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桐生家のその後の事情。  作者: manics
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その後の裏事情。(朱里視点)

両手を理子がつぶれないようにと枕もとに沈めると、わずかに僕の体重をうけてベッドがぎしりと沈む。

まったく僕の存在に気がつかない理子に安心感と同時に少しの焦燥感が僕の心を揺らした。


最後に理子の寝顔を見たのはいつだっただろうか。

そうだ、あれは理子が病院で意識を取り戻さずに青白い顔でベッドに横たわっていたときだ。


ほとんど言いがかりとしか思えないような理由で理子は背中を刺された。

あの時に医者である悠兄がいなかったら理子は危なかったかもしれないと担当医と看護師の話を僕は聞いたときにぞっとした。


それは理子を失っていたかもしれないということもそうだが、自分自身に対してもだ。

人前に出る仕事を始めてから僕には大勢の人が僕を必要だと言ってくれるようになった。

けど、僕が必要なたった一人の人間を救うこともできないのに、それは何の意味を持つのだろうか。


理子が何らかの理由で僕の目の前から消えてしまうようなことがあるとすれば、僕は何の躊躇いもなく理子のあとを追うだろう。

だけれど、もし僕が先にいなくなるとしたら?


きっと僕は迷いもなく理子を一緒に連れて行く。


僕がいなくなったあとに理子が僕以外の誰かに笑いかけることなんて耐えられない。


自分でも見ないようにしていた暗い影に気づかされ、僕はそれを振り払うかのようにぎゅっと目を閉じた。


そのままゆっくりと顔を近づけていき、距離を縮めようと思った瞬間、僕の髪から拭ききれなかった水がぽたりと理子の目元に落ちる。



「・・・ん・・?」


その冷たさに寝ていた理子はぼんやりとした様子でうっすらと目を開ける。


やばっ、起きちゃった。


僕はぎくりと身体を強張らせるが、理子は目の前にいる僕がなんなのか分かっていない様子で

ぼんやりと僕を見ている。

その焦点があっているかどうか分からない瞳に真正面でとらえられた僕は、言葉を発することもできずにただ時間が止まったように

理子を見ていた。


それと同時に湧き上がる感情。


このままの関係を壊したい。

僕しか見られないように理子を縛り付けておきたい。


僕の両腕の下には恋焦がれる女性がいる。

このまま僕は熱に浮かされて、欲望のままに行動しろと頭の片隅で僕をそそのかす声が聞こえたような気がした。


だが、それも目の前にいる理子が一瞬だけふんわりと微笑んだようにして、また目を閉じたのをきっかけに僕はなんとか踏みとどまった。


きっと理子は今晩のことなんか寝ぼけて覚えてもいないのだろう。微笑んだのだって気のせいかもしれない。


僕はそっと上半身を起こすと、そのままベッドから立ち上がる。

部屋を出る前にもう一度振り返ると、理子はまた気持ちよさうに深い眠りについていた。


「おやすみ、理子。いい夢を。」


それだけ言うと僕は扉をあけて部屋の外へとでた。


「ぎりぎりだったな。」


扉を閉めると、その影に隠れるように壁に寄りかかっていた翔里が現れ、僕は驚く。


「・・・・いつからそこにいたのさ。」

「覗かれたくなかったら、ちゃんとドアを閉めるのを確認するんだな。」


僕の質問には答えず、翔里は壁から身を起す。


そういえばドアちゃんと閉めてなかったかも。いやいや、問題はそこじゃないだろう。


「何もしてないよ。しそうだったけどね。」


翔里の言うようにぎりぎりで踏みとどまった僕は、さほど僕と背が変わらない翔里の目を見る。


「する前に止めてたさ。わかってんだろ?」


確認というよりも警告のような視線で僕を見ると、持っていたTシャツを僕に投げる。


「悠兄には言わないでおいてやるから、さっさと着ろよ。」

「・・・・わかったよ。」


翔里が意味するのが、理子の寝室に忍び込んだことか、風呂上りに上半身裸で歩いていたことかはわからなかったが、僕はそれを受け取ると身に着けた。


そういえば翔里の部屋はバスルームの近くだったな。僕が帰ってきた時点できっと気づいていたんだろう。 


・・・・まったく本当に可愛くない弟だ。


僕はTシャツを着ると、自分の部屋とは反対方向にいた翔里を通り過ぎる。


「どこ行くんだよ、寝ないのか?」

「このままじゃ寝れないから頭冷やしてくる。」


これ以上、自分がおかしな行動をしないようにと僕は裏山でひと走りしてくる為に階段を降りていく。

しかしその途中で僕は翔里を振り返った。


「わかってるよね、翔里。」


理子は今も部屋でぐっすりと寝ている。僕と同じ感情を抱えた翔里を僕は牽制する意味で視線を向けた。


「・・・・理子には鍵かけて寝てもらうようにしなくちゃな。このままだと俺たちのほうが参る。」


翔里はため息交じりにそう呟くと、一瞬だけ理子の部屋に視線を移すも、僕のほうへと歩いてきた。


「山に行くんだろ?俺も一緒に行ったほうがよさそうだ。」


僕の考えてることがわかったのか、結局、その晩僕たちは裏山を競争して走る羽目になった。





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