空にするのか!?」
「雪姫様、お一人で城の守りは十二分だろう。
最悪、この城を焼き捨て殿お一人、逃げおおせればそれでよい!」
「おおお!」
城から兵士たちが松明をもって四方から飛び出します。
いつの間に出立したのか、漆黒の騎士ルスランが丘の上から敵の来る方向を剣で示します。
「あの騎馬武者は、ルスラン殿か?」
「いつの間に…。」
「あの人は、ホントに謎じゃあ。」
風魔忍軍も津山城勢と夷軍に撹乱を仕掛けます。
「ふん、夷どもを欺くなど赤子の手をひねるが如しよ!」
「我ら風魔の術に震えるが良い!」
林に火の手が上がり、煙が夷たちを包みます。
いくら夜目が効いてもこれでは堪りません。
しかも煙の中を風魔忍たちが一陣の風となって駆け抜け、手当たり次第に斬り付けて行きます。
「ほお!
馬頂戴!!」
同じ戦法で阿座上勢も翻弄します。
軍馬が一斉に乱れ、馬に蹴られ、兵と兵がぶつかり合って負傷者が出ます。
壊乱する夷軍にヴァイキングたちを先頭とした岡山城勢が襲い掛かります。
ウルフバートがきらめき、夷たちの鮮血がまき散らされます。
『て、敵しゅ!?』
『なんだ、どうした!!』
『煙で何も見えぬ…!』
「真っ直ぐ!
真っ直ぐに進め!!
少しでも列を乱せば同士討ちだぞ!!」
海兵たちが何度も怒鳴ります。
吉備の王子たちはおっかなびっくりついて行きます。
「伊邪奴姉上ー!」
「け、煙いであります!」
「ゲホゲホ、暗いし、煙たいし、南蛮人は怖いし…。」
これでも風上ですから夷軍より煙はマシです。
しかし訓練された忍者と吉備の兵士たちでは勝手が違うようです。
混成部隊の弱みでしょう。
「ドラゴンブラスター!!」
吉良馬洋こと、リュウレッドの光線銃が闇を切り裂きます。
津山城勢に襲い掛かった狗奴王勢は、特に問題なく快勝します。
「な、なんでやー!」
久々の出陣で狗奴王も熱くなっています。
遅れまいと吉良、尾崎たちが続きます。
「ドラゴンビームライフル!」
裸同然のどこからそんな武器が出て来るのか。
尾崎も大きな小銃を取り出し、津山城勢を混乱させます。
「こ、光線系の術か!?」
「ひ、怯むな、打ち返せー!!」
しかし意外や意外、光線銃を前にしても津山城勢は乱れません。
流石に二人だけでは威力不足ですし、敵にも似たような能力者がいるのでは、そんなものでしょう。
「ブルー、敵の魔法に気を着けるんだ!」
「ええ、分かってるわ、レッド!」
吉良と尾崎は互いを気遣います。
それは良いのですが、いちいち手を胸に当てたり、握り拳を振り上げたり、その芝居がかった台詞と言い、なんとかならないのでしょうか?
さて、一方。
久能とスカディのもとにも敵の動きが伝えられます。
「久野ちゃーん?
今、いい?」
雪姫が声をかけると二人の声が止み、しばらくして久能が「ああ。」と返事します。
部屋に入るなり雪姫が言いました。
「イった?」
「…な、なんでしょう雪姫様?」
久能が服を着ながら、顔を赤くして訊ねます。
スカディは気にせず、裸のまま雪姫を見ています。
「うぃひひひ。
なんかー、敵襲だってエミリーちゃん出てったよ?」
「な!?」
久能が驚いて雪姫に向き直ります。
今は、どうやら立てない様子です。
「敵襲などと聞いていませんが!?」
「まあ、一応言っといたからね。
ほら、夷は夜目が効くから久能ちゃんに万が一のことがあったらヤバいじゃん?」
「そ、そんな…。」
雪姫に久能は抗弁しようとしましたが、自分は動かない方が賢明なようです。
敵にわざわざ逆転のチャンスを与えるようなものですから。
「だ、だが…。
こんなことをしている場合ではないっ。」
「兵は皆、出てったから何も出来ないよ?」
雪姫がそう告げます。
敵の正体、数が分からない場合、持てる全戦力を投入する。
基本的な戦術の一つです。
しかし久能にとっては、エミリーが先手を打ったように思えます。
貴方は何も出来なくても仕方ないのよ、と。
「…あ…。
く…、くぅ…。」
その場を出て、久能はすぐに具足を纏うと岡山城の本丸で床几に座って待機しました。
結局、朝まで何もなく、エミリーたちが戻ってくるまで待機のままでした。




