第五章 完璧の裏側
その夜、私は眠れずに庭を歩いていた。すると、温室から微かな光が漏れているのに気づいた。そっと近づいてみると、咲良が一人で花の手入れをしていた。
「咲良さん?こんな時間に……」
「翔太郎さん……」咲良は振り返ると、いつもの完璧な笑顔ではなく、疲れた表情を見せた。「眠れなくて」
「僕もです」
一緒に花の手入れをしながら、咲良が口を開いた。
「私、いつも完璧でいなければならないって思ってた。お嬢様のために、誰よりも優れたメイドでいなければって」
「でも、貴女は実際に完璧じゃないですか」
「完璧?」咲良は苦笑いを浮かべた。「私はただ、失敗を隠すのが上手いだけよ。毎日何時間も練習して、完璧に見えるように演じてるだけ」
私は驚いた。咲良の完璧さの裏に、そんな努力があったなんて。
「なぜそこまで……」
「私も、お嬢様の役に立ちたいから。でも、いつも一歩下がって支えることしかできない。お嬢様の隣に立つことは許されないもの」
咲良の言葉に、私の心が痛んだ。彼女もまた、瑠璃子への想いを抱えながら、その気持ちを封印していたのだ。
「咲良さん……僕も最近気づいたことがあります」
「何を?」
「僕は、お嬢様を輝かせたいって思ってたけど、実は自分の気持ちから逃げてただけなのかもしれません」
私は現実世界での康太と美咲ちゃんのことを思い出した。完璧な人への嫉妬と憧れ。でも、それは本当の自分と向き合うことから逃げていただけなのかもしれない。




