にぃににご相談
マルコから聞いたことを話し終わると、にぃにはしばらく目を閉じて、何かを考えている。
【鍜治場】に新しく出来た工房で調薬にはげんでいたのに、ちょっとめんどくさそうな話を持ってきて悪かったかなぁと思い始めたところで、にぃにの目が開いた。
「まず、確認したいんだけど」
「うにゃ?」
確認、とは?
「フェリシアが僕の立場だったら、マルコにどう答えてた?」
ソレはたぶん、わたしに最終決定権があるならってことだよね。
「『馴染みのない相手を懐に入れることはできない』って答えてたと思う」
「そう。その言葉は、僕が言えば納得すると思うけど、フェリシアが言っても説得力がないよ」
「え、なんで?」
「だって、フェリシアは前科があるからね。初対面で馴染みにない相手を、【お庭】という手持ちで一番伏せておくべき場所に引き入れたでしょう」
う。
アレは、そう、アレです!
「緊急事態だったので、つい」
「その時々の状況があるからね。言い訳しなくても僕は理解できるけれど、ダニーロは納得しないでしょう。『自分たちと同じように保護してもらえる』と思って相談してくるだろうから」
「たしかに……」
でも結局、奴隷船に居た子を全員、バッジ王国の迎えの人に引き合わせることってできなかったんだよね。
二人ほど、ハテノナカ村でお別れしたので。
「そもそも、その子たちが貧困に苦しんでいるのか、孤児なのかも分からないからね。保護するしない以前の問題でしょう」
「おお……」
たしかに。
ただ、遠くから物欲しげにテイクアウトコーナーを見てるってだけだったね。
「なので、まずはどんな環境の子かを確認する必要があると思う」
「ついでに、にぃにはわたしたちが世話をするべき対象じゃないと思ってるってことだよね?」
「当然でしょう。まだ、マルコたちだって受け入れ確定じゃないんだから。まずは、マルコたちを完全に受け入れることを決定してから次を考えるべきだし――増やす必要も別にないんだから」
貧困に苦しんでいるなら、神殿で炊き出しにならぶべきだし、そもそも日銭を稼ぐ方法を捜した方が良い。
孤児なら、まずは神殿の孤児院に入るべき。定員オーバーなら、役所なり王宮なりに相談する。
というのがにぃにの考えらしい。
まあ、わたしもにぃにたちと会わなかったらそうしていたはずなので、順当な手段だよね。
「ぶっちゃけるとさ。マルコたちだって、すでにそれぞれが『お金を稼ぐ』というだけであればそれなり以上に稼げるようになってるからね」
「……どうしても保護したいって言うなら、自立して勝手にやれ、と」
「フェリシア、言い方……」
引きつった笑みを浮かべるにぃにに、「ごめん」と苦笑を返す。
たしかに修練場での話を聞いた限り、マルコは村や町から遠く離れないなら狩人として問題なく身を立てられる。
カルロだって、狩人が厳しいようなら針子さんで食べて行けばいい。
むしろ、そっちが本分だよね。縫製神さまの愛し子なんだから。
ただ、ここ最近の様子を見る限り、パルミラちゃんから離れたがらないだろうなぁ……
パオロも魔石神さまのご加護のおかげもあり、魔石師として十分な能力がある。
魔石は通貨の代わりに使うこともできるんだから、『生きてる造幣機』と言えなくもない。魔石を作っていれば、食いっぱぐれることはないと言っていいと思います。
ダニーロ自身だって、呪符神さまの愛し子だ。
呪符だけでなく、魔道具もきちんとした性能のモノが作れるようになっているからね。よっぽど変な立ち回りをしない限り、生活に困ることはないはずです。
「いや、ダニーロなら実行できるんだな~と気づいちゃっただけ」
「まあね。でも、今のあの子に出来るのはお金を稼ぐことだけでしょ。悪い人に安く使われて、燃え尽きる可能性の方が高いよ」
「マルコとパオロが着いて行けば、ワンチャンあるのでは」
マルコは子供たちの面倒を見慣れているだろうし、パオロがいれば魔道具作り放題だからね。
ダニーロひとりじゃ、ちょっと難しいかな……?
それこそ、魔道具を作っても買いたたかれてしまいそうなので。
「パオロは知らないけど、マルコはこっちに残るよ」
妙な確信をもった口調でにぃにはため息をついた。
「万が一、なにがなんでも保護したいと主張するなら、ここの大神殿に入ってもらうのが一番いいと思う。孤児院も併設されてたし、少人数なら従者としてそばにおけるはずだからね」
「ソコまで話が飛ばないと嬉しいなぁ……」
こう――肉串と引き換えに、葉皿づくりに励んでもらう的なアルバイトなら、いくらでもご紹介できるので。




