後日談 ある日のエルムグリン byフィリッツ
「陛下、今日も朝食はこちらで?」
「ああ、午前に謁見が一つ入っているだろう? それの前にざっと終わらせておきたい」
「かしこまりました」
側近ジョセフの問いに答えながら手元のペンを走らせていると、もう一人の側近ルイスが頷き、朝食を用意する為に執務室を出ていく。
「やれやれ、いつになったら夫婦揃っての朝食が食べられるのですかねぇ」
「食べているわっ」
「十日に一度とか、あり得ないですけれどねぇ」
「ぐっ……リルーは分かってくれているからいい」
「そらそうですよ、リルリアンナさまは陛下の事務能力を正確に把握していますからね。たまに廊下で会うと私達が持っている書類を見て取捨選択してくれますしねぇ」
「なっ! 国防のじゃないだろうな」
「あの方はちゃんと心得ていますよ、当たり障りないものを見てパパッと仕分けて下さるだけです」
驚かせるなよ、と、フィリッツは立ち上がりそうになった身体を元に戻した。
リルリアンナは非情にならなければならない案件に弱い。どうしても話さなければならない事でなければ、なるべく触れさせたくないとフィリッツは思っている。
「リルリアンナさまでしたら中庭で見かけましたよ? お呼びしましょうか?」
お待たせいたしました、とルイスが執務室に入ってくるとサイドボードにパンを置きながら告げてくれた。
いや、いい、とフィリッツは片手でパンを握りながら黙々と食べる。
「そのちょっとの時間を融通しないから、すれ違いがはじまるのですがねぇ」
「分かってもらえていると思っているのはご本人だけ、とかですね」
「仕事仕事と妻をかえりみない、そんな夫、こちらから願い下げですよねぇ」
「本当に」
「お前ら、夫婦になった事もないのに知ったように言うなっ!」
フィリッツが水でパンを流し込みながら噛みつくように言うと、ジョセフはおや、と片眉を上げた。
「熟練の侍女方のありがたいお話を無下にしてはいけませんよ。ねぇ、ルイス殿」
そうですね、とルイスもお茶を差し出しながらすまして応じる。
「おそれながら申し上げますが陛下より我らの方が女性への時間は作っておりますよ」
「そうそう、そういう事」
「お前らいつの間に……」
ぽかんと側近二人を見ている主人を尻目に、ジョセフはフィリッツの手元にある書類を片付けていく。
「お、おい、まだ目を通していない」
「時間切れですよ、これは午後からにしてくださいねぇ」
ジョセフに呼応したようにルイスもサイドボードの朝食を片付けていく。
「おいっ、まだ全部食べてないっ」
「そろそろ行かないと中庭からお部屋へ戻ってしまいますよ。昼食は多めに頼んでおきますから」
はい、行った行ったとでも言うように目の前にあった雑多なものがなくなった。
「お前ら……」
フィリッツはぐしゃぐしゃっと前髪を掻き上げると羽ペンを机の上に放り投げた。
「後で滞ってうなっても知らんからな」
そう捨て台詞を吐いて執務室を出る。
唸るのは私達ではなく、とか、陛下ですからねぇ、とか後ろからの耳障りな声が聴こえてくる前にバタンと扉を閉めた。
執務室から少し歩いて中庭にある回廊へと進むと、階下にリルリアンナの背中が見えた。フィリッツは思わず手すりから身を乗り出す。
「リルー!」
驚いたように振り返ったリルリアンナが右に左に自分の姿を探したので、こっちだ、と声を張るとすぐに顔を上げた。
遠目ながらも嬉しそうにこちらを見る顔に、フィリッツも自然と顔がほころぶ。
「今、行く」
そう告げるとフィリッツは身をひるがえした。きっとベリーを取りに来たのだろう。
普段はあまり見ないゆるく結い上げた髪を脳裏に焼きつけながら、今日は例のババロアと格闘するんだな、と可愛い妻の奮闘を思い頬をゆるめた。
以前に金野文さまからFAを頂いておりまして、見上げている可愛いリルーを見たフィリッツを書きたいと思っていました。
甘々までちょっと書けなかったので、ベリーを一緒に摘んでるシーンをいつかまた書きたいです。
本日は元旦ということで、サプライズお年玉SSでした。
2019年、皆さまにとって良い年になりますように。
2019.1.1. なななん
追記
FAを下さった金野文さまが退会されたので、頂いたイラストを下げさせて頂きました。ご了承ください。
いつかまた、お会い出来ることを願っております。
2019.1.30 なななん




