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その後、一旦ルルイエの王城へと戻った五人。
杖をついて歩くラファの手を引きながら、シャルルは口を開けたまま城内を見回していた。
蛸化したペルルと、オルカの体躯に合わせて造られた城は、他の深きものどもの利便性など一切考慮されていない。故に荘厳で、神聖なのである。
「凄いですよラファさん。ほら、柱の中に魚が泳いでいます」
「……皮肉ですか? シャルルさん」
「おっと、失礼。少しテンションが上がってしまいまして」
「……そんなことはどうでもいいのですが」
「どうでもいいですか」
「……私達は、今どこに向かっているのでしょうか?」
「それが、僕も分からないのですよ。東条さんとノエルさんは、女王様達とどこかへ行ってしまいましたし、唯一話せるガブリエーレさんは気づいたら消えていましたし、」
「……どうしましょう」
「ね。どうしましょうね」
シャルルは一定の間隔を空けてついてくる軍人達をチラ見し、軽く会釈する。
「……後ろにいる方々は、シャルルさんのお友達ですか?」
「お友達だと思いますか?」
「……はい」
「あはは、ラファさんは嘘を吐くのが上手いですね」
「……えへへ」
「今のが皮肉ですよ」
「……」
「僕達はガブリエーレさんの連れということで、一応の自由を許されている形だと思います。ただ、ラファさんが数百万規模で彼らの同胞を殺してしまったせいで、僕達の肩身が狭くなっているのでしょう」
「……ちょっと待ってください」
「何ですか?」
「……私のせいですか?」
「違うんですか?」
「……そもそもシャルルさんがガブリエーレさんにちょっかいを出さなければ、こんな所に連れてこられることはなかった。と私は思います」
「おぉ、ラファさんにしては筋の通った反論ですね」
「……ふふん。負けを認めますか?」
「面倒なので甘んじて認めましょう」
「……初めてシャルルさんに口論で勝てました」
「おめでとうございます」
「……ありがとうございます。何をくれるのですか?」
「心からの称賛を」
「……ぽいっ」
「残念です」
ガブリエルは海藻だらけになりながら、牧場で深海豚を追いかけ回していた。
「ブギャァ⁉︎」
「ギャハハッ! 捕まえたぁ!」
地上で言うバッファローのような大きさと凶暴性を持つ、大地と海洋を足して二で割ったようなフォルムのモンスター寄りの家畜。家畜?
「っそれで、この睡眠薬をこう!」
「ブッ、グフゥ……」
ガブリエルが昏倒した深海豚を地面に置くと、牧場主が感心しながら近づいてくる。
「◆■■〜。●◎◆□■?」
「ギャハっ、経験はないよ! 俺っち長い間サバイバルしてたから、動物の扱いは慣れてるんだよね〜! これあっちに運べば良い?」
「★」
豚を軽々と背負って歩き出したガブリエルを見て、牧場主は驚く。
「……☆▽▼※■?」
「え⁉︎ マジで⁉︎ 働きたい働きたい! おっちゃん深海料理の監修とかもしてるんだよね⁉︎ 教えて教えて教えて‼︎」
「∀w ○★◎◆□■、▼∴※〒▲■■」
「あ、監修は奥さんの方なんだ! じゃあ後で挨拶しないと」
「▽▼△◆◎●?」
「うっ……そうなんだよね〜。俺っちたぶん、ペルルっちに嫌われてるからな〜。居住許してくれるか分からないのよね〜っわぁ! 何このお肉⁉︎ こっちのは⁉︎」
豚を地面に下ろしたガブリエルは、氷でできた冷凍庫の中に釣られている肉群に飛びつく。どれも毒々しい色をしているにも関わらず、香りは地上の物に負けないほど芳醇。
見たことのない食材を前に、ガブリエルの興奮も最高潮に達する。
「■▲、▽▼※▲△■?」
「ん? あぁ、俺っち食べた生物の能力吸収できるんだよね。ペルルっちいっぱい食べてたから、言語能力も貰えたっぽい。……あ、ダメだった⁉︎ 不敬的な⁉︎」
