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学園一の清楚聖女(実は重度のゲーマー)、ネトゲで煽り散らしていた相手が俺だと知って学校で震えている  作者: 古沢樹


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6/11

聖女のお弁当

 季節が秋へと移り変わる頃――とある昼休み。


 契約以来、旧校舎の備品保管庫は、俺たちの定例会議の場となっていた。


 ガタゴトと立て付けの悪い扉が開き、白雪零奈が入ってくる。


 彼女は周囲を警戒するように素早く扉を閉めると、深くため息をついた。



「……はぁ、疲れた。こんなに笑顔を振りまいてるんだから、一時間につきダイヤ一万個くらい配布してほしいものだわ」



 毒を吐きながら、彼女は持っていた風呂敷の包みを俺の前に置いた。



「はい。今日の分の『契約の報酬』よ。感謝しなさい」


「待ってました!」



 俺が中身を取り出すと、そこには重厚な二段重ねのお弁当箱が入っていた。


 蓋を開ければ、艶やかな白米の横に、彩り豊かな野菜の肉巻き、厚焼き玉子、ハンバーグといった料理がぎっしりと詰められている。



「いただきまーす」



 俺は割り箸を割り、さっそく肉巻きを一口運んだ。


 向かいに座る白雪がチラチラとこちらの様子を伺っている。



「……ど、どう?」


「うん。うまい!」



 柔らかい肉と、野菜の甘みが口に広がる。


 流石、上流家庭のお弁当だ。


 我が家で食べている料理とは食材のレベルが違う。



「ふふん、当然よ。せいぜい味わって食べなさい」



 白雪はホッとした様子で、自分の弁当を食べ始めた。


 秘密を守るだけで、プロの作った料理を毎日食えるのはありがたい。



「……でもこの弁当、少し味が変わったような……?」


「え」



 俺の言葉に白雪がピタリと箸を止めた。


 この弁当も十分美味いのだが、契約の当初は、もっと味のクオリティが高かった気がする。


 今日の玉子焼きは少し焦げているし、照り焼きチキンは妙に甘ったるい。


 だが量だけはやたら多いときた。


 それはプロの料理というより、素人が一生懸命に作ったような感じだった。



「これ、本当にお前の家のシェフが作ったのか?」


「…………そうよ」



 彼女の声が少しうわずる。



「……じゃあ、その手はなんだよ?」



 俺の視線の先、白雪の指には絆創膏が何枚も貼られていた。



「こ、これは……」



 白雪は言葉を詰まらせるが、やがて観念したように白状する。



「……本当は……作り方を教わって、私が作ったわ……」



 語尾が消え入りそうになる。


 学園の聖女が早起きして、地味な男子のために弁当を自作する。


 その事実がどれほど異常なことか、彼女自身が一番理解しているのだろう。



「ありがとな」


「っ……」



 すると白雪は顔を逸らしながら食べかけの弁当をしまうと、さっさと自分のスマホを起動させる。


 彼女の耳たぶが、急いで来たせいか、それとも別の理由か、少しだけ赤くなっていた。



「い、いいから早く食べなさいよ! 食べ終わったら昨日の対戦の続きをやるんだから!」



 彼女は照れ隠しのように、ものすごい勢いでフリック入力を始めた。


 画面の中のセイント・レイが、意味もなく激しく反復横跳びを繰り返している。



「なぁ、白雪。これ、俺が好きな海老フライが3本も入ってるな」


「っ、そ、それはたまたま余ってただけよ! あんたの好みなんて一ミリも興味ないから!」



 そう言う彼女は、いつもゲームの合間に俺が漏らした他愛もない世間話を、驚くほど正確に記憶していた。


 俺は黙って、彼女の『契約の報酬』を胃に収めた。


 手作りの味は温かく、コンビニのパンでは得られない活力が体に満ちていく。



「……ご馳走さまでした。よし、じゃあ始めるかセイント・レイさん」


「やっとね。今日は容赦しないから、覚悟しなさいクソ無課金」



 向かい合ってスマホを構える。


 不敵に笑う白雪の顔は、すでに「煽りカス」へと変わっていた。

次の更新は7日の予定です。

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