その後の裏事情(理子視点)
「何があるんだよ。俺にも見せろ。」
私と朱里の影で見えなかったのか、翔くんは立ち上がると奥の部屋を覗いた。
「・・・・。」
翔くんも私と同じように言葉を失ったものの、そのまま奥へと足を踏み入れる。
「お座敷に続く部屋には布団が一式ってできすぎてない?」
朱里が笑うようにその光景を言葉にするけれど、私には笑う気分にはなれない。
だって部屋の奥に用意されているのは高級そうな布団一式に枕元には行灯っていう、いかにもな光景にどう反応していいのか
わからなかったから。
「もしかして悠兄が用意させたの?準備万端だねえ。」
なにが準備万端なのかと聞くのが恐ろしい気がするも、朱里はそのまま綺麗に敷かれた布団にごろりと寝転がる。
「別に私が用意させたわけじゃありませんよ。前回の接待にもあったんですから、きっと飲みすぎた人用の為の布団でしょう。」
さっきまで座っていたと思った悠ちゃんが私が朱里の行動を見ている間に、いつの間にか私の背後に立っており、思わずびくりと身体が身構える。
「理子はどうして隠そうと思ったんですか?」
私の反応がわかったのか苦笑しながらも、悠ちゃんは私を見下ろしながら聞いてくる。
その目には私の反応を楽しんでいるようで、私はうっ、と言葉を詰まらせた。
だってこういう場所で、こういう状況だなんて出来すぎてるもの!
そうは思っても口にすることは何となく嫌で、私は持っていたお団子に視線を落とした。
「顔が赤いですよ、酔ってるんですか?」
私がさほどお酒を飲んでいないことも知っているはずなのに悠ちゃんは確認するように尋ねてきた。ここで酔ってないと言えば、じゃあなんで赤いんですか?と聞かれるのが嫌で私は視線を落としたままうなずいてみせる。
「そしたら、休まないと。」
その言葉に私の選択が間違っていたのだと気づいたときには遅かった。
悠ちゃんはそう言って私の両肩を軽く押しながら一緒に奥へと足を進めると、先にいた翔くんが私の腰を背後からそっと引き寄せた。
いつの間にか私が持っていたお団子はどこかに消えていて、このままの状況に動揺していた私は足がもつれて背後にいる翔くんに寄りかかってしまう。
ふんわりと鼻腔をくすぐるような香りが目の前の悠ちゃんなのか、支えてくれる翔くんなのか分からなくなるくらいに側にいて私はぎゅっと目を瞑る。
いつの間にか足元にある柔らかい感触に私は布団の上に立っていると気づくも、どうしたらよいのか頭が回らない。
するとひんやりとした感触に思わずびくりと身体が反応する。
「・・っや、朱里・・・!?」
瞑っていた目を少し開けて、ひんやりとした感触の原因を探ろうと下を向くと、寝転んでいたはずの朱里が私のふくらはぎにそっと手を寄せながらキスしているのを目にした。
膝丈までのワンピースを着ていた私は、その足に感じる直の感触と光景にくらりと眩暈がする。
すると目の前にいた悠ちゃんが私の耳元ぎりぎりまで顔を近づけてきた。
「やっぱり酔ってるんですね。足元がふらついてますよ。」
そんなはずはないのに悠ちゃんがふっと耳に息をふきかけるので、私は踏ん張っていたはずの足からふらりと力が抜けてしまう。
背後にいた翔くんが私をそのまま支えながら、私をそっと下へと座らせた。
そうして座らされた私の背後には朱里が、力が抜けた私の下半身を膝をついてまたぐように悠ちゃんがいて、そして片膝をつきながら
じっと私を見下ろす翔くんがいた。
「・・・ずるい・・。」
普段は行動も言動もばらばらな3人なのに、今は息がぴったりとあったように行動する彼らを目の当たりにして、思わず私の口から零れ落ちる。
「兄弟ですから。」
私の考えていることがわかったのか悠ちゃんがそう口にするとそのまますっと顔を近づけてくる。
ずっと見てきた筈なのに、その端正な顔立ちの悠ちゃんが私の目を覗きこむ様にじっと見つめられ緊張してしまう。その緊張から逃れるように私はぎゅっと目を閉じると、悠ちゃんとの間にあった空気がふっと緩んだ。
あ、キスされる。
そうは思ったけれど抵抗する気は起きなくて、私はその予想通りに唇に軽い感触を感じた。
そしてその紡ぐようなキスはそのまま私の首へと移動していく。不意に下あごを上に向かされたかと思うと、今度は違う柔らかさが私の唇と重なった。
翔くんとキスしてる。
