第二話:『契約の代償』
天つ帝国——大陸最大の国家。東の海から西の山脈まで広がるこの大国の首都は空区——魔法の灯りで輝く都市であり、伝説の魔法学院「焔」(エン)があった。
ハルトが初めてソラクを見たのは、十一歳の時だった。
彼は入学の一年前にここへ来た。準備をするために。金はなかった——父のメダリオンと、ポケットの中の銅貨三枚だけ。彼は路上で寝、汗と絶望の匂いがする安宿で眠った。市場で荷物を運び、新聞を配り、安い酒場でコックの助手をした。すべてはただ一つの目的のため——エンに入学するために。
そして彼は入学した。
魔法学院「焔」への入学式の日は、晴れ渡っていた。
晴れすぎている、とハルトには思えた。空には雲一つなく、空気は正門を囲む花咲く庭園の香りで満ちていた。白亜の学院の壁は朝日を浴びて輝き、都市の上にそびえ立っていた。ここは伝説が生まれる場所。世界で最も偉大な魔法使いたちが最初の一歩を踏み出す場所。
そして天羽ハルトは、その偉大さの前に立っていた。
背中のリュック、古びた服、その瞳には決意が燃えていた。
彼はやった。
彼は入学した。
契約は機能した。老魔法使いは約束を守った——ハルトは正式な入学許可証を受け取った。誰もその仕組みを知らなかった。ハルト自身でさえ、完全には理解していなかった。しかし事実は事実だ。彼はここに立っていた。何百人もの他の新入生たちの中で、好奇と軽蔑の目に晒されながら。
——「おい、そこで突っ立ってるな。道を塞いでるぞ!」
後ろから乱暴な声がした。ハルトが振り返ると、高価なマントを着た三人の男が立っていた。三人とも名門の出のように見えた——気高い態度、傲慢な表情、そして何より、首にかけた魔法のアミュレットが放つ輝き。その力に空気が震えているのがハルトにも感じられた。
——「すみません」ハルトは静かに言い、脇に退いた。
彼らは通り過ぎたが、一人が立ち止まった。振り返り、ハルトをじろりと見つめた。白金の髪を持つ背の高い青年。鋭い青い瞳。そのマントには紋章が描かれていた——銀の竜が己の尾を噛む図。天つ帝国三大貴族の一つ、橘家の紋章だった。
——「お前……噂の契約者か? 魔力ゼロの奴だろ?」
ハルトは沈黙した。それが最善の答えだった。
白金の青年は嗤った。彼の仲間たちも笑った。
——「なるほどな……」 彼は近づき、ハルトの上に覆いかぶさった。 ——「よく聞け、ゼロ。俺の名は橘健四郎。我が家は帝国三大貴族の一つだ。俺はアルキメイジになる。塔を登る。そしてお前は……」
彼はハルトの耳元に口を寄せ、囁いた:
——「……ここにいる価値はない。お前はシステムのエラーだ。俺はお前を死なせるか、学院から追い出すために何でもする。ようこそエンへ、ゼロ。」
彼は背筋を伸ばし、ハルトの肩を強く叩いた。ハルトはよろめいた。彼らは笑いながら去っていった。
ハルトは動けずに立っていた。胸の内で何かが沸騰していた。拳を握りしめたが、答えなかった。できなかった。言葉は何も変えない。彼には力がなかった。彼は空っぽだった。
——「気にしないで。」
静かで落ち着いた声が横から聞こえた。
ハルトが振り返ると、そこには少女が立っていた。小柄で、黒い短い髪、温かみのある茶色の瞳。彼女は学院の標準的な制服を着ていたが、高価な装飾品はなかった。他の者たちとは違い、彼女はハルトを軽蔑の目で見なかった。むしろその瞳には……同情があった。
——「橘は有名ないじめっ子なの。」 彼女は続けた。 「彼の家系は、魔法は生まれつきの権利だと思っている。あなたのような人間は彼らにとって侮辱でしかない。でも、ここにはそうじゃない人もいる。」
ハルトは彼女を見た。
——「俺はハルト。天羽ハルト。」
——「知ってる。」 彼女は微笑んだ。 「あなたのことはみんな知ってる。魔法なしで入学した唯一の生徒だから。それは……不思議なこと。」
——「不思議?」
——「うん。あなたが使った契約は……古代のものだ。伝説がある。それを結べるのは、この世界よりも大きな何かと繋がっている者か、あるいは死を覚悟している者だけだって。」
