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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
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エピローグ


「ん……」


 パタンと扉が閉まる音に黒無は目を覚ました。

 黒無が目を開けると、目の前で桜が、逆さ指立て伏せをしていた。しかも、空中で。


「おはよう。黒くん。気分はどう?」


「……最悪だよ」


 重量に逆らっているエプロンを見ると、この世の理不尽が思い知らされるようだった。


「……邪龍は?」


「黒くん記憶残っているの!?」


「そりゃ、残って……そんなにぐちゃぐちゃだったのか?」


 黒無の言葉に桜が大きく頷く。逆さまのまま。


「それはもう。人体の原型留めていなかったからね」


「……よく生きてるなオレ」


「ホントだよ。ほんとに記憶大丈夫なんだよね? ミーネちゃんとか生樹君とか覚えてる?」


「ん、まぁ。というか、あいつら大丈夫なのか?」


「ミーネちゃんは五体満足だよ。生樹君のほうは、ちょっと、私と邪竜の戦闘に巻き込まれちゃって怪我しちゃったけど、だいたい治ってるかな」


「……そうか」


 生きているのなら、何でも良かった。桜が治療したことが予想できるから。何の心配も要らない。


「黒無! 起きたのね!」


 ミーネが部屋に飛び込んで来た。その過剰な反応に驚きつつ、その鋭い目つきを見つめかえす。


「……まぁ、また死に損なったな」


「……あんたって、ほんとっ、悲観的よね……!」


「そうだよね~。黒くんは、もう、困ったちゃんだから」


「大丈夫です、師匠。私がこれから矯正しますので。黒無。覚悟しておきなさいよ」


「あ、ああ……」


 明るい笑顔で、ミーネが笑った。何かが欠けたような感じがして、黒無は生返事を返した。


「……? どうしたの? 黒無」


「……いや、何でもない。……ところで、アリスは?」


 それとなく、自室を見渡す黒無。いつもだらけていた白金ゆるふわヘアーはどこにも見当たらなかった。


「アリスちゃん? 黒くんが起きる前に、部屋を出ていっちゃったわよ? ミーネちゃん知らない?」


「あ、はい。部屋に来る前にすれ違いました。なんだか嬉しそうに、食堂の方に行きましたよ」


「……そうか」


「あら、黒くんどこ行くの?」


「ちょっと、話してくる」


 ベッドから降りて、ガウンを羽織る。食堂に足を向ける黒無を、桜が呼び止めた。


「あ、黒くん。はい、これ。黒くんが寝ている間に鎌鎖さんが来て、その時渡すように頼まれていたものね」


「……今、渡すか? 普通……」


 桜が差し出したものを見る。それは鎌鎖に、作成を依頼していたものだった。


「も~、何言ってんの黒くん。今使わなくていつ使うの~」


「……はぁ。分かってないわね。いいから持って行きなさい」


 桜はニコニコと笑い、ミーネはため息をつく。


「……分かったよ」


 扉前で桜たちを振り返る。桜たちは着いてこなかった。


 

 大きな鏡がある食堂。

 アリスは食卓に飾られている写真を見てながら、椅子に座って足をぶらつかせていた。黒無が入ってくると、パタンと写真立てを倒す。


「……隣、座るぞ」


「……好きにすれば」


 アリスが淡々と言った。振り向きさえしない。ちょっとイラっときたので、黒無もアリスの顔を見ずに席に着いた。写真立てをめくる。見晴らしの崖に行った時の写真だった。背もたれあって眠る黒無とアリスの写真。


「…………」


「…………」


 沈黙が流れる。横目で、仏頂面のアリスを見た。どこに嬉しそうな要素があったのか、とんとわからない。

 しばらく、その横顔を見ていると、視線があった。なんとなく逸らしたら負けなような気がして、見つめ返し続ける。見つめ合っているとアリスが金の瞳を逸らして、つぶやいた。


