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桐生家のその後の事情。  作者: manics
13/41

その後の11

その後、理子は大勢の人が通り過ぎるエントランスホールで通り過ぎる人に注目されながらも、以前にもされた痛いぐらいの抱擁の挨拶を受けると、関係者らしき人たちとともに監督の泊まる部屋へと連れて来られていた。


監督の部屋はさすがにホテルの上層階にあり、部屋も理子のものよりも何倍も大きい。監督はひとしきり、少年に勝手に

出回っていたことを説教すると今度は関係者とともに別室へ行ってしまった。


この少年ってやっぱり監督の子供だよね。さっきもお父さんって呼んでたし。

でも子守が必要な年齢でもないし。それに朱里は女の子って言ってたよね。


目の前に座る少年は不機嫌そうなまま窓の外を見ている。理子はもしかしたら、この少年の妹の子守をするのかもしれないと尋ねて

みることにした。


『妹はどこにいるの?』

『・・・妹ならフランスにいる。』


フランス?急に来れなくなったってこと? あ、なんか嫌な予感してきた・・・。


『あなたの名前はなんていうの?』

『・・・・キム。』


不機嫌そうだが、ちゃんと質問には答える少年に理子はがっくりと肩をおとす。


やっぱり。朱里はキムっていう名前を女の子だと思っちゃったんだ。


一般的にキムという名前は女の子の名前か略称で呼ばれてはいるが、デンマークだと男の子の名前になるということを朱里は当然知らないために勘違いするのも無理はなかった。


理子は、はあ、とため息をつくとキムと呼ばれた少年は不機嫌そうな表情のまま理子を見る。


『さっき・・・俺が急に止まったから・・・鼻。』


そう言われて、先ほどの指差した行為は日本語ができない彼なりの意思表示だということが理子にもわかった。


『うん。大丈夫。』


そう言ってにっこり笑ってみせると、あまり会話をする気もないのかキムはまた窓の外に視線をむけてしまった。


なんだか可愛いなあ。ちょっと翔くんに似てるかも。


翔里と年が近い感じもあって、理子は少し昔の翔里を思い出して弟を見るような目線になる。


そのまま二人は会話をすることもなく、ただ座っていたが部屋のインターホンの音にキムは視線をドアへと向ける。理子が開けたほうがいいのかと席を立ったところで奥の部屋から関係者のひとりがでてきてそのままドアを開けた。


「すみません、お待たせしました。」

「いえ、こちらも今来たところですから。監督はあちらで待ってます。」


聞き覚えのある声に理子は入ってくる人物へと視線を向けると向こうも驚いたように理子を見ていた。


「理子!なんでここにいるんだよ。」

「あ、朱里。陽子さんもこんにちは。」


今日初めて会う陽子に挨拶を済ますと理子のもとへ朱里が近付いてきた。


「さっき偶然、監督に会って、それでそのまま部屋に連れてきてもらったの。」

「・・・・まさかその子が子守相手だなんて言わないよな。」


朱里の視線はそのまま椅子に片足をあげて座っているキムへと視線を移した。キムも入ってきた朱里に対し、遠慮ない視線を

直接ぶつけている。


そこへ別室にいた監督が通訳を介しながらも陽子と挨拶を交わし、理子たちのもとへと寄ってきた。


『朱里!久しぶりだな。今回、また君に会えるのを楽しみにしていたよ。』

『お久しぶりです。僕もまた会えて嬉しいです。』


そういうと二人は英語で会話を続けながら握手を交わすと再び理子へと視線を戻す。


『今回は私の息子も一緒でね、キムというんだ。理子に相手してもらえるというから一緒に連れてきたんだよ。』

「・・・キムって男の名前だったんだ。陽子さん、知ってたのに言わなかったんだな。」


独り言のように呟くとキムのほうへと視線をむけ質問する。


『君、何歳なの?』


理子の英語力は朱里に劣るが、それでも簡単な会話ならば聞き取ることができる。朱里もキムが英語はできないと事前に知っていたからなのか、ゆっくりとキムに向かって年齢を尋ねた。


『・・・・13。』

「13歳なのっ!?」

「・・・・なんで理子が驚くのさ。」


理子が思っていた年齢よりもはるかに若いと知った理子は思わず声をあげると、横にいた朱里が呆れたように言う。


だって翔くんと同じくらいかと思ったんだもん!


ひとりで声をあげてしまった理子は自分に言い訳するように心のなかで呟く。しかし理子が思うのも不自然ではないくらいに目の前の

キムは大人っぽかったのだ。


背も翔里が高すぎるくらいで、日本人の高校生くらいならば平均身長だろう。

しかしキムはまだ13歳、しかもデンマークだとまだ小学6年生である。確かに小学生ならば父親の仕事の間は子守が必要な年齢なのかもしれないと、理子は大人びた少年をまじまじと見ながら思っていた。


『理子、君だったらキムのいい遊び相手になってくれると思うよ。日本には以前から興味を持っていたから勉強もしていたとキムの母親も言っていたしね。』


キムの母親?さっき言ってたフランスにいる人かな。


少し微妙な監督の言い回しに理子はちらりとキムを見ると、何を考えているのかわかったかのようにぶっきらぼうに答える。


『普段は・・・お母さんと一緒に暮らしてる。今は休暇だから。』

『彼女とはキムが小さい頃に離婚していてね。彼女は今、フランス人と一緒にパリで暮らしてるんだ。』


キムの言葉に監督が説明を加えるように理子に喋りかける。妹がいるというのは今の母親の再婚相手との子供なのだろう。


「何言ってるのか全然わからないわ。すごいわね、理子ちゃん。」


今まで黙って会話を聞いていた陽子が感心したように理子に向かって話しかける。関係者や英語通訳のひとも同意したように、うんうん、とうなずいている。


すごいと言われても今の会話はただ理子が聞いているだけで、ほとんど喋ってはいない。

確かにマイナー言語ではあるが、どの言語でも喋るよりも聞き取りのほうが幾分簡単だということを理子は身をもって知っているために、どう答えたらよいのかわからず困ってしまう。


「理子、今日はいいけど明日は僕のためにあけておいて。」

「明日?明日は映画祭のオープニングだから朱里は参加するんでしょう?」


朱里が話題を逸らすように理子へと話しかける。

招待された映画の出演者など表舞台に立つ人々はオーディエンスの前のレッドカーペットを歩いて会場入りするのがこの映画祭の

イベントのひとつでもあることを理子は映画祭特集の番組をみていたことを思い出した。


「うん。一緒には会場入りできないけど中に入ったら近くにいられるように陽子さんが手配してくれてるって言うから。そうだよね、陽子さん。」

「ええ。関係者としてだったら問題はないでしょうし。それにそうでもしないと朱里は参加しないって言いそうなんだもの。」


冗談のような言い方だが朱里ならそれくらい言いかねないだろうと理子は朱里へと視線をむける。


「それは構わないけど。朱里、これから仕事なんでしょ?私は大丈夫だから。」


皆の視線が集まる中、個人的な話を長引かせるわけにはいかないと、理子は話を終わらせるようにすると朱里も理子の答えに満足したのか、わかったとだけ言うとキムをちらりとだけ見ると、そのまま監督たちと別室に向かった。






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