ハルトは眉をひそめた。
——「どうしてそれを知ってるんだ?」
——「私は古代魔法を研究しているの。」 彼女は肩をすくめた。 「私は森里香。よろしくね、ハルト。エンで生き残りたいなら、橘とその仲間には近づかないこと。それから……」 彼女は言葉を切り、何かを考えているようだった。 「……気をつけて。学院には、あなたの契約についてもっと知っている者がいる。」
彼女は振り返り、立ち去った。ハルトは困惑したままその場に立ち尽くした。
入学式は学院の大講堂で行われた。
天井の高い広間だった。壁には古代の魔法使いや悪魔との戦いを描いたフレスコ画が施されていた。広間の中央には祭壇があった——柔らかな青い光を放つ巨大な透明な水晶球。
すべての新入生は派閥ごとに列を作って立っていた。
火の派閥——赤いマント。
水の派閥——青いマント。
風の派閥——緑のマント。
地の派閥——茶色のマント。
雷の派閥——黄色いマント。
闇の派閥——黒いマント。
ハルトは一人で立っていた。彼には派閥がなかった。選べなかったのだ。属性テストに合格する必要があったから。しかし彼のテストはただ一つの結果しか示さなかった——虚無。
彼は学び始める前から、すでに仲間外れだった。
学院長が壇上に上がった。
長い白い髭を生やした背の高い老人。その瞳は鋭く、すべてを見透かすようだった。彼の声は、穏やかに話しているにもかかわらず、広間中に響き渡った。
——「新入生諸君、魔法学院『焔』へようこそ。君たちはこの世界の未来だ。人類を守り、塔を探索し、新たな高みに到達する者たちだ。しかし忘れるな——魔法は力だけではない。それは責任であり、犠牲でもある。もしその覚悟がないなら、今すぐ去れ。」
広間に静寂が訪れた。
学院長は生徒たちを見渡し、ハルトのところで視線を止めた。一瞬、彼らの目が合った。ハルトは奇妙な感覚を覚えた——学院長が自分についてすべてを知っているかのような。契約について。過去について。内に隠されたものについて。
しかし学院長は何も言わなかった。ただ頷き、続けた:
——「今年は変わった入学者がいる。魔法を持たず、古代の契約によって入学した者だ。多くの者が不満に思っていることを私は知っている。しかし覚えておけ——彼がここにいるということは、それなりの理由があるのだ。君たちにはまだ理解できない理由が。」
広間にざわめきが走った。ハルトは何百もの視線を感じた。好奇心を持つ者もいれば、敵意を向ける者もいた。
——「では、これからクラス分けを行う!」 学院長が宣言した。
ハルトは最弱の生徒が集まる「Aクラス」に配属された。
そこには最低限の魔力しか持たない生徒たちがいた。しかし彼らでさえ、基本的な魔法を使うことができた。ろうそくに火をつけ、石を持ち上げ、弱い風を起こすことくらい。
ハルトには何もできなかった。
彼は一番後ろの席に座り、魔法理論の講義を聞きながら、教授の言葉をすべて覚えようとしていた。それは簡単だった——彼は多くの教授よりも理論をよく知っていた。しかし実践は……
——「天羽くん。」
教授の声が彼の思考を遮った。
「前に出てきなさい。何を学んだのか、見せてみろ。」
教授——鋭い目と薄い唇を持った男——はハルトを嘲るような目で見ていた。彼の名は佐藤。厳しさと弱い生徒への嫌悪で知られていた。
ハルトは立ち上がり、前に歩み寄った。彼の前に置かれたのは、単純な水晶——基礎魔法を測定するためのものだった。
——「水晶に触れて、魔力を注ぎ込め。」 佐藤は嗤いながら言った。 「もしあれば、だが。」
教室が笑い声をあげた。
ハルトは深く息を吸い込み、水晶に触れた。
何も起こらなかった。
光も、熱も、反応もない。水晶は冷たく、死んだままだった。
佐藤は大げさにため息をついた:
——「やはりな。天羽くん、席に戻れ。そして、他の生徒の邪魔をしないでくれ。お前の存在自体が学院に対する侮辱だ。」
生徒たちは笑った。誰かがハルトに向かって紙を投げた。誰かが大声でささやいた——「ゼロ」。
ハルトは席に戻った。拳を握りしめた。血がこめかみで脈打っていた。彼の内側で何かが震えていた——暗く、古く、飢えた何かが。
