救済は棚から拾えますか?
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よくよく考えれば、二人のことは心の中で呼び捨てにしていた。元はゲームのキャラクターだったから。
それこそ考えてみれば不思議なものだと思う。憧れていた二次元も、入ってしまえば顔面偏差値の高い三次元。
「ペラッペラの紙じゃないもんねえ」
「何がですか?」
「なんでもないです」
「マキナ様が何でもないと言うときは大抵何かありますけどねえ?」
……ぐう、とお腹が鳴った。私の体曰く、ぐうの音も出ないという訳ではないらしい。
急激に空腹感が舞い降りてきた。確かに、今日は何も食べていなかったな、酸素と水くらい。
ああ、でも、人に聞かれると恥ずかしい。澄ました顔はできないし、オーバーリアクションも痛々しい。
「お腹空いたんで私、何か食べてきます」
「私が作りましょうか?」
「ヘライトは万能な子なんですね、私には勿体ない」
「それは褒め言葉ですか? 私との距離を置きたいのですか?」
どうやら言ってはいけないワードが含まれていたらしい。まあ、「私には勿体ない」だろうけどさ。
ヘライトの脳内では
「私には勿体ない、自分にはもっといい人がいる、その人と付き合え、自分は捨てられる、ノアと私が結ばれる」
という風に消化されたのだと。
「勿論褒め言葉ですよ、何があってもヘライトとノアは手放しませんから……あと、レヴィアも?」
「ヘライト様ばかりいいなあ……」
「今までノア様が独占してきた分です」
「こんなに独占してないと思うのですが」
ノアにきゅっと抱きしめられた。抱きしめ抱きしめられ、抱きしめることがコミュニケーションの一つとなった。
しかもそれだけではなくなった、抱きしめられたかと思ったら首筋に唇を押し当て、私がさっきやったようにキスマークを……。
元推しに、キスマークを。前まできゃあきゃあ言ってきた推しに、キスマークを付けられた。
「何かないと誰かに取られますもんね」
「――は、や、なんで、今?」
「何事も私が先ではないと気が済まないので」
満足したのか、少し自慢気な顔でへライトを見るノア。ヘライトはかなり苛ついている様だ。
でも、空腹が一番だ。腹が減っては戦ができぬと言う。腹が減っては二人の相手は務まらない。
そっと部屋を出た、ヘライトが作ってくれるみたいだけど……少しお菓子食べたっていいよね、少しで終わらせるから。
「チョコレートがあった筈なんだけどなあ」
「何をしてるんだ」
「ああっと……に、レヴィアではないですか、甘い物が食べたくなったんです」
「甘い物か。……飴ならあるぞ、要るか?」
ほら、と言われ掌に乗せられたのは可愛らしい色の飴。何故兄様はこれを持っていたのか。
結局ありがたく頂くけど。別にチョコレートじゃなくていい、ただ甘い何かが欲しい。
「ありがたく貰います」
「待て、その前に一つ聞きたいことがある。……首にあるそれは何だ?」
「――――なんでしょうね、さっぱり分かりません」
そこでやっと、甘い物に釣られていたことに気付いた。私は急いでキスマークを隠そうとしたが、レヴィアに遮られた。
私は一難去ってまた一難法則に従い、今度はレヴィアからの質問攻めを受けることになったのだった。