「……なんか、用があったんじゃないの」


「……あるな。お前もありそうだけど」


「クロが先に言いなよ」


「お前が……いや、そうだな」


 アリスの言葉に、椅子ごと身体を向ける。頭を思い切り下げた。


「悪かった。つまらないことで意地を張った。また、一緒に居てくれるか?」


 言葉にすると、ずいぶんスッキリした。なんで、たったこれだけのことを言えなかったのだろう。

 ポンポンと頭を叩かれた。柔らかい手の平で。段々、強く。


「アリスも……」


 顔をあげるとアリスが目を潤ませていた。泣きそうな、でも、嬉しそうな顔。


「アリスもぉ……わるかったよぉっ」


 アリスが飛び込んできた。その勢いに椅子ごと倒れそうになる。ガタンと、音が響いた。


「っ~~」


 後頭部を思い切り打ち付けた黒無は頭を抑えた。涙目で見ると元凶であるアリスは、黒無の胸に顔を押し付けており、全くの無事なようだった。


「お前なぁ……」


 アリスに文句を言おうとした黒無は、口を閉じた。代わりにアリスの背中に手を回す。ぽんぽんと背中を叩いた。

 アリスが震えていたから。


「……色々、悪かったよ」


「~~っ、ホントだよぉ! 無茶して、カッコつけてぇ!」


 ガバッとアリスが顔をあげた。椅子が消えて、仰向けになる。アリスは馬乗りになって、ポカポカと黒無の胸を叩いた。


「クロは弱いんだよぉ!? へなへなの、なよなよなんだからねぇ!? 戦っちゃ、たたかっちゃ、だめなんだよぉぉ……」


「……ごめん」


 俯いて、嗚咽を漏らすアリスの頭に手を伸ばす。その金髪をくしゃりと乱した。


「クロは……ずっとアリスと一緒に、引きこもっていれば、いいんだよぉ……」


「……望むなら、そうするよ。約束する」


 口に出してから、少しだけ後悔する。ずっと引きこもるって。それはない。

 だが、一度口に出した言葉は、戻せない。

 半ば諦めの気持ちでいると、アリスは顔をあげて、


「ほんと!? じゃあ、クロは今日から、アリスの下僕ね!」


 金の瞳を輝かせた。涙は消えていた。

 騙された。


「何でそうなる!?」


「何をしようかな~。とりあえず、クロのものは全部もらうからね」


「断わる。ええい、どけ」


「あっ!」


 反動をつけて、起き上がる。そのまま、アリスをこてんと後ろに倒した。アリスの下から、さっさと抜け出す。


「なにすんの! 下僕は親分に逆らっちゃだめなんだからね!」


「そんなの了承した覚えはねえよ」


 窓を眺める。アリスが眉を吊り上げるが、無視する。

 そしてポカポカと弱い力で叩いてくるアリスに、思い出した風にポケットからあるものを取り出して、差し出した。恥ずかしいから窓の外の青空を眺めたまま。


「……全部はやれないけど、これはやるよ」


「これ……髪留め? 猫ちゃんだ」


「そ。お前前髪長いし、ご飯にかかるだろ。これで留めとけ」


 改めて見ても、アリスの髪は乱れ放題だった。


「ふーん」


 それだけ言ってアリスはそっぽを向いた。髪留めを付ける。


「しょうがないなぁ~、今回はこれで許してあげるよ」


「何だよ。許すんだったら人の目を見て言えよ。と言うか、見せろ。似合っているかわからないだろ」


「え~。どうしよっかなぁ~」


 アリスはそっぽを向いたまま、そっけない声で答える。ふるふると首を振った。

 アリスはひねくれ者だから、決してこちらは見ないだろう。

 だから、黒無は壁にかかっている鏡をチラリを見て、目を閉じた。床に寝転がる。疲れがやって来たから。なんだか疲れがやって来たから。

 アリスが覗き込む気配を感じながらも寝転がる。


「あれ~? クロ見なくていいのぉ? ここにかわいい美少女がいるけどぉ~?」


「別に、見なくたって分かるからな」


 

 まぶたに宿る姿を思い浮かべる。

 鏡に映る真珠色の少女は嬉しそうに笑っていた。


拙作にお付き合いいただきありがとうございます。諸事情より本作は一先ずここで終わりになります。物語はまだまだ続きますが、おそらく1年以上更新ができないこと、区切りがよいこと等から一旦幕を閉じようと思います。拙作にお付き合いいただきありがとうございました。

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