I'll protect for you.
「うわ、すご」
一瞬敵か味方か分からなかった。
遠くの島で天に向かって吠える巨熊の威容に、灰音は軽く笑う。
「灰音、あまり勝手に動かないでくれ。無駄な魔力は消費したくないんだ」
「なーに言ってんの?焔季の魔力底なしじゃん」
「お前には劣るさ」
後ろ向きに歩きながらイタズラっぽく笑う灰音に、紅は真紅のコートをはためかせる。
なぜアイドルであるハイネが、戦場の最前線にいるのか?その理由は簡単だ。
彼女は毎日試験場で行われている調査員候補生の訓練に、運動、と称してよく混ざっていてた。
その結果、生存訓練、戦闘訓練に於いて化物じみたスコアを連発し、遂には模擬戦でAMSCUの隊長格を病院送りにしてしまう始末。
本作戦への参加を希望するハイネに意見出来る者など誰もおらず、しかし正式な調査員でもない彼女を戦地に送るのは憚られる、だがこの緊急事態、即戦力とも言える彼女の力は必須。
そこで国は、ハイネの契約事務所の幹部でもあり、1級の紅をお目付け役として側に置いたのだ。
本作戦中、ハイネへの指令は目に付いたモンスターの滅殺のみ。要するに、ほぼ自由行動である。
だからと言って、彼女が嬉々として最前線まで独走し切り込む様なバーサーカーだとは、国とて夢にも思わなかっただろう。
出発地点のモンスターを早急に殴殺した灰音は、現在、先に行ってしまったダーリンに甘えるため、東条を追って森の中をスタスタと歩いていた。
「桐将君は〜……あっちかな」
「……デカい魔力反応が幾つかある。どれが東条か分かるのかい?」
「?勿論。焔季分かんないの?」
「当たり前だろ」
ジト目を送る紅を目に、灰音はニヤ〜、と勝ち誇った様な笑みを浮かべる。
「……焔季も、恋をすれば分かるよ」
「ふっ……小娘が」
逆立つ魔力から灰音が逃げ出した。
……今回は沖縄ぶりに3人で戦えると思ったのに。それに桐将君と3日も会ってない。久しぶりに沢山甘えようと思ったのに。
心の中で愚痴る灰音は、
「……」
そこで割り込んできた雑念に顔を顰める。
何やら最近ネット内で、あの毒蜘蛛が桐将君の彼女だとかいうデマ情報をよく見る。
その中には自分の知らない場所や時間、笑顔の彼の写真が沢山あるのだ。
もしかして僕よりもあの蜘蛛女を……。
灰音はそんなことを考えてしまった自分の頬をペチペチと叩き、脳内に現れた紗命を蹴り殺す。
(……そういえばあの女、この前桐将君と映画デートしてたよね。桐将君は僕達をぶつけないように隠してるみたいだけど、夫婦の間に隠し事なんていけないと思うんだよね)
灰音は飛び掛かってくるモンスターの首を片手でもぎながら頭を悩ませる。
「……はぁ」
(GPSは見つかって怒られちゃったし、これじゃあ精神の監視は出来ても、行動の監視が出来ないよ。……まったく、あの女がいなかったらこんな事に悩む必要もなくなるのに、)
「……もういっそ、戦死に見せかけて殺してやろうか(ボソ)」
一瞬影が落ちた彼女の表情に、紅が溜息を吐く。
「……あーもうっ、やめやめ、また桐将君に怒られちゃう。……はぁあ」
灰音は腰を伸ばし、大きく天を仰ぐ。
……彼が僕を好きと言ってくれる限り、僕は彼に尽くすと決めたんだ。
ほんと、いじわるな人。
恋人の自由奔放ぶりに呆れる灰音は、クス、と笑い魔力を纏う。
「……焔季、」
「あぁ、……あれは手強そうだな」
遠方より飛来する、飛竜の大群。
その先頭を飛ぶ、1匹の黒い龍。
紅がふわりと浮かぶ、
「灰音、あのドラゴンは任せる。私は雑魚を狩る」
「周りのも別に雑魚ってわけじゃないと思うけど、……何で今日そんなに省エネなのさ?」
「別に、」
「ふーん、あっそ」
別に良いけど、と準備をする灰音をチラリと見た後、
「……(お前のためでもある)」
紅は磁力を纏い天高く飛翔した。




