1-5 転生者との遭遇
「なぁ、あんた、転生者だろ?」
転生者。それは二度目の人生を送る存在の総称だ。転生という概念がこの世界にはある。何らかの要因で一度死に、何らかの要因で生き返る。そうした前世の記憶を持って生き返った者たちを転生者と呼ぶのだ。生き返る要因は神とかいう謎の超生命体だったり、悪魔だったり、たまたまだったりするが、結局は似たようなものだ。たいてい、元いた世界とは別の世界に生まれる。似たような存在に、転移して来た者なんかもまとめられることもある。ちなみに黒無は転生組だった。
「……そうだが。それがどうした? お前もそうだろ?」
転生者はとても目立つ。それは服装だったり、髪色だったり、言動だったりが原因でもあるが、もっと目立つのはその挙動だ。
要はお上りさんなのだ。やたら物珍しそうにきょろきょろするし、話し方も何か隠しているような含んだ話し方をする。隠す気がないのに隠そうとする姿はとてもわかり易いものだ。
とはいえ、今回はもっと単純な話だった。その少年はやや暗い紺の制服を来ていたからだ。この世界では見られない服装。それがその少年の出自を表していた。
「やっぱりそうなのか! よかった! どうすればいいのか分からなくて困ってたんだ」
黒無が肯定すると、少年は飛びつくように近寄ってきた。その姿は右も左も分からない異国の地で同郷の者を見つけた時を連想させる。
「いや~、なんか仲間がいると落ち着くな。小説なんかとは違うぜ、まったく。あ、俺生樹定路っていうんだ、オキでもサダでも好きに呼んでくれ、よろしくな。あんたは?」
地面に石でがりがりと“生樹定路”と書きながら生樹が尋ねる。
「……黒無だ」
「クロナか。女みたいな名前だな。どんな漢字なんだ?」
「……こうだ」
地面に“黒無”と描いて見せる。
「へえ~、かっこいい読みだな。というか、“無”って名前に入ってるの初めて見たわ」
「……たまたまだろ」
「なんか居そうなんだけどな、厨二っぽいし」
このまま無視して立ち去ってやろうか、この野郎。初対面相手に失礼な生樹に、黒無は内心頬を引きつらせる。だが、高校生のようなガキだということに免じて、我慢した。
「なんでオレが転生者だと?」
「え? いや、簡単だろ。この門通る奴ら見てたけど、黒髪の奴いないし、服装もなんか浮いているし」
「……浮いてるのか?」
黒無は自分の服を見下ろす。長袖の白シャツに黒いズボン。どこも変には見えない。とはいえ、街道を行き来する人間の服はもっと異文化を感じさせるものではある。中世ヨーロッパ的なものや、民族衣装的なもっと手作り感が高いものも多く見られる。周りと違っているのは確かだった。
「あ? いやまぁ大丈夫じゃね? そ、そんなことより、あと目つき悪いし? ニキビ面だし? ちびだし? なんか日本人ぽいじゃん?」
「後半は余計だ」
焦ったように生樹は目をそらせる。視線が踊り、あたふたする生樹に黒無はため息を吐いた。ため息だけでやめておいた。
特徴をあげているだけなのに、悪口に聞こえるのは被害妄想なのだから。
それでもムカつくものはムカつく。目つきとニキビは仕方ないがちびだけは余計だった。黒無がちびなのではない。周りがでかいだけなのだ。日本人が欧米人種に混じったら小さく見えるのはしょうがないのだ。
「ま、ま、ま。えーと、なあ俺ってこれからどうしたら良いと思う?」
「働いて、金でも稼げばいいと思うが?」
まるっきりブーメランだが、黒無は気にせずに言い切った。
「や。いやさ。ほら、街に入るとき、身分証明書がないと金がかかったりするじゃん? ほら、なんか手続きしている人もいるし」
生樹の指差す先、大門横の詰め所には短い人の列ができていた。
「あれがどうした? 商人の持ち込むものの検問をしているだけだぞ?」
「へっ? そうなのか!? 入る手続きとかないのか!?」
「いや、逆にあんな開放的な門でどうやって、人を止めるんだ? 入り放題だろ」
驚く生樹に黒無は呆れる。確かに門の脇には詰め所があり、門の両隣にも門番は立っている。だが、門番は二人しかいないのだ。通る人数は十や二十を超えている。手続きなどをするにはどう考えても人手不足だ。
そもそも人が十人ならんで入っても十分なスペースがある門は検問には向かない。もんで検問を受けた証明者が必要な商人くらいしか並ぶことはなかった。門が大きいのは、行商の荷馬車が並んでも通行の妨げにならないためだった。
「え? ほら、悪人が入らないようにとか、犯罪歴のチェックとかしないのか?」
「そんな便利な道具はない。それにこんな人の行き来の激しい街で、いちいち出入りする人間の管理なんてやっていたら、コスト的に死ぬぞ」
「……そういうもんなのか」
生樹は頭を抱えてしまった。そのまま、ぶつぶつと何かを呟いている。
「……異世……小説……全然違う…………悩む……無駄……か」
「……じゃあ、オレは用事があるんでな」
ちょうどいいので、こっそり去ろうとする黒無。生樹が何に悩んでいたのか知る由もないが解決したようなのでこれ以上用もないと判断したのだ。
「ちょちょっと、待ってくれっ、俺今日来たばかりなんだよ! 案内とかしてくんねえのっ!?」
「……必要ないな。この街は旅人に親切だ。わかりやすいから心配するな」
「そういうなよっ。友だちだろ!」
「……友だちになった覚えはないな」
すがる生樹の手を静かに払う。だが、生樹は諦めなかった。
「いやいや、もう友だちだろうが。じゃあ、今から友だち、これから友だち、もう友だち」
手を払われたことなど気にもせず、再び黒無の手を握る生樹。異邦の地で一人残される不安からだろうか、ものすごく必死だった。
「いいだろ、友だち! なろうぜ友だち! あっ! お前友だちいないんだろ! 安心しろよ、お前が根暗ぼっちでも俺は気にしないぜ!」
「……もういい、好きにしろ」
「おう! よろしくな黒無!」
押し切られる形で友だちになる黒無。諦めただけとも言う。
「よっしゃ! 案内人確保! 案内よろ!」
「本音が見えてるぞ、……絶交だな」
「めんごめんご! そう言うなって。ところで、もしかしたら、その、宿で入用ができるかも」
「……言っておくが金は貸さないぞ」
「うえっ、俺金ないんだけど……今晩どうしよ」
「何とかなるだろ」
「なんねーよっ!」
ちらちら、黒無に視線を向ける生樹の期待をすっぱりと断って黒無と生樹は街に門をくぐった。もちろん、門番に捕まることはなかった。




