プロジェクトの目的地
その日、社長の呼び出しを受けたアタシたちを待っていたのは、見覚えのあるものだった。
「あの時のクモの巣の死体か。」
あれからしばらく経って、大分干からびている。
人間の違いはまだはっきりと判らないが、アタシたちにとって覚えのあるものだった。
「巣のクモはまだ見つからないのかい?」
肉をかじっているアキサダを見つけ、アタシは声をかける。
「姿を確認したが、あまり姿を見せん。他に巣があるのだろう。」
「なんだい、獲物を見つけて黙ってたのかい。」
アタシも肉にかじりつく。社長はこの遺体の異様さに気付いてるんだろうか。
「ナッキーには伝えてある。」
アキサダは自分からは獲物に手を出さない。
ナッキーから伝わってないという事はまだ調べているんだろう。アキサダが肉をかじる隣でアタシも仕事に精を出す。
「一番向こうの遺体。キノコの群生場所にあったものだ。」
「そうだね。いよいよだと思いたいねぇ。」
あの中から、社長たちが気付くだけのキノコが掘り出せれば、きっと話は進むだろう。
目の前のクモの爪痕も気になるが、アタシたちにとって今回の仕事のヤマだろう。
「ハルタ、もう大丈夫かい?」
大仕事が始まる前に、その姿を見かけて声をかける。
あの厄介な死骸の直後はどこか様子が怪しかったが、今ではもうその素振りはすっかり元通りに見える。
「俺の心配より、フユミ、お前こそ大丈夫か?」
「何がだい?アタシに何かおかしなところでも?」
羽も甲羅も、体のどこもおかしくはない。ハルタの目は何を見てるのだろうか。
「大きな仕事の前は、お前はそうやって皆の様子が心配になる。」
ハルタは見向きもせずに口を打ち付け、溢れた汁をすすっている。
「大丈夫だ。俺たちを信じろ。俺も信じる。」
アタシの心は筒抜けだという事を、アタシは信じたくない。
そういう心まで分かってくれているのだろうか。
ハルタのこういう所は、自分の世界に入りがちなナッキーや、口数の少ないアキサダと違って、アタシとしてはやりづらい。
ハルタには敵わないと思ってしまう部分だ。
「行くぞ。」
頃合いを見計らっていたように、ハルタは死骸から飛びのいて、本命へと向かっていく。
アタシは心配だった。あの日、あの場所。
いくらキノコを片付けなきゃならないとはいえ、あそこまで大事にしてしまった事を。
折角、社長にも知らせられるほどのキノコを見つけたというのに、それを台無しにしてしまったのではないかという不安。
アタシにあるのは、どうにもその不安が、アタシ一人に背負いきれそうにないらしい恐怖だ。
獲物を探す時、生きるのに精いっぱいだったあの頃、覚悟を決めきれないそういう時はアタシにもあった。
そういう時のしぐさや心を、ハルタは察している。バレている事も含めて恐怖なのだ。
アタシが下手を打つことで、仲間の皆が困ったことになる。
それが怖い事だってある。
けどそれ以上に、そんな時に真っ先にアタシをフォローするのはそれに気づいているハルタだろう。
ハルタが真っ先に、割を食うだろう事。
それが、不安を恐怖に変える、一番の肝だ。
腹を決める。
そんなハルタを飛び越して、一番に不安を食い破ればいいだけの話だ。
アタシの下手はアタシが拭えばいい。
ハルタが、ナッキーが、アキサダが、割を食わないように、アタシが腹を括ればいい。
そのための準備、そうならないための準備を、連中がしてくれているのを、アタシは信じる。
「行くよ!キノコを掘り出すんだ!必ず見つけるよ!」
アタシは飛び込んでいく。キノコの群生だった名残は、見た目には残っていない。
いの一番に飛びついて、噛り付く。
もう肉とすら言えなくなっている感覚。けど確かに、その肉の下にはキノコを感じる。
不安が少しずつ晴れていく。期待が少しずつ頭を出してくる。
噛り付いたその口に、キノコを感じるたびに、少しずつ少しずつ。
肉を食い破るというより、土を崩す作業に近かった。
実際、口に入って腹に収まるものよりも、キノコの気配を辿って潜っていくのに他ならない。
アタシは力の限り、掻き進んでいく。
「キノコだ!出たぞーーー!」
アタシの潜る先だろうか、横だろうか。誰の声かわからないが、確かにそう聞こえた。
アタシはその声の方へ必死に掻き進む。
乾いた肉を掻き、肉から染み出る汁に手足が滑ろうとも、肉を噛み千切って掘り進む。
そして、たどり着く。
キノコの何処かに違いない、生き物の肉と明らかに違う、その感触。
「でたぞーーーーー!気をつけろー!」
アタシは叫ぶ。近くを掘り進めていた仲間が様子を見に集まってくる。
「大きいな。」
掘り返されたキノコの一部を見てハルタが声を上げる。
ハルタが声を上げるのを聞いて、さっきの声がハルタのモノだった事に気付く。
後はこれを社長に届けるだけだ。これで社長はキノコの存在に気付いてくれるだろうか。
アタシたちは不安と期待が入り混じりながら、その巨大なキノコをただ見上げている。
「助かったよ。」
アタシは、その場の誰にもバレれないように、でも気づいてもらえる気がして、小さくつぶやいた。
キメナよりゲーム開催のお知らせ。
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