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第3話 王女エリーゼ

俺はジャックに案内された防具屋でレザーアーマーを買った。オーガという大鬼の魔物の皮を重ねて固めており、軽いわりに鉄並みに固いそうだ。金貨2枚と高価だったが、ジャックさんが紹介料として金貨1枚銀貨80枚に値切ってくれた。この世界では、銅貨100枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚の価値がある。相場は宿一泊で銅貨50枚~銀貨1枚程度、食事一回は銅貨5~10枚程度だ。


「ジャックさん、ありがとうございました。俺は冒険者ギルドに戻ります」


「こちらこそありがとうございました。何かありましたらジャック商店までお越しください」


俺はジャックと別れて冒険者ギルドに続く道を歩きながら、今までのことを思い出していた。いきなり国外追放で落ち込んでいたが、ジャックとの出会いもあり幸運にも帝国内に入ることができた。これからはここを拠点とし、冒険者として生計を立てるのだ。王国近衛騎士としての日々が懐かしく思えるが、今は気持ちを切り替えよう。そうこう考えていたら冒険者ギルドの前に到着した。中に入ると何やら騒がしい。


「カインという男を知りませんこと?黒髪黒目で身長はこれくらい。すっごく強いんですのよ!どこに行ったんですの!」


カウンターで困り果てている係員を前に女の子が叫び倒している。どこかで聞いたような声を聞いて俺はまさかと思った。どうしてここに?


「お嬢ちゃん、他のみんなに迷惑になるから大人しくしてくれねえか。カインならそのうちここまで戻ってくるはずだ。おっ丁度いいところに戻ってきたみたいだ。カイン来てくれ!」


奥から出てきたギルドマスターのグランが俺を見つけて大声で呼ぶ。それと同時に女の子がこちらを振り返る。金髪ロングに碧眼、身長は女の子にしては高めでスレンダーな体形で豪華なドレスを着ている。間違いない。


「カイン!」


「エリーゼ様!」


その女の子はマルディール王国の王女エリーゼだった。エリーゼ様は俺に向かって突進し、抱きついてきた。


「会いたかったですわカイン!私から離れるなんて許しませんことよ!」


「エリーゼ様、どうしてここに。いや、ここだと目立ちます。俺の泊まっている宿屋でお話ししましょう」


俺はエリーゼ様を出口まで誘導する。


「あらいやだカインったら。こんな日の高いうちから宿屋になんて。私恥ずかしいですわ」


顔を赤くしてくねくねするエリーゼ様。周りは何事かとこちらを遠巻きに見ている。


「とにかく出ましょう。さあ早く」


俺とエリーゼ様は冒険者ギルドを出て行った。


「なんだったんだ、ありゃあ」


グランが呆然としながら俺たちを見送っていた。





********************





「エリーゼ様、どうやってお一人で帝国に来たんですか。それも俺が冒険者ギルドにいると知っているみたいに」


宿屋に着いた俺たちはベッドに腰かけて話し合っていた。ここは宿屋の個室で机も椅子も何もない、ベッドがあるだけの部屋だ。


「慰労から戻ってきたら、カインが国外追放されたと聞いて驚きましたわ。お父様がそこまでするなんて許せませんでしたわ。あんな城もお父様にももう未練はないですわ。だから出てきたんですの」


「そもそもどうやってお一人で出てこられたんですか?城内は厳重な警備がされているはず」


「緊急用の出口を通って城下町に出たのですわ。そこで隊商を見つけて宝石を数個握らせて馬車で連れてきてもらったんですわ。冒険者ギルドにいると思ったのは勘ですわ!」


自信満々に薄い胸を張るエリーゼ様を前に、俺は溜息をつくしかなかった。


「今頃城内は大騒ぎでしょう。しかも王国と帝国は敵対してるのですよ。エリーゼ様が帝国内にいると知られたら捕まるかもしれません」


「城には書置きを残してきたから大丈夫ですわ。私はカインについていくと書いておきましたわ。私は帝国に来たのは初めてですし、私の顔を知っている帝国関係者はいないはずだから心配ご無用なのですわ!ところでカイン」


