第1話 降臨
遥か昔、一人の女神が"世界"を作った。
それは誰もが知っているであろう"剣と魔法の世界"なのだ。
一つの大陸を基礎とし、六つの国がそれぞれ特有の文化を持ち共存していた。
中には、価値観の違いから争いが生まれたり、国の中で独立運動が起きたり、まあ色々あった。
─そんな世界を、女神はたった一人で見守っていたのだった。
「"私はフォルトナ!この世界を作りし女神じゃ!"…うーむ、何か違うな。
"我が名はフォルトナ。この世界を創造せし女神である!"…やっぱり最初のがいいな。」
彼女は女神フォルトナ。天界にたった一人で住んでいる。天界と言っても、深い闇のように暗く、恐ろしいほど静かなのだ。
ちなみに彼女は数千年を生きているが、その姿は美しさが保たれている。これは"長寿の証"によるものらしい。
「せめて話し相手くらい欲しかったのう…
そんな事より、私はこんな退屈な日々を一生過ごすというのかっ…!」
彼女は世界を作ってから数千年間、このおぞましい天界で地上の様子を見守り続けていた。
ただ見守るだけで、地上とは何かしらの干渉がほとんどなかった。
「ここに居てもただ眠るだけ。気がついたら"眠りの女神"になっておるかもしれんな。ううむ…」
─この時、彼女は思った。いっそ自分が作った世界に行ってしまえばいい、と。
「いや待てよ…私が作った世界なんだし、見守るか否かも自由だよね!
よし、降りよう。」
フォルトナは決断するとすぐ行動に移すタイプであった。
「地上はどんな景色が広がっているかのう?
とにかく楽しみじゃな!」
─地上に降りた矢先、問題が多発した。
「…うむ、ここはどこじゃ?」
フォルトナは地理を一つも覚えていなかった。
むしろ「はじめて」だった。
「なんだか視点が低いようじゃが…って、
私の"長寿の証"どこー!?」
そう、"長寿の証"は俗に言う「エルフ耳」だった。
フォルトナは、どういう訳か重力のせいで幼女のような姿になり、おまけにエルフ耳が無くなり、ごく普通の幼い人間のようになってしまったのだ。
「そこの嬢ちゃん、こんなとこで何してんだ?」
行商人の男が話しかけてきた。
「む、私を誰だと思っているのじゃ?
私はフォルトナ!この世界を作った女神様じゃ!」
「…あの女神フォルトナ様なのか?まさかね。
この辺はごろつきが多いから、連れてかれないように気をつけなよー。」
「(…あれー?私女神なんですけどー。幼女のように扱われてるんですけどぉー!)」
フォルトナが転移してきた場所は国境近くの野営地だった。
そこで、近くの町や国についてを聞いて回った。
「ここはベリアル王国近くの騎士団が管理している野営地、か。最近ごろつきが増えてきたらしくて、何だか忙しいようじゃな。
天界に居た時とは全く違うなあ。」
「それにさっきの商人の男は、私が女神であることを理解しておらんかったな…
仕方ないが、人間としてやっていこうかの。」
騎士団の人間らしき人が来た。
「そこの嬢ちゃん、ちょっといいか?」
「おっと、私の事は"フォルテ"と呼ぶのじゃ!
(あらかじめ偽名を考えておいて良かったのじゃ。)」
「では、フォルテ、こんなところになぜいる?家はどこだ?家族はいるのか?」
「えっと、それはー…
(まずいっ…めんどくさくなってきたのう。)」
「…ともかく、一旦俺についてきてくれ。安全なところに送ってやる。」
フォルトナは、ベリアル王国の宿屋に連れていってもらった。
「ほほう!中々に豪華な宿屋じゃのう。」
「ここはベリアル国王お墨付きだそうだ。
俺も度々ここに泊まりに来ている。」
その後フォルトナは、その男と食堂に行き色々話をしてもらった。
男は騎士団の副団長をしているそうだ。最近は国境の警備に忙しく、実家に帰る機会が少ないらしい。
「そういえば、フォルテはこの後どうするんだ?あと、これをやる。」
「ん?"500レル"?これは食べ物かの?」
「違う!それはお金だ。それぐらいあればある程度の装備品は買えるぞ。」
─この大陸での共通通貨は「レル」。
1レルは日本円で150円分である。
フォルトナは食料や装備品、アクセサリー等を買って回った。
「ありがとうなのじゃ!」
「くれぐれもごろつき共には捕まるなよ。」
「初めての買い物とは中々に面白いものじゃな!あの騎士団副長は優しかったし、降りてきてよかったー!
孤独のままあんな空間に居続けたらトチ狂ってしまうわ!」
フォルトナは今夜、初めてのふかふかベッドで熟睡した。
それはもう、すごく熟睡した。
「─もう13時じゃと…?
なんてことじゃぁ!貴重な半日を無駄にしてしまったーっ!」
遅めの朝食を食べたら、ベリアル王国内の図書館に立ち寄った。
「ま・ほ・う!それはこの世界でいっちばん大切な存在じゃな!
人間が作りあげてきた魔法はどのように進化しているかの?」
─この世界での魔法は様々である。
水や火といった属性魔法で生活を支えたり、
特殊魔法でバフやデバフを付与したり、
他にも多種多様な魔法が形作られている。
「私がここに降りてきたのは"転移魔法"によるものじゃな。いつでも天界に帰ることはできるが、戻ることはないのじゃ!」
色々見て回っている中、フォルトナが目に止まった本があった。
「"時間操作魔法"?」
「ん?その本が気になるの?小さいのにセンスあるね。
私はエリー。ベリアル王国直属の魔道士だよ。」
「(なんじゃこの者はっ、また小さい呼ばわりか!しかも魅力的な雰囲気に溢れておる…!妙に悔しいわ!)
そうじゃ。時間を操るのは面白そうじゃからな!」
「…良かった。」
「うむ?何がじゃ?」
「いや、なんでも無いよ。その魔法が使えるように頑張ってね。
(あの子は純粋だった。悪に染まらないといいのだけれど…)」
─こうして、世界を作った女神は、自分の退屈な使命を放り出して、幼女として地上に降りてきたのだった。
それは同時に、彼女の自由な旅の始まりでもあった。




