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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
序章 始まりの日常
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1-7 ギルド



「なぁ、さっきの女。やたら野性的だったな。異世界でもあんな女居るのか」


 朱い少女に苦労しつつ桜の屋敷の場所を教えたあと、ギルドへ歩く黒無クロナ生樹(おき)が言った。


「……ああ、まあな……。……綺麗ではあった……」


「んん? そうかぁ? やたらトゲトゲしてて、目つき悪い以外は普通の女だったけどなぁ。あ! まさか、お前惚れたのか?」


「いや゛っ! ……コホン、そんなわけ無いだろ」


 驚いて舌を噛んでしまった黒無は若干の涙目で答える。

「くくく、隠さなくていいんだぞ親友よ。俺には分かる。親友だからな」


「いや、今日あったばかりだろ」


 出会って一時間も立っていない人間に親友面されても反応に困る。


「運命の出会いに時間など関係ないのだよ。会ってすぐにお前は好きになったのだろう? 恋とはある日突然出会うものなのだよ」


「……それは、あの子のことだろうな。もしお前だってのならオレはここで帰る」


「引っかかったな! 親友よ愚かなり!

 ふっふっふ。さて、おにーさんに話してごらん。あの子のどこに惚れたのかなぁ?」


「……いや。あれは例えが気持ち悪かったから確認しただけだ。他意はない。あ、あんな攻撃的な女はこちらから願い下げだ」


「いやいや、甘いな。ああいう子はデレるときっと甘々だぞ。献身的に尽くしてくれるに決まってる。ハーレムにも寛容だぞ、きっと!」


「……一歩離れて歩いてくれないか?」


「やめろよ! そういうの地味に傷つくんだからな! いいじゃんよー……夢見たってさ……。異世界なんだぜ? 美少女とイチャイチャしたいんだよぉおお……」


「…………」


 黒無は頭をかきむしって天を仰ぐ生樹から一歩静かに離れた。そういうことを口に出すからモテないのではないだろうか。転生前の生樹のことは知らないが、なんとなくモテてなかったのだろうなと勝手に思う。悪く言えば個性のない生樹だが、特段顔が悪いわけでもない。彼女の一人二人居てもおかしくはなさそうだった。


「はっはっはっ……いいさぁ! この世界でモテモテになって、美少女を侍らせてやるんだ。ハーレム王に俺はなる! あ、大丈夫だぞ黒無。あの女の子はお前に譲ってあげるからな」


「……譲るも何もお前がモテることなんざねえよ」


 小さく呟いて黒無は、拳を振り上げる生樹からもう一歩だけ離れた。お天道様の往来でこんなことを叫ぶ人間と知り合いとは思われたくなかったから。もっとも、それなりに珍しい黒髪が二人並んで歩いている時点で手遅れではあったが。

 話が元に戻らないうちに見えていた目的の建物に早足でたどり着く。そこは酒場だった。


「着いたぞ。ここだ」


「え? ここ酒場じゃん」


「この街のギルドは酒場もやっていることが多いんだよ」


 世知辛い世の中で、小さいギルドは依頼だけではやっていけないのだ。大きくなり、依頼が増えれば話は別だが。とはいえ、酒場は人の集まり安い場所でもあるのでどこのギルドでもたいていやっている。

 西部劇の酒場にあるような木製のスイングドアを押して入る。

 中は木の丸机が並ぶ酒場になっていた。真っ昼間だと言うのに酒を飲んでいる者が数人飲んだくれている。客が少ないことをいいことに客と談笑していた酒場の茶髪ポニテ娘、エルシャが黒無たちに気がついて、近寄ってきた。