彼はそれを抑え込んだ。
今じゃない。
ここじゃない。
授業が終わり、ハルトは学院の中庭に出た。
彼は塔を見つめた。ここからでも見えた——空へと伸びる黒いシルエット。頂上で、ユキが待っていた。
彼は誰かに近づかれるのに気づかなかった。
——「ゼロ。」
聞き覚えのある声がした。
「何を見ている? お前が絶対に到達できない場所を?」
橘健四郎が仲間たちと共に立っていた。彼の背後にはもう一人の姿があった——長い銀髪の背の高い少女。冷たい青い瞳で、ハルトを無感情に見つめていた。その視線には危険が潜んでいた。
——「こちらはソラだ。」 健四郎が紹介した。 「俺の婚約者。秋山家の出だ。三大貴族の二番目だ。彼女がお前を監視する。もし少しでも早く塔に近づこうものなら……彼女がお前を氷にしてやる。」
ハルトは黙って彼らを見つめた。
——「俺は何もしていない。」彼は静かに言った。 ——「何がしたいんだ?」
健四郎は嗤った:
——「お前が消えることだ。学院はお前のような者のための場所じゃない。だが、お前がここにいる限り……俺たちはお前の人生を地獄にする。自分の立場を理解するために。」
彼はハルトの胸を押した。ハルトはよろめいたが、倒れなかった。
——「弱いな……」 健四郎は嗤った。 「立つことさえできやしない。まあいい。楽しめよ、ゼロ。訓練場でまた会おう。」
彼らは去っていき、ハルトを一人残した。
彼はその背中を見送った。胸の内で再び闇が沸き上がった。彼は必死にそれを抑えた。
——「耐えろ。」彼は自分に囁いた。 ——「耐えろ、ハルト。彼女のために。」
夜、全員が寮に戻った後、ハルトは老魔法使いのところへ向かった。
彼はソラクの郊外に住んでいた——廃墟と化した家で、むしろ瓦礫の山のように見えた。
——「来ると思っていた。」
ハルトが入っていくと、老人は言った。
「初日はきつかったか?」
——「お前は警告しなかった。」ハルトは静かに言った。 ——「俺が仲間外れになるって言わなかった。」
——「何が変わった?」 老人は嗤った。 「お前はそれでも行っただろう。お前は頑固すぎる。それがお前の呪いであり、祝福でもある。」
ハルトは古びた椅子に座り、床を見つめた。
——「教えてくれ……」彼はゆっくりと口を開いた。 ——「俺の中に隠れているものは何だ? 怒ると何が起こる? 感じるんだ。何か暗いもの。何か巨大なもの。それは何だ?」
老人は沈黙した。その瞳が暗くなった。
——「言えない。」 彼は答えた。 「まだ時期じゃない。しかし……一つだけ言える。お前はただの人間ではない、ハルト。お前は器だ。お前の中には、何千年も前に消滅した何かが封印されている。もし早すぎる目覚めさせれば……お前はすべてを破壊するかもしれない。」
ハルトは顔を上げた:
——「どうすればいい?」
老人は微笑んだ:
——「学べ。耐えろ。待て。お前の時が来るのは、塔を登る時だ。それまでは……しっかりしろ。そして誰も信じるな。」
老人は一旦言葉を切り、囁くように続けた:
——「それから、ハルト……学院にはお前の契約を知る者たちがいる。全員が敵というわけではない。しかし中には……非常に危険な者もいる。特に闇の派閥の者たちだ。彼らはお前を感じている。」
ハルトは震えた:
——「どういう意味だ?」
——「感じているんだ。」 老人は繰り返した。 「お前の闇を。彼らはそれを探している。そしてもし彼らがお前が本当に誰なのかを知れば……お前が目覚める前に、殺すだろう。」
ハルトは老魔法使いの家を出た。
空には最初の星が輝き始めていた。彼は遠くを見つめた——地平線の彼方にそびえる黒い影。
塔。
そこに、頂上に、ユキが待っていた。
——「行く。」彼は囁いた。 ——「何があっても行く。」
彼は振り返り、寮へと歩き始めた。誰かの視線を感じながら。誰かが彼を監視していた。闇の中から。影の中から。
彼は振り返らなかった。
もし振り返れば、自分が最も恐れる者を見てしまうことを知っていた。
彼の秘密を知る者を。




