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台本を装備した悪役令嬢があらわれた!  作者: ぱつぷぇ
台本の中で狂気を綴ることはできない
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依存心ってどの人にいくらで売れますか?





 マキナ様から貰った温もりを抱きしめて、冷え切った自分の部屋に戻る。



「お前、何持ってんの」



 いつの間にか後ろにいた兄様の声が耳に刺さる。ぬいぐるみを大きな掌が奪う。


 奪い返そうとするも、殴られ蹴られ……マキナ様から貰ったものだけ返して欲しくて口を開くと、



「生意気な奴には仕置き」



 兄様は純粋な悪意を込めてナイフを持つとぬいぐるみの、私の温もりの腹を切った。


 綿が私の頬に触れる。傷のついたぬいぐるみが私の横に転がった。何とも言えない気持ちになった私をまた殴る。


 ……暫くすると、近くでもう一人の兄様の声がした。



「おい、それくらいにしてやれよ。……コイツ、脆いからすぐ死ぬぞ?」


「はーい、分かりました。兄様の優しさに感謝しろよな!」



 何とも雑魚っぽい台詞を吐き捨て、ドアが雑に閉められた。鉄の臭いがする無機質な部屋。


 今まで何も感じなかったのに、何故こんなに寒くて痛いのだろうか。


 考える余地もないくらい頭が痛くなって、意識が暗闇に溶けた。



 ――――どうやら私はあの後、意識を失ったまま一日が過ぎたようだ。こんなこと、日常茶飯事だけど。


 身を清めねばと思い、湯浴み、ではないか……水しか出ないのだから。


 傷だらけで、冷え切っている体に水は毒のようなもので、痛いも冷たいも通り越して熱くなってくる。



「……あ」



 所々にひびの入った鏡に映った私は、珍しく頬に切り傷があった。一応水で洗い流す。


 綺麗にはなったいつも通りの服を着て、誰にも見つからないように私だけが知っている道を通って、城を出た。



 ――城を出た後、街は通らず人の通らないような道を行き、マキナ様の家へ向かう。


 勿論、あのぬいぐるみも持って。隠したまま関わるのは疲れる。それだったら、正直に言いたい。


 でも嫌われるかもしれない。嫌われたら、私はどうやって生きればいいのだろう。マキナ様は「離さない」と言ったけれど、これで嫌われるかもしれない。



「どう謝ろうか……お願いだから、捨てないで」



 馬車に揺られて通った道は、薄く轍を残していた。


 私がもっと強かったら、出来損ないでなければ、こんなことにならなかった。


 傷を隠すように腕で覆う。こんな時でも、ぬいぐるみは温かい。



「――あれ、ノア様じゃないですか」


「っ、は、マキナ様……」


「どうされたんですか?」



 彼女の言葉だけが認識できて、彼女の存在が全てで、彼女の思考が絶対。


 傍から見ればそれをタチの悪い教育とか、洗脳に属するのかもしれない。けど、私が望んでそうなったのだから、何も悪いことなんてない。



「……あ、そのぬいぐるみ……破壊されちゃった?」


「っごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」



 怖い、嫌われたくない、痛い、痛い、居たい。


 マキナ様の反応が怖くて、目を合わせられないでいると、頬を触られる。切るか、叩かれるか、殴られるか、刺されるか。



「手酷く扱って貰っても構いません。だから、私のこと」


「離さないで、でしょう? 貴方達は私のことを信頼してないみたいねえ」



 目を瞑ると、頬をそっと撫でられた。



「ここ、傷あるじゃない!? なんで早く言わないの、痕が残ったらどうするの!」


「……あれ、くま、は?」


「んなの二の次三の次貴方の次! ほら、入って!」


「お嬢様、言われた通りに薬草を……あら? お客様ですか? 紅茶淹れて来ますね!」



 いつもマキナ様の傍にいるメイドが私達を見て愉快そうに笑んだ。きっと、私の思考が読めているのだろう。



 初めて会った時のような速度でマキナ様の部屋へ連れて行かれる。落ち着く香りがする。


 そして私を椅子に座らせ、「少し待っていて」と言うと忙しそうにどこかへ行った。



「……眠くなってきた……」



 気を失ったのと寝たのでは何かが違う。頬が痺れるように痛む。


 自分の部屋とは違い、心の底から落ち着ける。まどろみの中へ入りかけた時、マキナ様が慌てて入ってきた。



「ごめんなさい、遅れて。たまたまイロナに薬草を摘んで貰ってたの。暇すぎて死にそうだから薬でも調合しようかと思って」



「そうだったのですね。邪魔をして、ごめんなさい」


「謝らないで……少し、痛いかも」



 頬に何かを塗られる。少し苦い匂いがする。痛みは余りない。


 処置が終わったあと、私がどうしてこんなことになっているのかを聞いてくれた、心配してくれた。



「帰らないと、いけないんです……そうしないと、王子ではなくなる、から」


「帰りたいなら帰すけど、少しはゆっくりして。


 温かいお風呂に入って、頬と他の部分の傷の処置して、ぬいぐるみ直して……あ、そうだ! 紅茶に合うお菓子があるの」



 私に毛布をかけて、マキナ様のお父様の服を私に渡した。何から何までお世話になっている。



「お父様のことなら心配しないでいいから。疲れが取れたらお風呂入って」


「はい。ありがとうございます」



 やはり私には貴女しかいないようだ。貴女の傍から離れられない、離れたくない、離さないで欲しい。


 毒を克服するためには毒を薄めて摂取すればいい。


 マキナ様の薄く、甘くて、優しい毒はあっと言う間に私の心を支配して、頭から爪先までの神経全てを侵した。



 そんなの恋ではない、依存だ。なんて言う輩がいるかもしれない。確かに依存と恋は別物で、マキナ様に依存している所もある。しかし恋もしている。


 マキナ様の全てが欲しい、私の全てを受け入れて欲しい。貴女の為だったら指の一本や二本、捧げられる。



 貴女の言うことだったらなんでも聞くけど……「婚約破棄したい」とか「離れて」とかは聞けない。聞きたくない。



「ああもう本当……好き、好きです……私の唯一、私の全て……」

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