ぼんやりと頭の中でそう思いながら私は段々と深くなっていくキスを目を瞑りながらも受け止めていた。
すると胸元で止めていたはずのボタンがカチリ、という音をたてたかと思うと急に両肩が外気にさらされ、思わずぶるりと身震いしてしまう。
気づけば背後で私を抱えるようにしていた朱里が私の羽織っていたカーディガンを脱がしていた。そして朱里はそのままノースリーブのワンピースを着ていた私の晒された肩に這うように唇を落とす。
普通でない状況に私はやめなきゃと思うのに、頭の奥のほうで甘い疼きのような痺れが私の意志を麻痺させるかのようにじわじわと全身を覆いつくしていく。
誰も何も口にすることなく、だけれど示し合わせたかのように3人の行動は重なることなく私に甘い疼きを与え続け、私はそれを何の抵抗もなく受け入れている。
翔くんと入れ替わるように今度は朱里が私の唇をふさぎ、翔くんはそのまま首すじへと唇を移動させている。ゾクリとした感覚が背筋を走るも、それがけして嫌なものではないことを自分でもわかっていた。
気がつけば悠ちゃんは捲れあがったワンピースのすそから手を入れると、私の内ももにキスを落とす。長い指先にしっかりと押さえられた足の内側がひどく熱い。
その熱が全身に広がるように、自分でも息があがっているのがわかる。それなのに3人は冷静なまま私をどんどん追い詰めていった。
もう誰の手かもわからない指先が器用にワンピースの横についていたファスナーをゆっくりと下ろした。開かれた布地の間から熱を持った指先がするりと入りこんで探るようにつけていた下着をなぞる。
その瞬間に何故だか沙希が言っていた言葉が頭をよぎった。
『初めての時は思い出になるような下着つけてなくちゃ。』
「!・・・っちょ、ちょっと待って!」
急に自分の置かれている立場に慌てて私はしなだれかかっていた身体を起す。
私の急な動きに3人はどうしたのかとじっと見つめている。
「わ、私、今日は普通の下着つけてて。だから、あんまり見せたくないっていうか。」
おたおたと開かれていたファスナーを慌ててとめながら言うも、3人はわけがわからないようにきょとん、としている。
「どんな下着つけてても理子は可愛いさ。」
「うん。どうせ取っちゃうんだから関係ないよ。」
「・・・・!!」
なんでそんな直接的な言い方するのっ。
翔くんと朱里の会話にぼんっと顔が赤くなるのが自分でもわかった。それでも私は目線があった悠ちゃんに目で必死に訴えかける。
「困りましたね。そんな目で訴えかけられると私でも戸惑います。」
その言葉通りに悠ちゃんはどこか困ったようにしているも優しい表情のままだ。
その優しさにつけこむかのように、私は涙目になりながらもお願いする。
「嫌じゃないの。でもちゃんと思い出にしたいっていうか。それくらい大切にしたいの。」
それは本音だった。子供じゃないから彼らがしようとしていた行為の意味もわかる。でもそれに伴う責任を彼らだけに任せたくはなかった。
「・・・おあずけってこと?」
「だな。結構きついけど仕方ないみたいだ。」
ふう、と誰かのかもわからないため息が聞こえたけれど、3人は私の意志を尊重してくれたみたいで、さっきまでの空気が軽いものへと変わる。
私の足元にいた悠ちゃんは上半身を起し、そのまま私に手を差し伸べたので、私は迷いもなくその手をとる。そのまま抱きかかえるように、立ち上がらせてくれた悠ちゃんを見上げ、ありがとう、とお礼を言った。
ぽんぽん、とまるで子供をあやすように頭を軽く撫でられ、私はその居心地のよさに自然と笑みがこぼれる。
そのまま悠ちゃんは私の耳元まで顔を近付け、そっと囁く。
「今度、下着をプレゼントしますね。理子が気に入って思い出にしたくなるような。」
間接的だけれど、それは何の意味なのかわかるような言い回しに、私は思わず一歩後ろに下がってしまう。
「それいい考えだな。理子が一番気に入るのは誰の下着か。」
とん、と私の肩を軽くつかむようにして翔くんが背後から同じように囁く。
「大切な思い出になるようなの選んであげるからね。」
まるで天使のような微笑で朱里は私を見つめている。
息のあった3人の行動と言葉に私は彼らが血の繋がった兄弟なのだということを改めて実感したのだった。
やっぱりうまくはいきません。ぎりぎりです。それにしても3人対理子、という図はどうなのでしょうか。うーん。
次話からはまた本編のお話です。