ソルベル王国
「え、誰?」
武神さま経由で、フェリシアの手紙が届いた。
中身を読んで、思わず「え、だれ?」と声が漏れたのは仕方ないと思う。
いや、本当に。
普段の甘え口調と、手紙の文体が全然重ならない。にしても――
「年を追うごとに加護者が減っていると嘆きつつも、バッジ王国では、【加護の儀】を商売にしてるだなんて……」
執り行う年齢は定められていないものの、【加護の儀】は神々の器たりえる人材を探すための儀式だというのに、金銭の授受が成立しないからとそれを拒むとは……まったくもって、不遜が過ぎる。
フェリシアが儀式を執り行ったとはいえ、四人中二人も加護者がいることを考えると、小銭稼ぎに夢中になるあまり、多くの加護者を取りこぼしているのだろう。
アホかと大声で叫んでやりたい気分になる。
「手紙、なんて?」
「読んでいいよ、ロイ」
渡された紙面に目を落としたロイが小さく「え? だれ?」と呟いた。
ホント、ソレ。
「師匠がいないから大丈夫だろうとは思ってたが、まさかお嬢の【お庭】に居たとは……」
「まあ、おかげで少しは安心できたけど」
「だなぁ」
苦笑を交し合い、一呼吸おいてから真顔で話を切り出した。
「正直な話、現状はただの客人だからね。僕に何の権限もないことは分かっているけれど――」
「どこまでやりたいんだ? 坊ちゃん」
「とりあえず、実行犯は自滅するから放置で」
「ああ……神子に手を出したんじゃ、必然的に神々を敵に回したも同然だからな」
そう。神々がそっぽを向いた時点で、授かった素養はすべてガタ落ち。
どんなに素晴らしい腕前を誇る剣士だったとしても、あっという間に凡夫に成り下がる。あとから努力で身に着けた技能も同様で、加護者であってもそれは変わらない。――というか、神々の加護を失うから一般人よりもその反動は大きいだろう。
「誘拐組織を一網打尽は無理かもしれないけれど、しばらく行動が困難になる程度の報復はしたい、かな」
報復もそうだけど、バッジ王国の大神殿から出る口実にしてやりたいのが一番の理由だ。
「不当に囚われていたのを助け出したのだから」と恩着せがましく言って、ほぼ無理やり連れ込まれたんだよね。で、歓迎の宴だの土地神さまへ拝謁してほしいだのとまぁ、こちらの意思を無視してくれている。
ホント、ヌッ殺すぞ、クソが。
同族殺しは神に背く大罪だけど、心の中でなら八つ裂きにしようがメッタ刺しにしてやろうが自由だからね。
もう、大神官の惨殺死体が脳内からあふれそう。どうせいっぱいにするなら、汚いおっさんの死体よりもフェリシアの笑顔の方が嬉しいのに。
「あとは、大神官を挿げ替えたい」
「……そりゃまた過激なことを。まさかとは思うが、資格を喪失してたり?」
「すでに愛し子じゃなくなってると思う。纏う神気がとても薄いから」
ロイが渇いた笑いを漏らし、肩をすくめる。
ブラン王国ですら、伝統に則って毎年形ばかりながらも大神官認定の儀式は執り行っていた。身に纏う神気が最も濃い神官が任命されることになっているんだけど――アレが選出されるなら、儀式そのものをやっていない可能性が高い。それか、何らかの方法で八百長を成立させてるか。
「なら、土地神さまにお力添え願うとか」
「それをやると、僕がこの大神殿を引き受けさせられる気がする」
「おお、それはダメだな」
「無いでしょう? まあ明日、土地神さまとお会いしたあとで、国主殿との面会を取り付けてみようか」
【駆け出しマーケット】のシステムが運用されてることを考えると、国のトップはまともなんじゃないかと希望が持てる……気がするし。
なによりも、フェリシアからの報告の形を装った、誘拐被害者の受け入れ要請もしなきゃいけない。
「国主殿との会談次第で、報復と脱出の両方が通るかもしれないし」
「ああ……、大神官のやつ、権威には弱そうだしな」
「そうそう。そんな感じがするよね」
「坊ちゃんに媚びてくるあたり、すごくな」
アレは、ブラン王国の大神殿長の舐めまわしてくるような視線と同レベルでキモイ。
あと、僕が若いからって、バカにしてるのが透けて見えるのが腹立たしいんだよ。
「フェリシア以外に媚びられるの、すごく気持ち悪いんだけど」
「坊ちゃんはちょっと、シスコンが過ぎると思う」
だって、フェリシアが可愛い過ぎるんだから仕方ないでしょう。
「……はぁ。フェリシアに会いたいなぁ……」
フェリシア、にぃに。心配過ぎて禿げちゃいそうだよ。




