何事も無かったことにできる物はラスボスの一歩手前で拾えますか?
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「何か言うことは?」
「遅くなってすみませんでした」
「朝から胃もたれがしそうなくらいにベタベタするな」
「いやあ本当に申し訳ないです」
謝るだけで改善はしない。今回だってそうだ、朝から心臓がテグスで絞められた様な痛みがした。
やはり元が兄だから異性として見れないのか? 俺のどこが悪かったと問えば「兄妹」と返ってくるだろう。
俺がこの世で一番マキナのことを知っていると心のどこかで自負していたのに、気がつけば彼女の隣には「婚約者」がいた。
「早く来ないともう一人の婚約者が悲しむぞ」
嫌味ったらしい言い方になってしまった。こういう所が駄目なのだ、嫌われた気がする。
するとマキナは少し馬鹿な顔をして、空気を吐くくらい自然に言う。
「レヴィアのこと?」
「……は?」
「冗談ですって、そんなに怒らないで下さいよ」
顔に熱が集中していく。熱い、恥ずかしい、嬉しい……本人は冗談のつもりだったらしいが。ぬか喜びをさせるな。
もしかして本気にしてました? なんて、俺の反応も冗談だと思っているらしい。そんな訳ないだろう。
「ああもう、ほら、早く支度をしろ。あんまりもたもたしていると餓死する」
「私どれだけ遅いんですか……」
「夜、ずっと地図を見ていた。今日はここの辺りなら行けそうだ」
「そうなんですか!? 無理しなくても……嬉しいけど、それでレヴィアが疲れたら」
お前のためになるなら疲れることも嫌になることも無い。お前が好いていてくれるなら、何事も苦にはならない。
しかし、俺はそれをノアやへライトの如く真顔で言える訳もない。恥ずかしくて堪らない。
「そんなに何時間も費やした訳ではないからな、変な気は遣うな」
「――私はずっと、兄様としてのレヴィアしか見てませんでしたからね。今のレヴィア自身のことは一切知りませんよ」
「つまり何が言いたい」
「何があってもすこーしだけ自己責任入るよってことです」
「酷いな」
そんなこと言われたら愚痴が惚気になってしまうではないか。しかも無自覚、責めるに責められない。
至極真っ当なことを言っていると思っているのか、本人は至って真面目な顔をしていた。冗談の様な所は本気なんだな。
だが、兄としてではなく、ちゃんとした異性として見てくれていることがこの上なく愛しくて仕方がない。
「お前の幼馴染に生まれ変われることを願っているよ」
「今なっても誰も分かりはしませんよ! …………なんて」
そうか、どうせあの国には結構な間戻らない。
マキナのおどけた顔を見ていると、今だけ全てが許されている気がした。
右腕を引っ張って、首筋にある誰かが付けたであろう噛み跡を忌まわしく思いつつ、喉に吸い付いた。この印が永遠に消えなければいいのに。
「――えっあっ、あの」
「出発するまえに、もっとちゃんとその腕の傷の処置をしないとな」