「はい、なんでしょうかエリーゼ様」


「私はもうマルディールを捨てた身、ただのエリーゼですわ。もう様付けで呼ぶのも敬語を使うのも止めなさい」


「いやしかし…」


「命令ですわカイン!」


「わかりました、エリーゼ」


「敬語!」


「わかったよエリーゼ…」


エリーゼは俺にそう呼ばれると急にニコニコし出して抱きついてきた。


「やっとカインと一緒になれましたわ!もっと早くに二人で駆け落ちするべきでしたわね」


「俺のような平民が王女を好きになるなんて恐れ多いよ。エリーゼをそんな風に見たことは無かった」


「ガーン!私たちは相思相愛のはず。私はずっとカインが好きだと周りにも言い続けてきましたわ。カインも私のことが当然好きなんじゃありませんこと?」


「さっきも言ったけど身分が違うし恋心をいだいたことはない。ただエリーゼはとても美しいとは思っていた」


「なーんだ、それならもう遠慮はいらないですわよ。私はただのエリーゼ。これから二人で帝国で愛の巣を作るのですわ!」


エリーゼは一人で盛り上がっている。俺はその様子を落胆しながら見つめていた。


「エリーゼ、俺はもう王国には戻れないから帝国で冒険者として生計を立てるつもりだ。君を養うことはできるだろうが、今までのような贅沢な暮らしはできないぞ。」


「それなら心配ご無用ですわ。私はカインさえ隣にいてくれればそれでいいんですの。それにカインに養われるだけの女にはなりませんわ。私も冒険者になりますわ」


「ええっ、それはさすがに…」


「カインは当然知っているでしょう、私がただの弱っちい姫じゃないことを。カインには負けますけど、剣を握ったらそこら辺の男など敵じゃありませんわ」


エリーゼの言うことは当たっている。エリーゼはお姫様ながらに訓練場に入ってきては俺に戦いを挑んでばかりいたから。


「わかった。さすがにドレスのままじゃ戦えない。防具屋で戦いやすい格好にしておこう」


「やったあ!カイン大好きですわ!」





********************





「似合うかしら、カイン」


俺たちは防具屋でエリーゼの装備を選んでいた。俺と同じオーガの皮を主体としたレザージャケットにレザーズボン、レザーブーツを身に着けて満面の笑みを向けるエリーゼ。長い髪は縛ってポニーテールにしている。


「似合うよ。でも合計で金貨4枚だ。俺の全財産のほとんどをもってかれるから宿に泊まることもできなくなるぞ」


「お金のことなら大丈夫ですわ。店主、私のドレスと靴を買い取ってくださいまし」


エリーゼのドレスと靴は金貨5枚で買い取られたため、差額で金貨1枚を手に入れた。


「逆に儲かってしまった…」


「うふふ、私尽くす女ですのよ」


「次は武器か、武器屋の場所がわからないな。先に冒険者ギルドで登録するか」


俺たちは再度冒険者ギルドへ向かった。ギルド内に入ると、丁度カウンターにグランがいた。


「カインとさっきのお嬢ちゃんか。話はすんだのか?」


「ええ、まあ色々と。彼女も冒険者になります。二人でパーティを組むことにしました」


「そうかい、それじゃあそこの水晶に手のひらを乗せてくれ」


エリーゼは言う通りに水晶に手のひらを乗せた。


【名前】エリーゼ=フォン=マルディール

【年齢】15

【クラス】剣B


「お嬢ちゃん見かけによらず強いんだなって…ええっ!マルディールってあの…」


「グランさん、お願いします。深く追求しないでください!」


俺はグランに拝み倒した。


「そ、そうかい。まあ色々あるんだろうが名前については見なかったことにするぜ。ところで剣のクラスがBならカインと同じくギルドマスターの権限でCランクからのスタートだな」


「うふふ、カインと同じですのね。さあガンガンクエストをこなしますわよ!」


俺が一人で自由に過ごせたのはごくわずかだった。これからはこの騒がしいエリーゼと一緒だ。先が思いやられるな。

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