「いらっしゃいませ~って、クロナじゃん。まったこんな時間に顔出して……。サクラさん悲しむよ~」


「うるさい。それより、喜べ。ギルドへの加入希望者を連れてきたぞ」


「ま・じ・で!? クロナ、ナイス! やったよ~」


 喜びのあまり踊りだすエルシャ。それに合わせて酔っ払いどもが騒ぎ出した。あっという間に騒がしくなった酒場の様子に怖じけたのか生樹が耳打ちしてくる。


「な、なぁ。なんであんなにあの人喜んでいるんだ?」


「さぁ、知らんな、希望の星。後で聞いたらどうだ」


「よーし! この部屋にきてー。お姉さんにいろいろ教えてちょー」


 落ち着いたらしいエルシャがばんばんと奥の部屋の扉を叩く。黒無と生樹は部屋に入っていくエルシャの後に続いた。奥の部屋は真ん中に大きな机があり、壁の書類棚からエルシャが、紙とインク、羽ペンを出していた。


「おし。じゃあ、面接始めるよー。そっち適当に座って。あ、クロナは邪魔にならないとこに適当にいて」


「え? あ、はい。よろしくおねがいします」


 聞いてねえぞという生樹の恨みがましい視線が壁によっかかった黒無に向く。黒無に向けられても困る。黒無とて知っていたわけではないのだから。


「んじゃ、まずは名前から聞こうかな。それと年とか特技とか自己紹介して。いくよー、よーい、初め」


「え、あ、はい、えっと、生樹定路です。あ、いや、サダノリ=オキです。年は今年16。特技はえーっと、えっと……サイクリングです」


「んん? “さいくりんぐ”? それってどんなのことなのかな?」


「え、あ、はい。えっと、自転車で色んなとこに行くことです。風景とか、見に……」


「おい、生樹。元の世界の自己紹介じゃないからな」


 緊張し、しどろもどろな生樹に思わず、口出しをする。


「この世界で役立ちそうなことを考えろ。思いつかなければ、こういうとこで役に立つつもりだって言えばいい。それも無理なら、やる気だけはありますとでも言っておけ」


「クロナ~! 口出し無用だよ。サダノリ君がどう答えるか見てるんだから」


「どうせ、お前がすぐに喜びそうなことは言えないだろ。それにお前が知りたいのはそういうことじゃないだろ」


 エルシャが知りたいのは人柄とか人格とかそのあたりのはずだった。いくら人材を求めているとしても問題児は迎えたくないのだから。小さなギルドであれば、それはなおさらだった。信用は大切だ。ギルドに依頼を持ってくる人は、ギルドを信頼して来てくれるのだから。

 ただ、まぁよほどのことがなければ、落ちるようなことはない。黒無の紹介ということで、人柄は保証されているし(あって、一日もたってないが、話せばだいたい悪いかどうか、くらいは分かるものだ)、さらには稀人という立場、そしてギルド側の人手不足(黒無の予想)もある。よほどギルドのメンバーとして認めたくないということでもなければ、落ちるようなことはなかった。落としたら、紹介者の顔の泥を塗ることになるからだ(今回はすでに悪評高い黒無のなのであまり関係ないが)。そしてこの面接自体、エルシャのおふざけ要素が強い。


 普通に聞けばいいのにと思わないでもない黒無だった。


「はいはい。じゃあ、特技はそれくらいでいいよ。じゃあ、こっちから質問してくね」


 最終的にエルシャが生樹に聞いたことは以下のことだけだった。

 名前。

 年。

 出身地。

 ギルド経験。

 読み書きできるか。 

 演算はどの程度できるか。 

 武器の心得はあるか。また、戦闘経験はあるか。

 後は、喋りながら駄弁っていただけだ。酒場の娘らしくお喋り娘だった。客はいいのか、看板娘。



「よーっし。じゃあ、結果発表するね。デデデデデデ、でん! 合格~! 

 ギルド“探求者たちの集い”へようこそ! これからよろしくね~」


「あ、はい! よろしくお願いします!」


 両手を広げて、歓迎するエルシャに生樹が頭を下げる。


「元気でよろしい。じゃあ、あとは後見人だね。クロナでいいのかな?」


「桜に決まってるだろ」


 鼻を鳴らして黒無が言うと、エルシャはゆっくり微笑んだ。


「だよね。知ってる」


 ニートは後見人にはなれないのだ。



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