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青い蕾  作者: 碧 真白


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 はぁ、とまた一つため息を吐く。少しだけ気を紛らわそうと、スマホを取り出しアプリを開く。日本で一番利用者が多いという有名なSNSだ。

 趣味で開設した自分のアカウントを覗く。複数のイラストだけが淡々とあがっている、孤高の壁打ちアカウント。

 平均「いいね」数は百程度。フォロワー数も数十人。相互フォローしている人はおらず、ただ定期的に一枚ずつイラストの画像を上げているだけだ。特に何かを目的にしたわけではない。日々の煩悶を吐き出すための唯一の場所。

 イラストレーターになれなかったからといって、絵を描くことを辞めたわけではない。私が今まで継続して培ってきたもの、手放すことのできない趣味は相も変わらずイラストだけだった。私は自分の中の思いを、絵を描くことで発散させていた。

 載せるイラストは様々で、今流行っている作品のファンアートや、適当に気の向くまま描いたラフなどが多い。

 エンゲージメントが全てというわけではないが、何かしら反応がもらえると嬉しい。私にも評価されるところがまだあるのだと安心できる。多くの人に見られなくても、誰か一人でも「良い」と思ってくれる人がいる。

 いつの間にか表示されている通知のバッジ、それに気づく瞬間が心地よかった。遠い記憶、幼い頃あの教室で誰かに褒められた時の感覚が蘇る。そう、この場所はまだ僅かに残っている、私の一欠片のプライドなのだ。

 昨日アップした、ある作品のファンアートに数十件「いいね」がきていた。それを見て少し気持ちが和らぐ。私はこの小さな楽園で、ひっそりと自身にかかる鬱念を癒していた。

 慣れた手つきで、そのまま別のアカウントに切替える。地元に残る昔ながらの友人と繋がっている、メインアカウントとしているものだ。

 そこではいつも、かつての同級生たちの楽しそうな様子が見れる。

『本命に就職できました』

『海外旅行しました』

『結婚しました』

『子供が生まれました』

 今までそのような知らせをいくつも見送ってきた。初めのうちは、友の門出を心から祝うことができた。

 それがいつからだろう。今となってはリアクションを送ることすらできず『報告』の文字が見えた瞬間、スクロールする癖がついてしまった。

 ライフステージが変わっていく友人たち、私はその輪に入れない。それでも、こうしてアカウントを消さずに陰ながら観察しているのは、少しでも繋がりを残しておきたいとどこかで思っているからなのだろう。

 果たして友人たちは、大した呟きをしない私のことを、どう感じているのだろう。あるいはもう、邪魔な存在としてミュートでもされているのだろうか。リアルに連絡を取り合うこともしなくなり、長いこと顔も合わせなくなってしまった。

 一人でいることは、そこまで苦ではない。休みの日は家に篭り、動画や漫画など物色して過ごすことが多い。上京してからの忙しない日々で、孤独でいることにすっかり慣れてしまったのだ。

 それでも時折寂しくなることはある。そんな時こそ、あの楽園で他人からの反応をもらい、心の空いたスペースを修復していた。

 あの頃、私の絵を褒め称えていた周囲の人々のなんと無責任なことか。きっと私の現状など、詳しく知る者はいないのだろう。

 親からの連絡もずいぶん素っ気なくなり、いつまでも定職に就かない娘に、お小言メールを定期的に送ってくるだけになった。

 相変わらず充実した投稿ばかりのタイムラインにうなだれ、私はスマホをしまう。せっかく持ち直した気持ちが、またもやどん底に落ちていた。

 私がこんなことをしている今も、彼女たちは人生をうまくやれているのだろう。なぜ私は一人取り残されているのだろう。


「これからどうしよう」

 ぽつりと口からこぼれた微かな言葉は、水の音に掻き消された。

 川はさらさらと絶えず流れている。決して綺麗とは言えないが、薄らと底が透けて見える。そっと覗き込むと自分の顔も映った。

 センターに分けた前髪と、適当に一つ括りにしたセミロングの後髪。手入れが行き届かず、毛先は傷んで茶色に見える。美容にもさほど興味なく、化粧はいつまでも下手なままだ。体型は一般的な水準を維持できているが、顔にはシミやシワが浮き出てきて、歳を重ねていることを実感させられる。

 洒落っ気のない地味な見た目、生活するだけならそれで十分だった。

「……酷い顔」

 眉間に皺を寄せて、口はへの字に曲がっている。ざわつく胸とは正反対の、こんなのどかな光景の中で、自分はなんて滑稽なのだろうと苦笑いをした。


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