エピローグ
あの「伝説の学園祭」から一週間。
プロを圧倒した「天才ゲーマー」として佐藤カズキの名は瞬く間に広まっていた。
「ねぇねぇ、佐藤くん。私にも『アスファン』教えてよ」
「おい、星野、俺が先だって!」
周囲は賑やかになったが、当の本人は相変わらず窓際の席で、のんびりとスマホを眺めている。
だが、ただ一つ、決定的に変わったことがあった。
それは……
「――あら、佐藤君。またそんな隅っこでゲームですか?」
教室の入り口から、陽光に照らされながら白雪零奈が現れた。
彼女は迷いのない足取りでカズキの机へと歩み寄る。
「さあ、明日のテストの予習をしますよ。……皆さん、ゲームの話はまた今度にして下さいな」
彼女は群がるクラスメイトを聖女のオーラで退けると、優雅に椅子を引き、カズキのすぐ隣に座る。
その距離は、以前の「指導」よりも明らかに、拳一つ分ほど近い。
「……白雪さん。あまり近づくと、変な噂が立つぞ」
「あら、構いませんわ。私たちが極めて健全で、親密な協力関係にあることは事実ですもの」
白雪はそう言って、クラスの誰にも見えない角度でカズキの脇腹を軽く突いた。
「(放課後、いつもの場所へ。……今日は新レイドの、二人専用難易度が解放される日よ。遅れたら承知しないから)」
その囁き声は、かつての毒々しさを含みつつも、どこか甘い熱を帯びている。
カズキは溜息をつきながら、手元のスマホを操作した。
『わかったよ。……その代わり、明日の弁当はエビフライを入れてくれ』
「(……ふん。強欲な無課金ね。検討してあげなくもないわ)」
白雪は悪戯気に微笑み、ノートを開く。
彼女の横顔には、以前のような「演じている重圧」はなかった。
今の彼女にとって、この学園生活はもう窮屈な檻ではなく、カズキと共に遊ぶための「フィールド」へと変わっていた。
◇ ◇ ◇
――そして、放課後の旧校舎。
黄昏に染まる備品保管庫で、二つの端末の起動音が重なる。
「……準備はいい、カズキ。世界一の聖女様が最高効率でバフしてあげるわ」
「ハッ、世界一の煽りカスが、どの口で言ってるんだか」
「なんですって……っ! あーもう、あんたは本当に一言余計なのよ!」
白雪は憤慨しながらも、カズキと肩が触れ合う距離まで椅子を寄せた。
スマホの画面の中では、漆黒の剣士と白銀の聖女が、誰よりも息の合った連携で敵をなぎ倒していく。
「……ねぇ、カズキ」
「んー?」
「今度の日曜日、時間ある……?」
白雪はゲームをプレイしながらも、チラチラとカズキの様子を伺っていた。
「たぶん大丈夫だけど。アスファンのイベントだっけ?」
「ち、違うわよ。あのね……えっと……」
彼女は一度言葉を切ると、意を決したように本題を打ち明けた。
「……実は、私のお母さんとお姉ちゃんが、カズキに会わせろって……」
「は!?」
予想外の展開に思わず固まってしまう。
「ふたりとも……私とあんたが付き合ってると思ってて……」
「な、なんでだよ!?」
確かに最近いい雰囲気だけど、まだ付き合ってはないぞ。
「……毎日、二人分のお弁当作ってたら、そう思うでしょ……」
「あー……」
言われてみれば、勘違いされても仕方ない関係性だった。
「えっと、もし断ったら……?」
「……ふたりの性格だと、カズキの家に押しかけるでしょうね」
「そ、それは困る……!」
いきなり芸能人が来たら、ウチの両親と妹が気絶しかねない。
こうなったら、覚悟を決めるしかなさそうだ。
「じゃあ、決まりね。日曜日はちゃんとジャケット着て来なさいよ」
「あ、ああ……分かった」
今更ながら、世間での白雪との身分の違いを自覚する。
「……でも、これってなんか、結婚の挨拶みたいだな」
「けッッ……!? ばっ、ばか!! 急に何言ってるのよ……っ!! 順番ってもんがあるでしょ……っ!? わ、私たちまだ、きっ、きき……キス、とかもしてないのに……っ」
隣に座る白雪が、真っ赤になってジタバタと暴れている。
その様子を見て、思わず笑ってしまう。
「(……ま、コイツと一緒ならゲームもリアルも何とかなるか)」
学校では、高嶺の花と地味な男子。
ネットでは、無課金の魔王と重課金の聖女。
けれど、そのどちらでもない「本当の二人」の時間は、まだ始まったばかりだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
これからも、連載や短編など投稿していく予定ですので、よろしくお願いします。




