49 地下の花壇
俺たちの作った『精霊の光』というLED照明は大いに喜ばれた。
実際に設置されて明るさを確認したのだが菜園として十分機能すると思われる。
『精霊の光』は十分にあったので、地下の空き部屋を使った菜園以外にも子供たちの遊び場などに設置された。昔に比べて住民の数が減っているために使っていない部屋も多いようだ。
それでも、ただ光があるだけでは菜園にはならない。急遽、神社が管理している農園の土を運び込むことになった。だが、これはこれで大変な話だ。
『大丈夫です! 三鈴があります』
紫雲が自信を持って宣言した。
そうだった。重機モードの三鈴を持った巫女が三人もいるんだった!
紫雲の言う通り、巫女三人の三鈴によって必要な土はあっという間に菜園予定の部屋に運び込まれたのだが、ここでも三鈴の予想外の力が発揮された。
地下シェルターは地下50mの深さにある。この深さまでの階段は約300段ほどあるのだが、ここを通って農園の土を運ばなければならない。普通は重機でも無理だ。だが三鈴の場合は土をまるでシルバースネークのようにして運んだ。
しかも、空間に浮いているので階段に悪影響もない。
「シルバースネークよりも魔物っぽいわね」
「先頭に巫女が浮いてるから安心できるけどな」
「まるでエスカレーターだな」
三鈴エスカレーターモードか?
てか、これ使えば巫女は空を飛べるんじゃないか? 少なくとも低空なら行けそうなんだけど?
まぁ、飛ぶというより透明な階段に乗っている状態なので大分違うけど。
* * *
『菜園づくりだけでも普通は間に合いません。本当にありがたい話です』
菜園づくりの指示を出していた菅野宮司が戻ってきて言った。
三鈴によって運び込まれた農園の土は、既に移住が始まっている住民の手によって耕されている。誰もが楽しそうに作業している様子を見ると宮司も思わず笑顔がこぼれるというものだ。
住民たちからも感謝の言葉が飛んできた。
『巫女様~、ありがとう御座りまする』
『このような素晴らしい贈り物、ついぞ見たことありませぬ』
『本当に精霊がいるような、神々しい光ですね!』
『こ、これは神が降臨されるときの後光では?』
『しかも、神々自ら我らに分け与えたと聞きましたぞ』
『さもあらん、見たことのない神器がついてますからな!』
一部、誤解があるようだけど?
それでも、俺たちの存在を知ってて、わざわざ神社言葉で話してくれているらしい。言葉がちょっと微妙なのは致し方ない。
てか、俺たちが作った話も漏れているのか。1日かけて半田付けした甲斐があったというものだ。
「ほんとよね。こんなに喜ばれるなんて」
住民の声を聴けて荻野も嬉しそうだ。俺たちは普通は神職としか話さないからな。まぁ、特に決められているわけではないが。
あと、見たことのない神器というのは、たぶんLED照明につないでいる魔石入りの電源ボックスだ。スイッチが付いていて朝になったら住民に切り替えてもらう必要があるから、みんなに説明したのだ。
もちろん、一番喜んでいるのは子供たちだ。毎年のこととはいえ、相当ストレスになっていたんだろう。明るい広場を走り回っている様子は、地球の公園と大差ない。
「早く花壇ができればいいね!」
「そうだな。娯楽は絶対必要だよな」
「でっかいプロジェクターを送りたいくらいだが、さすがにちょっと無理か」
乙羽の気持ちはわかる。
だけど、急にそれは止めたほうがいい。カルチャーショック起こしそうだからな。
いずれにしても、初めて住民と接触して喜んでいるのはむしろ俺たちだった。
* * *
LED照明が思いのほか好評で開発室の俺たちもいつになく明るい雰囲気だった。
「ただ、これだけだとちょっと足りない気もするな?」
乙羽はまだ満足していないようだ。
「そうかな?」
「サラダが食べられるのは、とっても喜んでたわね!」
「いや、そりゃそうなんだが」
乙羽は腕を組んで考え始めた。
そうそう、名案は浮かばないよな?
「三鈴、何か案はある?」
俺は何気なく聞いてみた。もういつもの癖かもしれない。
-はい、もちろんです。次元フィールドを神社の上空に展開してバリアにすることができます。
マジか! そんなこと出来るんか!
三鈴AIが直径10mで神社の上空に次元バリアを作れると言い出した!
「それ、最高じゃん!」
「うん、本当なら凄い!」
「次元フィールドなら安心だしな!」
-巫女が三人いれば、十分な広さを確保できるでしょう。
なるほど。ひとりじゃ半径10mだけど、三人が分散すれば更に広くカバーできるのか!
そういや、Webカメラのそれぞれに魔石を二個ずつ付けてるから、全部使えばかなりのパワーがあるな!
「じゃ、次の対策会議で提案しよう!」
「そうね!」
これで、さらに効果的な星降り対策を提案できる!
「けど、次元バリアで十分だと思うか?」
乙羽は、これでもまだ足りないという。
「シェルターを護るには十分じゃないか?」
神社と、その下のシェルターのほぼ全てをカバーできる筈だ。
「シェルターはな。ただ、街の住宅地は護れないぞ」
「そうよね。あと農地もね」
大きなクレーターを作る1m級の隕石が沢山落ちてくるとは思えない。だが、今年は菅野宮司が心配していたように特例になるかもしれないからな!
「1mクラスの隕石が何個も落ちてくるってことよね」
「たぶんそうなる。それを何とかできればいいんだが」
なんとかって、なんだ? 乙羽は、そこまで要求するのか!
でも、隕石をなんとかするって言えば?
「直接撃ち落とすとか?」
まぁ、無謀な提案だとは思うけど。
「それが出来れば最高だがな」
だよな。普通出来ないよな。
「う~ん、隕石のエネルギーと同等のエネルギー弾が必要になる筈」
乙羽も本気で検討しているが無理っぽそうだ。
「三鈴、魔動機関砲じゃだめかな?」
-可能性はほとんどありません。
だめか! 三鈴AIにダメだしされてしまった。うん?
「『星降り』は元から軌道上にある隕石群だから、相対速度はほとんどないんじゃないか? 落下速度は普通より遅いかもよ?」
地球で言うところの流星の隕石は、彗星の残したゴミなどで地球の軌道とは大きく異なっていることが多い。隕石の突入速度はそれを含めた平均値で言われる。しかし、隕石の種類を限定すれば事情は違ってくるだろう。
-その場合でしたらコイルガン機関砲で迎撃できる可能性はあります。
やっぱりな! AIは平均的な回答するからな。
「おおっ!」
「ほんとに?」
「可能性キタこれ」
AIというものは平均的あるいは常識的な回答をしてくる。
つまり、定番だ。だが、それは一つではない。何処の定番なのかによって内容は異なってくるからだ。地球の日本の定番なのか? 異世界の定番なのか? あるいは天ヶ崎村の定番なのか?
そうなのだ。AIには正しく状況を設定してやらないと、本当の定番の答えが得られないのだ。
もし三鈴AIから正しい回答を得たいのなら、俺は天ヶ崎の事情をもっと三鈴AIに伝えなければならないだろう。




