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桐生家のその後の事情。  作者: manics
21/41

その後の16

普段の朱里でも理子には感情豊かにあらわすほうではあるが、物にあたって怒鳴るということはしなかった。

映画の中でではそういう演技も理子は観たことはあるが、さきほどのは違う。


朱里を怒らせた。


最後の朱里の静かに突き放す言い方が何よりもそれを物語っていた。

突然だったとはいえ、朱里と雅人の仲は良くないと知っていたのに、何も考えずに部屋へあげてしまったことや、それに関して何の説明もしなかったこと。それは自分の考えなしの行動の結果だ。


「とりあえず座れ。コーヒーが冷める。」


気がつけば雅人は先ほどまで座っていた椅子に座り、理子の席にも届けられたコーヒーを置いてある。理子は何も言わずに、

そのまま椅子へと座った。


「愛されすぎるのも問題みたいだな。頭に血が上って回りが何も見えないようだ。」

「・・・私が、いけないんです。ちゃんと説明しなかったから・・・。」


雅人はあっさりと朱里の行動を結論付けるが、理子はコーヒーカップに目線を落としたままだ。


「説明しても、あの様子だと納得したかどうかだな。昔の婚約者が部屋にいたからと言って感情が乱れてたら、この先やってけないぞ。」


雅人の言うことも一理はあったが、それでも理子は自分が犯した間違いをどうやって朱里に謝ればいいのかと考える。

あの様子だと説明しても、口も聞いてはもらえないのかもしれない。


「それで外に出れない事情とやら何なんだ。」


理子がじっと視線をカップから動かさないのを見つめたまま雅人は尋ねる。


「それは、・・・。」


いくら3人からの思いを知っている雅人だとはいえ、理子が彼のプロポーズを断ったあとに、理子がどのような選択をしたかなどとは知らないはずだ。それに関係のない雅人に話してもきっと迷惑をかけるだけだろうと思わず口をつぐんでしまう。


「おい、こっちを見ろ。」


その言葉に理子は視線をあげ、雅人と目線を合わせる。


「俺は色々とお前に迷惑をかけた。それに母親のことも感謝している。だから俺に少しでも出来ることがあれば言ってほしいんだ。迷惑なんかじゃない。」


雅人の強い視線と言葉に理子の心がぐらりと揺れる。


どうしたらいいのか自分でもわからない。誰かに頼りたい。それだったら、・・・・。


「・・・いえ、大丈夫です。自分で解決できますから。事情っていっても大したことじゃないんです。」


最後の一瞬で理子は自分を押しとどめるように、なるたけ明るく笑って雅人に答える。


こんなことで雅人さんに相談するわけにはいかない。私のことなんだから自分で判断しなくちゃだめだ。


聡い雅人は理子の笑顔が作られたものだということくらい分かっていた。しかし、それでも目の前の彼女がそう笑って言う限り、立ち入るべきことではないのだろうと判断する。


「・・・わかった。お前がそう言うのなら、そうなんだろう。」


少しの寂しさを感じながらも雅人はつい口から出そうになった溜息を飲み込むかのように、残りのコーヒーを飲み干した。


「俺は仕事が待ってるから、そろそろ行く。邪魔したな。」


かちゃり、と音をたててカップをソーサーに戻すと、雅人はすっと椅子から立ち上がった。


「あの、ありがとうございました。身体に気をつけてくださいね。」


理子もつられて立ち上がると雅人を見上げるように微笑む。そのまま二人の視線が絡まるが、先に視線をはずしたのは雅人だった。


「ああ、お前もな。・・・あまり無理はするなよ。」


きっとこれが彼女と話す最後の機会なのだろうと、雅人はふんわりと微笑む理子の顔を目に記憶するように見つめると、そのまま部屋を去っていった。




そして映画祭オープニング数時間前。


理子は朱里から渡された服、もとい、細かい細工が施されたドレスに身を包み、朱里の部屋の前に来ていた。本来ならば陽子が危惧しているように、理子と朱里が一緒にいるのを見られるのは避けたほうがいいのだろうが、映画祭会場入りの前にどうしても朱里と話がしておきたかったのだ。


部屋をノックすると中からでてきたのは陽子だった。彼女も普段の格好とは違う深紅のイブニングドレスとそれに合うように化粧をしており、艶やかな雰囲気が彼女を包み込んでいる。


「あら理子ちゃん。可愛いわよ。さすが朱里が見立てただけあるわね。」


誰が見ても美人と形容されるような笑顔の陽子にそういわれ、理子は少し照れたようにお礼を言う。


「陽子さんもすごい艶やかです。女優さんみたい。」

「ふふ、ありがとう。朱里に用事?」

「はい。あの今、大丈夫ですか?」


機嫌良さそうに陽子は理子を部屋の中に招きいれる。朱里の部屋は監督ほどではないが、それでもいくつか部屋があって大きそうだ。


「ええ、準備できてるから。でもちょっと機嫌悪そうなのよね。まあ、でも理子ちゃんが来てくれたから大丈夫だと思うけど。朱里は寝室にいるから。」


その言葉に原因は自分なのだと思いながらも、陽子は監督たちの様子を見てくるとだけ告げて、そのまま部屋を出て行ってしまった。


理子はリビングとなる部屋に足を踏み入れ、朱里はどこにいるのかとぐるりと視線を動かす。それらしい部屋の前まで行くと、ひとつ深く深呼吸をして扉をノックした。しかし部屋の中からは反応がなく、理子は寝室はここじゃないのかと思いながらも扉をゆっくりと遠慮がちに開ける。


最初に目に入ったのは大きなベッドだった。そこが探していた寝室とわかるものの、ベッドの上に朱里の姿はなかった。


「・・・・朱里・・・?」


理子は名前を呼びながら扉をゆっくりと開く。そして、その探していた人物は大きな窓枠に腰をかけながら階下に広がる海を見ているようだった。

顎まで伸びかけていた髪は後ろにひとまとめにされ、オープニング用の正装として細身のタキシードを身にまとっている。


理子が入ってきたことは分かっているはずなのに目線をこちらに向けようとはしない。何を考えているのかわからないその冷たい横顔に理子はぎゅっと心が痛む。


声をかけなくちゃ。ちゃんと説明して謝らなくちゃいけない。


そうは思っても見たことのない冷めた横顔に理子は身体が固まったかのように動かせなかった。





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