体力って隠し通路の先で買えますか?
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「今日は起きるの遅かったですね!」と悪気のない笑顔で放ってきたイロナ。もう一度言い聞かせておく。彼女に悪気はない。
「お嬢様方、起きない時は本っ当に起きないですもんね! 大変ですよお!」
……彼女には悪気も邪気も不純物もない。
「マキナ様、早く行きましょう!」
クマは完全に消え、極々普通の美形になったノアが腕を引っ張ってきた。
段々と自然体になってきている彼らは、ずるずると無くなっていった時間を表す時計のようだ。彼らがゆっくり心を開いた分だけ、私はだらだらしてきたのだから。
「お嬢様どこかお出かけですか? 気をつけて下さいね! 何があるか分かりませんから!」
ええ、ええ、重々承知しておりますよ。なんてったって夢の中、と言うことにしよう。そこでは魔女さんですから。
心配そうに母がこちらを見ている。仲間になんてしないけれど、心配されなくたって自分自身が一番心配してるから。
「行ってきます……」
「そうだ。マキナ様、今日は少し遠出しましょう。私達の国には」
「行かない方がいいでしょうね……あれ、徒歩ですか」
「大きな馬車では行けない所ですから」
ふうん。としか言えないな。遠い国なんて少ししか攻略してなかったから。
推しの笑顔をスクショしまくってたらここに来たと言っても過言ではないと思う。
――あ、いつの間にか置いてかれていた。動きやすい服を選んだ……つもりだったけど。
「早く行きましょう。誰かに見られては困ります」
「そっか、王子ですものね」
一応、と付け足す。『王子』と呼ばれるのはどれだけ経っても嫌らしい。でも王子って余り悪いイメージないよな……いや、彼らが嫌なものは嫌なんだ。
「――マキナ様は、こことは別の世界に生まれ変わったら何をしたいですか」
「急にどうされました? ……とりあえず、殺されないようにする、かな」
「邪悪なモンスターのいる所だったら」
「手懐けたい」
スライムの次辺りに出てくるモンスターは微妙な可愛さがあって私は好き。
「生まれ変わってもきっと、何もしない弱小悪役だ」
二人は、今度こそ闇一つない国の王子になる気がする。と言うよりなれ。金ならいくらでも積むから。
そして、可愛らしいお姫様と結婚して、一生幸せな生活を送りそう。ううん、送る。送れ。
「もしそうだったら、私達はきっとマキナ様を守る騎士とか魔法使いでしょうね」
「ん? 私、悪役って言ったんですよ? どう足掻いても悪役、悪女、性悪、邪悪、悪質、そして何より質が悪い」
「だから何だって言うのですか? 私達は貴女に救われている、守られている。それを返すのは何も可笑しくないでしょう?」
可笑しいよ。なんでまた王子が悪役守ってるんだ。可笑しい、凄く可笑しい、笑うこと可能。
「貴女には貰ってばかり、何一つ返せていない。返そうと思った時には貴女は何処かへふらりと行ってしまう」
最近はふらりと逝こうと思っているけどね。離れ難いから地縛霊になることも考えてるけど。
こういうときに限ってノアとヘライトは次々と言葉を紡いでくる。二対一は卑怯。
「まあ、私こそ貴方達に出会えて、役目は全うできてないけど毎日楽しかった」
「……過去形、やめて貰えませんか。また貴女が死ぬみたいじゃないですか」