「≡▼、◇●◎◇◆◆? ▲▽▼※◎■」
「ふぃ〜、おっちゃんが寛容で良かったよ! ……うん、桐っちが帰ってくるまで暇だし、それまで色々教えてちょ!」
水色と白で統一され、可愛らしい調度品で埋められた一室。そんな王城の尖塔に造られた子供部屋に、子供二人と保護者が二人。
「え、ママ俺らが日本出た時いたの⁉︎ あのクリスマス⁉︎」
「うふふっ、もちろんよ〜。船で新大陸に渡る時、霧がかかっていたでしょう?」
「え、あ! 確かに⁉︎ マジかよ声かけてよ〜」
小さなテーブルを挟んで、東条の正面に座るママことベヒモス。
「うふふっ、あの日の東条ちゃんとノエルちゃんは、それはもうあつあつだったもの〜。声をかける隙なんてなかったわよ〜」
「ちょっとやめてくださいって、普通に恥ずいっす」
東条が照れ隠しにお菓子を口に放り入れ、ベヒモスがクスクスと笑いながらその姿を愛おしそうに見つめる。
「聞いてたか〜ノエル? 俺らのイチャイチャ見られてたらしいぞ」
「ん。気まず」
「お前にもそういう感情あるんだな」
東条とベヒモスは、温かい眼差しで子供二人を眺める。
「じゃ、じゃあ、食べるわよ?」
「ん」
ノエルが持ってきたポテチに、ペルルが手を伸ばす。一枚掴み、恐る恐る齧った瞬間、ペルルの目がカッと開いた。
「にゅぁ⁉︎ 美味しっ⁉︎ な、何これノエル⁉︎ 何これノエル⁉︎」
「ポテチ」
「肉⁉︎」
「芋」
「芋⁉︎ 芋がこんなに美味しいの⁉︎」
目を見開いてバリボリとポテチを頬張るペルルに、ノエルが「ふふん」と胸を張る。そこへ、窓からオルカが鼻先を入れる。
「因みにお嬢、ポテチは儂らの国にもあるぞ」
「はぁ⁉︎ 何で言わないのよ⁉︎ 不敬罪よ‼︎」
「えぇ……」
不憫なオルカ。引っ込んでいく鼻先を見送り、東条は人間の食べ物に落ちかけているペルルを見てニヤつく。
「……な、何よ!」
「いや? 美味しそうに食べるな〜と思って」
悔しそうに、しかし食べる手を止められないペルルに、東条は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「くっ……、やっぱりあんた嫌い!」
「嫌いは好きの裏返しって言うしな」
「キッショ! 死ね!」
「おまっ⁉︎ やめろ汚ねぇ⁉︎」
ポテチカスまみれの手を突き出し追いかけてくるペルルから逃げ、東条は窓から飛び降りる。
「ふんっ」と鼻を鳴らし、ペルルは指を舐めながらノエルの隣に腰を下ろした。
「ペルル、これも食べて」
「これは?」
「チョコ」
「チョコ? ……っ甘い匂いがするわ!」
「ん。スイーツ」
「美味しい‼︎ 甘い‼︎」
「これも食べて。これも」
「……うふふっ」
姉妹達の微笑ましい光景を眺めながら、幸せそうな表情を浮かべるベヒモス。
一歩引いた位置に座っていた彼女に、ノエルが手を差し出す。
「ベヒモスもいる?」
「ママもこれ食べてみて!」
「あらあら、良いの?」
「勿論!」
「仕方なく」
ペルルに手を引かれ、ベヒモスは嬉しそうに彼女達の間に腰を下ろす。
「あらあら〜」
星を守る調停者の、緩み切った表情。嬉しそうなノエルと、楽しそうなペルルの表情。
……彼女達が笑い合っている光景を、東条とオルカは窓の外から満足げに眺める。
「良いエンディングだな」
「……うむ」
「何だお前、泣いてんのか?」
「歳をとると涙腺が緩んで敵わん」
足元のオルカを笑い、東条は彼の頭の上であぐらをかく。
「しかし東条よ、お主よくその怪我で立っておられるな」
「バッカお前、痩せ我慢に決まってんだろ。んじゃ俺ちょっと気絶するから、飯の時間になったら起こしてくれ」
「お、おぉ」
半身を包帯でグルグル巻きにされた東条が白目を剥き、頭から落下する。
彼をキャッチしたオルカは、「飯は食うのじゃな」と呆れ笑い、医療棟へと泳いでいくのだった。




